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論理的思考だけではビジネスに限界、アートで身につく「5つの力」とは?

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いま、ビジネスパーソンの間でアートへの関心が高まっています。東京国立近代美術館では昨年6月から、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を著した山口周さんと共同で「Dialogue in the Museum-ビジネスセンスを鍛えるアート鑑賞ワークショップ」を開催(Business Insdier Japan編集部注:新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、現在は休止中)。1人2万円という高額にもかかわらず、毎回盛況を博しているそうです。

これまであまり結びつかなかったアートとビジネスの融合は、ビジネスシーンになにをもたらすのでしょうか。なぜいまアートなのか、ビジネスパーソンはアートからなにを学べるのか、同美術館の渉外・広報担当・滝本昌子さんと、教育普及担当の学芸員・一條彰子さんにお話を伺いました。

論理的思考だけではビジネスが立ち行かなくなっている

——ビジネスパーソン向けのアート鑑賞プログラム『Dialogue in the Museum』を始めることになった経緯から教えてください。

東京国立近代美術館

滝本 いまは美術館で渉外広報担当として働いている私ですが、以前は食品メーカーで働いていたことがありました。その時に感じていたのは、ビジネスの現場でなかなかヒット商品・サービスが生み出せなくなっているということ。

昔は世の中にたくさんの課題があり、その課題を解決する中で新しい商品・事業・サービスが生まれ、経済が伸びていました。けれども、世の中がとても便利になり、モノや情報であふれた結果、どういう商品を作って、どういうサービスを展開すれば世の中の人に受け入れられるのかが分からなくなっているように思います。

ビジネスの現場ではこれまで、市場をリサーチし、数字を分析して、課題を見つけて、それに対する解決策を見いだして……という論理的思考が強く求められてきました。ところが、そういう思考だけではもはや答えが出てこなくなっている。感性とか感覚、発想力といったものがどんどん必要になってきていると感じます。

ヒット商品を生み出している人にはもともと、ひらめきやセンスのある人が多かったと思うのですが、そういう能力の開発ってなかなか難しいですよね。本を読んだからといって、ある日突然できるようになるものではない。どうやったらそこを磨いていけるのかというのは、おそらく多くのビジネスパーソンが悩んでいるところではないかと思うんです。

——おっしゃる通りだと思います。

滝本 そんな時、たまたま縁があって美術館で働けることになり、そこで「対話鑑賞」という鑑賞方法があることを知りました。対話鑑賞についての詳しいことは、後ほど学芸員である一條から説明があると思いますが、これがすごく思考を活性化させるんです。

左脳でただ論理的に考えるのではなく、自分の過去の経験や感性、感覚など、いろいろなものを総動員する。私は実際に体験してみて、すごく創造的な思考のプロセスだと感じました。これをビジネスの現場に提案できれば、ビジネスパーソンの能力開発につながっていくのではないかと思い、館の中で「ぜひやりたい」という話をしました。いまから約3年前のことです。

ただ、そうは言っても、私たちは美術館のことは分かっても、ビジネス現場の詳しいことまでは分かりません。どうやってそれを組み立てればいいのかで、しばらくは試行錯誤を続けていました。

その中で出会ったのが、今回特別講師をやっていただいている山口周さんでした。山口さんもちょうど同じようなことを考えていらして、実際に対話鑑賞を体験されたら「これはいいんじゃないか」ということになって。プログラムの開発から一緒にやっていただけることになりました。

こうして昨年6月にスタートしたのが『Dialogue in the Museum』。昨年度は3回開催し、今年度も3回の開催を予定していました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、当面の間中止していますが、再開が決まりましたら東京国立近代美術館ホームページにてお知らせいたします。

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——東京国立近代美術館に限らず、いまビジネスパーソンの間でアートがブームになっていますね。

一條 最近のビジネス書や雑誌の特集でアートが取り上げられているのには、3種類の流れがあると思います。

一つ目は、教養として役に立つという文脈。「欧米のトップと話すのに絵の話が出たら困るでしょう? 印象派とはなにかと問われて答えられますか? ちゃんと勉強しましょうね」というような。

二つ目は、投資としてのアート。現代美術はものすごく値がつり上がっています。コロナなどでいろいろな資産の価値が下がっていくと、一層アートへの投資熱は加熱するとも考えられます。

そして三つ目が、考えるためのアート。自分を成長させるため、自分の感じ方・考え方を外に開いていくきっかけになるようなもの。これが私たちのやろうとしていることです。

知識はいらない。自分の目で観察し、感じたことを言葉にする

——『Dialogue in the Museum』は、どういった内容のプログラムなのでしょうか?

