撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
私はミレニアル世代の女性たちから、「結婚・出産を見すえたキャリアプランの立て方」についてご相談を受けることが多く、それをテーマとする講演やセミナーにお招きいただく機会もあります。
一昔前は「出産したら退職」、あるいは「出産後は望まない部署へ異動」などの道しか選べない女性が大多数でしたが、政府による「女性活躍推進」の後押しもあり、女性が仕事と育児を両立させやすい制度や環境が整ってきました。
働き方も多様化し、選択肢が増えたからこそ、中長期スパンでのライフプラン・キャリアプランに悩む女性は多いようです。学生のうちから、周到にライフプランを練っている女性も見受けられます。
さて、「結婚・出産後、どんな働き方をしたいか」「将来はどんなポジションで、どんな仕事をしていたいか」は、自分自身でビジョンを描くことができますが、悩みどころは「その実現に向けて、どんなアクションを起こし、どんなプロセスを経ていけばいいか」ではないでしょうか。
上司からは話しかけてくれない。発信は「自分から」
ここで私の体験談をお話ししましょう。
私は40代半ばでリクルート在籍中に起業したのですが、その後独立するまでのおよそ25年間、会社員として働いていました。そして、組織の一員ながら、自分が思い描いた通りのキャリアを歩むことができました。
それは単なるラッキーではなく、20代のうちからあるアクションを起こしていたことが功を奏したんです。
撮影:鈴木愛子
そのアクションとは「自分が描くキャリアプランを、上司や会社に対して積極的に発信する」です。
私は新人時代から、中長期スパンでキャリアビジョンを描き、折に触れて上司に話していました。特に、組織体制や人事の見直しが行われる時期——例えば、4月の新年度に向けて計画の策定が始まる1月頃には、事業部長に「面談してください」と申し入れました。
そして、仕事に関する目標やキャリアプランをまとめたプレゼン資料を見せながら、「私は今後、こんなポジションで、こんな仕事に取り組んでいきたい」と訴えたのです。
それが考慮されてか、私のやりたい「Will」につながる異動がほとんどで、不本意な異動を命じられたことはありません。想定外の異動もありましたが、それはむしろ理想のビジョンに近づくための経験を積むチャンスをいただいた異動でした。
もちろん、目の前の担当業務でしっかり成果を挙げることが大前提となりますが、私は「自分の意思をアウトプットする」ことで、理想のイメージを実現していけたのです。
最近の企業の事例を見ていると、社員1人ひとりのライフプランをヒアリングしたうえで、それに応じたキャリアプランを本人と一緒に考える企業も徐々に増えてはいます。けれど、まだまだ少数派。ですから、自分から率先して上司や人事にアウトプットすることをお勧めします。
結婚や出産など、プライベートな話題は自分から話を切り出してみよう。
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今の時代は、「結婚予定はあるの?」の一言もセクハラと見なされることがありますよね。上司から、特に男性上司からは、結婚や出産を話題にしにくい環境です。だからこそ、「自分から」話すことが大切なのです。
もちろん、そうした話題を受け付けてくれない上司、女性のライフイベントやキャリア構築に対して無頓着な上司も存在します。そんな場合は、理解があり、一緒に考えてくれる上司のもとで働けるように、部門異動などを画策するのも手です。
組織横断型のプロジェクトや勉強会に参加するなどして、社内ネットワークを築いておくのもお勧めです。自分が働きたい部門やマネジャーから「呼んでもらえる」ように戦略を立て、自分の存在を社内に広くアピールしておいてはいかがでしょうか。
マネジメント職に就くなら出産の前?それとも後?
「リーダーやマネジャーに昇進するなら、出産の前か後か、どちらがいいですか?」
これも女性からよく聞かれる質問です。
私が考える理想は、「出産前にマネジメントを経験しておいたほうがいい」です。
「マネジメント」に対しては、難易度が高いと感じ、腰が引けてしまう女性も多いようです。ところが、実際にマネジャーに就任してみると、「意外と自分に合っている」「面白く、やりがいがある」と気づく女性も多いのです。
また、メンバーよりもマネジャーのほうが自分のスケジュールをコントロールしやすいため(会議の時間を自分の都合に合わせられる、など)、「育児をしながらでも働きやすい」との声もあります。
出産前にマネジメントを経験し、「自分にもできる」「こういうやり方なら難しくない」といった手応えを得ておけば、出産後、育児と両立しながらのマネジメント業務にも抵抗感がなくなると思います。
一方、出産後に初めてマネジャーになった場合、ただでさえ育児で大変なのに、初体験のマネジメント業務もキャッチアップしていくというダブルの重圧はなかなか厳しい。気持ちに余裕を持って臨めない可能性があります。
そうした理由から、「そろそろ子どもを」と考えているタイミングで昇進の打診を受けた場合、とりあえずは引き受けることをお勧めします。
出産前にマネジメント職を経験しておくことは、その後のキャリアにとっても大きなプラスになる。
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ひょっとしたらマネジメント職に就いて間もなく出産を迎えることになるかもしれませんが、たとえ半年でも1年でも、出産前にマネジメントを経験しているのといないのとでは、後々に大きく影響すると思います。
ただし、早く子どもがほしいと思っているのに、「まだマネジメントを経験していないから、出産は先送りにする」というのはお勧めできません。妊娠・出産は、タイミングを逃してしまうと後悔することもあり得ます。自分にとって、より優先したいことは何なのかを見極めてください。
自分の理想に近い「ロールモデル」を見つける
今の時代の女性たちにとって幸いなのは、「ロールモデルが増えてきた」ことだと思います。
「女性活躍推進」が掲げられてからのこの数年、育児とキャリア構築を両立させる手段が多様化しました。それに伴い、女性のキャリアの積み方にも、さまざまな事例が生まれています。
人によって、家庭と仕事・キャリアの最適なバランスはそれぞれです。周囲からの育児サポートをどれだけ受けられるかによっても、バランスの取り方は異なるでしょう。子どもの成長に応じて、バランスを変化させていくことも当然あります。
今は、周囲にいる先輩や上司のほかにも、あらゆるパターンに該当するロールモデルを探しやすくなりました。女性のキャリアについて発信しているメディア、女性のキャリアを考えるワークショップなどが増えています。それらも活用し、自分の理想のロールモデルを見つけ、働き方を参考にしてみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第24回は、7月13日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。