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「仕事ができないヒマな社員」がボランティアに逃げているというウソ

若手社員

撮影:今村拓馬

「仕事ができないヒマな社員がやるもの」「会社で評価されないから逃げてるだけ」

会社員のボランティア活動についてヒアリングをすると、上司や同僚からこんな本音を聞くことがある。

ところが、ボランティア活動を行っている会社員はむしろ「有望な人材」である可能性が高いことが、日本財団ボランティアサポートセンターの調査により明らかになった。

ボランティア活動を行っている社員がイマイチなのではなく、ボランティア社員をみる周囲の見る目の方がくもっているかもしれない——。

素晴らしい活動は偽善と紙一重?

千葉県台風被害2019 9月

2019年9月に上陸した台風15号は、千葉県はじめ首都圏に大きな被害の爪痕を残した。

Getty Images/Tomohiro Ohsumi

阪神淡路大震災ではのべ167万人のボランティアが活動し、1995年はのちに「ボランティア元年」と呼ばれるようになった。それ以降も、東日本大震災や千葉県豪雨、新型コロナウイルスなど、危機が起こるたびにボランティアの活躍が話題になる 。

2018年8月、山口県内で帰省中に行方不明になった2歳児を発見した、捜索ボランティアの尾畠春夫氏がスーパーボランティアとして脚光を浴びたのを覚えている人も多いだろう。

ところが意外なことに、1986年から2016年にかけて「ボランティア活動率」は25%から26%とほとんど変わっていない。しかもこの間、「社会の役に立ちたい人」は47%から65%と約2割も増加しているにもかかわらずだ(総務省統計局「社会生活基本調査」、内閣府「社会意識に関する世論調査」)。

ボランティア活動の素晴らしさが広く知られる一方で、実際に活動する人が増えない理由のひとつに、ボランティアの禁欲的なイメージがある。ボランティア活動に対して、「自分には縁のない高尚な活動」「意識高い人たちが行うもの」、さらには「偽善」といった、冷ややかな見方も存在するほどだ。

ボランティアから最も縁遠いのが会社員

社会の役に立ちたいと思っていながら、その活動に至っていないのはどのような人かと尋ねられたらきっと、「忙しくて、ボランティア活動を行うゆとりがない人」という答えが返ってくるだろう。しかし実際は、そうではない。

下図(ボランティア経験率)を見てほしい。

これはカテゴリー別にボランティア経験率をまとめたものだ。ボランティア経験率が最も低いのは会社員で、経験率は12.9%しかない。

時間のある主婦や学生よりも少ないだけでなく、同じように仕事をしていて、多忙を極める医師や弁護士、自営業者などと比べても半分しかないのである。

Volunteer

出典:内閣府「平成28年度市民の社会貢献に関する実態調査」

企業には「制度はあるのに風土はない」

環境保全

国連サミットで採択された、持続可能な開発目標(SDGs)に示されるように、貧困、環境、ジェンダー、教育など取り組むべき課題は山積している。

Getty Images/Peter Cade

人生100年時代、個人は越境学習による視野の拡大が期待されるようになっている。SDGsなど、企業もより高い社会性が求められるようになっている 。会社員のボランティア活動はこれらを体現するものであり、今まで以上に評価されてもおかしくない。

実際、経団連の調査によれば、84%もの企業が、社員が社会貢献活動を行うための支援制度を有している(経団連「2014年度社会貢献活動実態調査」)。つまり、会社員がボランティア活動を行わない理由は、企業の制度の問題ではないのだ。

だとしたら、なぜ会社員のボランティアが増えないのか。それは、職場の風土の問題だろう。社員のボランティアを支援する制度が整っている企業でも、ヒアリングをすると、冒頭のように社員ボランティアに対して辛辣な意見が飛び出してくる。

社員ボランティアはむしろ「有望な社員」

社員

GettyImages

そこで筆者らは、 日本財団ボランティアサポートセンターが会社員に対して行った調査データを用い、 社員ボランティアに対する「仕事ができないヒマな社員がやるもの」「会社で評価されないから逃げてるだけ」というレッテル貼りが本当に正しいのか分析した(※記事末参照

分析の結果、明らかになったのは、そのようなレッテルは偏見の可能性があるということだった。

ボランティア活動を行っている社員はそうでない社員と比べ、労働時間は短くない。 さらに、自己効力感やボランティア活動が仕事に活きると考えている割合が高く、組織に対する愛着も強い。企業によっては、ボランティアを行っている社員のほうが、むしろワークエンゲージメントが高く、人事評価も平均より良い。

ここから浮かび上がるのは、ボランティア活動を行っている社員がイマイチなのではなく、高いポテンシャルを持った人材を、上司や同僚が 過小評価しているという現実だ。

「認知の歪み」を越えて風土醸成を

働くひと、年齢性別多様

撮影:今村拓馬

このような、ボランティア活動を行っている社員に対する過小評価は、心理学の「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」によって説明できる。

アンコンシャス・バイアスとは、「男性は女性より仕事ができる」「年をとると能力は低下する」 「育児中の女性は働きたがらない」 といった決めつけや思い込みのことだ。

近年、さまざまな場面で、アンコンシャス・バイアスの問題が露呈している。そのため、ダイバーシティ研修などでは、悪気がなくてもアンコンシャス・バイアスが存在し、個人の選択や組織の人材マネジメントに負の影響を与えることを学ぶことが増えている。

おそらく、これと同じことが、会社員のボランティアでも起きている。 企業がこれまで以上に社会課題の解決に寄与することを求められるなかで、ボランティア活動を行う社員の情報感度や問題解決への意欲、行動力を活かさない手はない。ボランティア活動を希望する会社員への偏見は、企業にとっても得策ではないのである。

個人の人生を豊かにするためにも、多様なバックグラウンドをもった人材が活躍する組織風土を醸成するためにも、ボランティア活動を希望する社員への認知の歪みを是正していくことが必要である。

(文・中村天江、編集・滝川麻衣子)

※分析に用いたデータは、日本財団ボランティアサポートセンター「東京2020オリンピック・パラリンピックにおける社員ボランティア<大会前>調査」。東京2020オリンピック・パラリンピックで大会ボランティアをする予定の社員と予定のない社員のデータを比較した。分析は、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員藤澤理恵と共同で行った。


中村天江:リクルートワークス研究所主任研究員。博士(商学)、専門は人的資源管理論。「労働市場の高度化」をテーマに調査・研究・提言を行う。「2025年予測」「Work Model 2030」「マルチリレーション社会」等、未来の働き方を提案するプロジェクトの責任者や、政府の委員を歴任。著書に『採用のストラテジー』(単著)、『30代の働く地図』(共著)などがある。

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