一條 当館には常勤の学芸員が14人いるのですが、私はこのうち教育普及担当の学芸員です。一般に学芸員と聞くと、展覧会を企画したり、コレクションを購入・管理したりする役割をイメージすると思いますが、美術館には私のような教育普及担当の学芸員もいます。

日本ではまだ少ないものの、欧米の美術館には教育部や学習部といった名称で、教育を担当するかなり大きな部署を抱えているところも多いです。もともとは子供向けの教育から始まったところが多いのですが、いまはより広く、その美術館のコレクションを多様な層につなげていくコミュニケーションの役割を担っています。

当館でももともとは小中学生向けの教育から始まりましたが、2003年からは一般の人向けに毎日予約なしで参加できる「対話鑑賞プログラム」を始めました。これは、1980年代にアメリカの教育現場で始まったヴィジュアル・シンキング・ ストラテジーズ(VTS)と呼ばれる鑑賞法をベースに、当館向けにアレンジしたもの。その特徴はまず、解説ではなく対話だという点にあります。

対話する人

一條 美術館内のギャラリーで1時間のプログラムを行うと言うと、普通は「これはこういう作品です」と専門家が解説して回るガイドツアーを思い浮かべるのではないでしょうか。当館の対話鑑賞にも進行役はいますが、作品の説明からは始めません。

そうではなく、「まずは作品をよく見てください」「この作品を見て、あなたはどんな気持ちがしましたか?」「なにが見えますか?」「気になることはありませんか?」と参加者に対して聞いていく。そのため、参加者は絵についての情報を得る前に、自分の目で観察して、感じたことや見つけたことを言葉にして発することになります。

なおかつ、参加者は複数なので、別の参加者の発言を聞くことで「ああ、そんなことが描いてあったのか」「同じものを見ていても受け止め方が違うんだな」などと、いろいろなことに気づいていきます。そうやって、参加している人たちみんなで作品の解釈を作り上げていくんです。無料で誰でも参加できるこのプログラム『所蔵品ガイド』を当館では毎日午後2時から1時間、18年間に渡ってやり続けています。

このプログラムでファシリテーターを務めるのは、現在40人いる「ガイドスタッフ」というボランティアです。ガイドスタッフは対話鑑賞に必要なスキルをトレーニングによって身につけており、また定期的にスキルチェックも行っているので、当館の対話鑑賞の手法に則ってしっかりとプログラムを進行できます。このガイドスタッフをそのまま使って、プログラムをビジネスパーソン向けにアレンジして作ったのが『Dialogue in the Museum』です。

『Dialogue in the Museum』のプログラムは主に二つのパートから成ります。前半の75分は、参加者がギャラリーで対話鑑賞を体験する時間。30人の参加者は5人1組の6つのグループに分かれ、ガイドスタッフのファシリテートで3つの作品を見ます。

——75分で3作品。かなり贅沢な時間ですね。

一條 でしょう? ラグジュアリーと言っていただいていいくらいだと思います。作品の前に椅子を置き、みんなで座り込んで、一作品につき20~30分かけてじっくり見るんです。

参加者はビジネスパーソンなので、絵を見るのが好きな人もいれば、まったく苦手という人もいます。ですが、このプログラムでは、その人があらかじめ知っている美術史的な情報の量はほとんど関係がありません。目の前にあるはじめて見る作品を自分で観察して、見たこと・感じたことを自分で言葉にして、また人の言葉を聞きながら、解釈を深めていくのが対話鑑賞です。

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このギャラリートークでは、山口さんとともに作った三つのグランドルールを守るようにお願いしています。まず、キャプションや解説パネルを見ないで、絵をよく見てくださいということ。次に、見て思ったことはなんでも口にしましょうということ。そして、他人の言葉を否定しないでくださいということです。この三つのルールを守って、みんなでじっくりと絵を見ていきます。

進行役のガイドスタッフは、参加者の発言を促し、発言同士をつなぎ、その作品の核に迫れるような問いを少しずつ出していきます。必要があれば少しだけ作品情報を言うこともありますが、それは教えるというより、ディスカッションを活性化させる触媒を投入するイメージです。新たに投入された事実が刺激となって、参加者による解釈は深まり、また疑問も深まっていきます。

対話鑑賞で身につく5つの力

——作品の見方は人それぞれ。一方で先ほど「みんなで作品の解釈を作り上げていく」とおっしゃっていました。この二つの関係について、もう少し詳しく伺えますか?

