2009年8月のグーグル検索画面(日本語版)と当時のロゴ。10年以上の月日が流れ、グーグルという企業にもさまざまな変化があった。
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- シリコンバレーの企業のなかでこの10年最も変わったのはグーグルだ。過去のウェブサイトをふり返るとそのことがよくわかる。
- 2009年当時のウェブサイトを見直してみた。フルタイムの従業員が2万人の時代だ。今日では12万人まで増えている。
- 「グーグルは従来型の企業とは違う、また従来型の企業になることを望んでもいない」とうたっていたのは10年前のこと。しかし、従業員たちはグーグルがいわゆる大企業になってしまったと口をそろえる。
この10年でいろんなことが変わってしまった。2009年頃のグーグルのウェブサイトを見直してみるとよくわかる。
過去10年間のシリコンバレーで最も大きな変化を遂げた企業は、ほぼ間違いなくグーグルといっていいだろう。実際、グーグルはいまやグーグルの全責任を負う存在ではなく、親会社アルファベット傘下の事業会社になっている。
企業としての構造が変わっただけでなく、規模も大きくなり、企業文化も劇的に変化している。最新の数字(2019年末時点)で、アルファベット全体のフルタイム従業員は12万3048人。2009年当時は約2万人にすぎなかった。
2009年のサイトに書いてあったこと
過去のウェブサイトを閲覧できるツール「ウェイバック・マシン(Wayback Machine)」で時をさかのぼり、グーグルの過去の企業情報ページを見てみると、10年以上の月日を経てグーグルがいかに変化したかが見てとれる。
「グーグルは従来型の企業とは違うし、また従来型の企業になることを望んでもいません」
2009年の「ライフ・アット・グーグル」のページにはそう書いてある。
「たしかに、私たちグーグルは世界で最も成功をおさめた企業と同じ特質を共有しています。すぐに思い浮かぶのは、イノベーションへのフォーカスやスマートなビジネスプラクティス。ただ、私たちがいかに成長を続けたとしても、スモールカンパニーの精神は決して失わないことをここに明言します」
しかし、従業員の多くは、グーグルがいつまでも持ち続けたいとうたった「スモールカンパニーの精神」がすでに失われ、必然的に大企業のカルチャーに飲み込まれてしまったと考えている。
共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは2019年に経営から正式に身を引き、そのときグーグルのある時代は終わりを告げた。
グーグルの共同創業者、ラリー・ペイジ(左)とセルゲイ・ブリン。2006年5月の記者会見にて。
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ただ、すでにその数年前からグーグルの企業文化は変わり始めていたようだ。「2018年が大きな転換点だった」とある関係者は指摘する。
グーグルの過去のウェブサイトには「グーグルで働く10の理由」というリストが掲載されている。
「グーグルで働く10の理由」リスト。「仕事と遊びは共存できる」といった項目がみえる。
Screenshot of 'Wayback Machine' website
そのいくつかは今日もまったく変わらず生きている。とりわけ給与以外の特典、つまり福利厚生の手厚さと多様さは、グーグルに優秀な人材を引きつけるマグネットとして機能し続けてきた。
ただし、そのほとんどは、新型コロナウイルスによる在宅勤務シフトによって意味をなさなくなってしまったけれども。
グーグルは2009年時点ではその福利厚生の手厚さを誇っている。しかし今日、グーグルは契約社員や業務委託、ベンダーら縁の下の巨大な労働力に支えられており、その数はフルタイムの従業員を上回り、そうした外部スタッフの多くは同等の福利厚生の恩恵は受けられない。
「邪悪になるな」
グーグルの2009年当時のフィロソフィー・ガイドライン。「グーグルが正しいと考える10のこと」が並ぶ。
Screenshot of 'Wayback Machine' website
グーグルのフィロソフィー・ガイドラインを読むと、すでに過去の話になりかけていることが多い。
例えば、「悪事を働かなくともお金は稼げる」はそんなフィロソフィーのひとつ。「邪悪になるな」というフレーズのほうがよく知られている。しかし、グーグルは2018年にこの標語を削除し、いまや行動規範の序文にも登場しない。
また、グーグルがかつて検索順位の決定(=ウェブページの重要度の決定)に使っていた「ページランク」技術について、どんな説明をしていたかを見ておくのも興味深い。
「グーグルが正しいと考える10のこと」の4番目(赤枠)に「ウェブ上でも民主主義は機能する」がみえる。
Screenshot of 'Wayback Machine' website
フィロソフィー・ガイドラインの4番目「ウェブ上でも民主主義は機能する」の項には次のように書かれている。
「この(ページランク)技術は、ウェブが広がっていくにつれ、新たなサイトがそれぞれに情報を提供し、人気と信頼を得ていくにつれ、改善されていく」
ところがその後、グーグルのテクノロジーは異常なほどの成長を遂げ、いまやその独占的な立場を利用してオンライン検索・広告事業で利益をあげているとして、複数の自治体などから反トラスト法違反(日本の独占禁止法に相当)で訴えられる可能性もある状況だ。
ガイドラインにはこれ以外にもグーグルが変わってしまったことを浮き彫りにする言葉が散りばめられている。ぜひご一読をおすすめしたい。
2008年11月、ウェブブラウザ「Google Chrome(クローム)」を発表した当時のスンダル・ピチャイ(当時バイスプレジデント、現在はCEO)。
REUTERS/Kimberly White
特に、グーグルの経営陣の顔ぶれはすっかり変わってしまった。リストにあがっている名前が違うのはもちろん、企業の構造自体が変わってしまっている。
リストをよく見ると、いまもスンダル・ピチャイCEOの直属の部下として会社にとどまっている古株の名前がいくつか残っていることに気づく人もいるかもしれない。
(翻訳・編集:川村力)