一條 例えばこの絵を見てください。なにが見えるでしょうか。

クォ・ヴァディス

北脇昇 《クォ・ヴァディス》 1949年 東京国立近代美術館蔵

真ん中に男の人がいます。足元になにかが見えますね。遠くにもなにかが見える。「小さいからなんだかは分からないが、私はこう思う」という人もいるでしょうし、「そうではなく、私にはこう見える」という人もいるでしょう。さらに「この男の人はなにを考えているのだろうか」「右に行くのだろうか、左に行くのだろうか」……。対話鑑賞では、このようにして話がどんどんと進んでいきます。

そこにちょっとした事実として、ガイドスタッフが「この作品は1949年に制作された」という情報を投入します。

すると「ああ、じゃあ終戦後だよね」「確かに服を見ると復員兵のように見える」「これって当時の日本の状況を描いているのでは?」と解釈が深まっていく。左側に見える帯状のものは行列を描いたものなんですが、よく見ると赤い旗が描かれていることも分かります。そこから「これはデモで、戦後の共産主義の台頭を示しているのかもしれない」などと、その時代の知識を持っている人は結びつけて考えることができます。そして、それをまたみんなでシェアをする。

ただし、「これがなんのために描かれた絵なのか」という問いに対する"正解"はありません。作者自身もそのような説明はしていない。アート鑑賞が面白いのは、この「正解がない」という部分だと思うのです。だからいろいろな解釈が生まれ得るし、多様な意見が歓迎される。

「今日の私にはこう見えた」で終わっていいんです。5年後、10年後に同じ絵を見た時には、また違った解釈が生じることもあります。対話鑑賞という形で作品と対峙すると、こうした面白いアートとの付き合い方が生まれます。これは、作品情報をただ覚えるというアプローチをしていたのでは、絶対に起こらないことです。

終了後のアンケートで皆さんが言われるのは、まずは「一つの作品にこんなに時間をかけて見たことがなかった」ということ。そして、自分が気づかなかったことを誰かに教えてもらったり、自分は「こうだ」と思ったものについて誰かが別の見方をするのを聞いたりすることで、「いままでの自分は見ているようで見ていなかったのだと気づかされた」と言う方は多いです。

一人ではなく、みんなで見たほうがよく見える。自分が持っていたのとは違う考えを持つ人がたくさんいるという多様性に気づき、しかもその多様性に対してウェルカムになれる。「一人では見られなかった」「みんなで見たからこれだけ見られた」「違う意見がすごく貴重だ」と皆さんおっしゃいます。

いろいろな不思議な点を見つけて「これはなんなんだろう?」と考え、解釈していくわけなので、正解を探るというよりは、見えているものの中から問いを見つける力が求められますし、考えたことを伝えるための表現力やコミュニケーション力なども必要とされます。皆さん、こうした体験に衝撃を受けて帰られるようです。

——確かに今ビジネスで必要と言われる能力と通じるように思えますね。

一條 ギャラリートークが終わったら、ミーティングルームに戻ってみんなで振り返りをして、その後、山口周さんがいまやったこと、絵を見ることがビジネスになぜ必要なのかを70分くらいかけてお話しされます。

山口さんはこの中で、アート鑑賞によって五つの力が鍛えられるとおっしゃっています。一つ目は「見る力」。二つ目は「感じる力」。三つ目は「言葉にする力」。四つ目は「多様性を受け入れる力」。そして最後の五つ目が、山口さんが著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でおっしゃっている「美意識」です。

山口さん

いま、東京大学でも東京藝術大学と連携したアートのカリキュラムがスタートしています。教育における美術の役割は、かつての小中学生向けの情操教育というところからどんどん大きくなっていて、将来ビジネスを引っ張っていくエリートに必要なものだという認識に変わってきているんです。

冒頭に滝本がお話ししたようなビジネスの現況を考えると、山口さんのおっしゃる五つの力を鍛えることがビジネスパーソンにとって不可欠であり、美術鑑賞がそれを養う有効な手法であるという流れは、今後一層強くなっていくと思います。

——とはいえ、こうした能力は一回講座に参加しただけで身につくものではない気がするのですが?

一條 おっしゃる通りで、今日3時間半のプログラムを受けたから鍛えられた、スキルが身についたという即効性のあるものではありません。

まずはアートが面白いものであると知り、自分のビジネスを変えていくきっかけにしてもらうというのが、このプログラムの主旨。ですから、その後も続けていろいろなアートに触れるとか、アートについて人と話してみるとか、そういうことを続けていってほしいと山口さんもおっしゃっています。

ただ、例えば社内の会議に『Dialogue in the Museum』の三つのグランドルールを適用してみるなど、「すぐにでも実行できそうなヒントが得られた」とおっしゃる参加者の方も少なからずいらっしゃいます。

ガイド≒マネジャー。不可欠な「聴く力」

——先ほどおっしゃっていたガイドスタッフのトレーニングについても伺いたいです。というのも、人の意見を引き出し、それをつないで価値に変換するファシリテーターの能力は、まさにこれからのマネジャーにとっても重要なもののように思えるので。

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一條 ガイドスタッフは2年に1回募集しているのですが、まずは履歴書と作文で書類選考し、その後面接を行って、10〜20人の養成研修生を決めます。その方々に3カ月に渡って1回5時間のトレーニングを計7回受けてもらい、最終テストに受かった方だけがガイドスタッフとしてデビューします。

トレーニングの半分はコレクションについての勉強です。例えば日本画専門の学芸員が日本画について、明治大正期の洋画専門の学芸員が専門分野について解説するといった、がっつりとしたレクチャー。

もう半分は実技で、対話鑑賞に必要なファシリテーションスキルを身につけてもらいます。作品についての調査をどうやるのかからスタートし、ライブラリでどうやって資料を探して、それを自分のトークプランにどう活かしていくか、そういったところまで含めてトレーニングします。

——一條さんからご覧になって、どういう人が向いていますか?

一條 まず、必須なのはコミュニケーション能力、特に聴くほうの力です。そしてもう一つはホスピタリティ。どんな人が来てもウェルカム、どんな発言があっても否定しないでいられるか。

参加者はこちらでは選べませんから、本当にいろいろな人が来ます。上手なファシリテーターというのは、そんな中でもみんなが自由に発言できて、スタート地点では思いもよらなかった地点まで連れていける人のことを言うのだと思います。

相当な覚悟が必要ですし、みんなすごく悩みながらやっています。10年やっている人でも「毎回ドキドキする」と言います。私もそうです。慢心していると、どんなベテランでも落とし穴にはまる。

というのも、お分かりだと思いますが、対話鑑賞はライブなんです。完璧な台本を作って臨めば必ずうまくいくというものではない。参加者の参加感によっても違います。だから、同じガイドが同じ作品を扱っても、流れや発言の内容は毎回変わってきます。むしろ、変わらなければ対話鑑賞と言えないでしょう。

陥りやすい落とし穴としては、どうしても自分の知っていることを全部話したくなってしまうことが挙げられます。でも、ガイドが喋り始めてしまうと、参加者は口を閉じていく。そうすると対話にならずに、一方的な解説になってしまいます。なので、皆さんすごくセルフコントロールしながらやっています。

ただ、やっていくうちに、自分が解説するよりも参加者の多様な意見を聞くのが楽しくなってくる人も多いようです。そうしたことを楽しめるのもまた、重要な資質のひとつではないかと思います。

まずは常設展に行こう

——ぼくはもともと一つの絵をじっくりと時間をかけて見たいタイプなんです。同行者と「ああでもない、こうでもない」と話しながら見るのも好き。ですが、日本の美術館はいつも混雑していて、一つの絵の前で立ち止まったり、話しながら見たりしづらい雰囲気があると感じます。

一條 そういう方にはぜひ、常設展へ行くことをお勧めしたいですね。

日本の美術館はだいたい2種類の展覧会をやっています。一つが、例えば「ルーブル美術館展」「ゴッホ展」「法隆寺の秘宝展」といった、なん十万人と人が入る、ものすごい宣伝費をかけた大型の企画展。そういったものは1時間の行列、混雑の中で見ることになります。もう一つは、その美術館のコレクションを見せる常設展です。当館では「所蔵作品展」と言っていますが、そこに美術館の特色や面白さが一番出ます。そして、常設展はだいたい空いている。

常設展には二つのタイプがあって、一つは文字通り、所蔵作品が決まった場所に展示されているもの。欧米の美術館や国立西洋美術館はこのタイプで、あの部屋にはいつもモナリザがある、というものです。もう一つは定期的に展示替えされるタイプで東京国立近代美術館はこちらです。常設ではないので所蔵作品展と言っています。

よく勘違いされる方がいらっしゃるのですが、当館の所蔵作品展はいつでも同じ作品を出しているわけではありません。2万点以上あるコレクションの中から200点くらいずつ、年に3回ほど展示替えをしています。傷みやすい日本画や写真作品は、それ以上の頻度で展示替えします。コレクションの中からその季節に合ったもの、時代に合ったものなどのテーマを設け、学芸員がセレクションしているんです。

ガイドスタッフが1時間の対話鑑賞をファシリテーションする際、作品の解説をすること自体はほとんどないですが、その作品について事前にものすごく調べて臨みます。その際、所蔵作品に関しては研究の蓄積が多いので、深みのある良いファシリテーションができるんです。一方、「ゴッホ展」や「ルーブル美術館展」に並ぶのはよそから借りてきた作品なので、短期間で返さなければなりません。もちろん専門家が数年かけて準備をしていますが、所蔵作品と比べれば、知識やガイド経験も薄くなってしまいます。

展示場

一條 常設展に出る作品には、いつ行っても見られるものもあるし、何年に一度しか出ないものもあります。ですが、いずれにしろその美術館のコレクションなので、将来また見られる可能性がすごく高い。

例えば、先ほどお見せした「クォ・ヴァディス」という作品も、おそらく5年後10年後20年後にこの美術館にまたいらっしゃれば、再びご覧いただける可能性があるでしょう。その時には、前に自分が見た時とはまったく違う体験をするかもしれません。

そこで分かるのがなにかと言えば、自分自身の変化や成長です。なので、コレクション展示や常設展は地味に見えて、実はリッチでラグジュアリーだと言えるんですよ。都内には本当にいいコレクションを持っている美術館がたくさんあります。マイミュージアム、マイコレクションを持っていることは、ご自身のビジネスでなにかものすごく迷ったりした時に、もしかしたら大きな支えになるかもしれません。ビジネスパーソンの方はぜひ、そういった形で活用していただきたいです。

アートには「なにかに気づかせる」役割があると思います。それは社会問題かもしれないし、ある種の美しさかもしれない。見る人自身についての気づきかもしれない。いずれにしろ、なにかに気づかせるものとしてアート作品はあるんです。しかも、それは文字や数式で明確に示されたものではなく、もっと複合的な、繊細なものとして表されています。だから見る人によって多様な解釈になるし、見る人のその時の気持ちや経験によっても多様になる。

別の言い方をするなら、それは「問いかけ」です。いい作品には、作家が亡くなっても、50年100年500年経ってもちゃんと問い続ける力があります。モナリザはいまでも女性の美について問いかけ続けている。そう思いませんか?

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東京国立近代美術館 渉外・広報課長 滝本昌子

大学卒業後、食品メーカーに就職し、営業、マーケティング、広報などに携わった。2015年からは東京国立近代美術館にて広報室の立ち上げに携わり、2019年の組織改編にて新設された渉外・広報課で課長を務める。

東京国立近代美術館 企画課主任研究員 一條彰子

セゾン美術館勤務を経て、1998年より東京国立近代美術館の教育普及を担当する。幼児から大学生までの鑑賞教育、一般来館者向けやビジネスパーソン向けの鑑賞プログラム、訪日外国人向けの英語鑑賞プログラムなどに携わるほか、国立美術館が連携して行う教員・学芸員向けの研修の責任者を務める。

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之


iXキャリアコンパスより転載(2020年6月19日公開の記事

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