【UUUM鎌田和樹✖️note加藤貞顕対談】クリエイターが創作に集中できるよう、僕らがやっていること

鎌田さん、加藤さん

UUUM社長CEOの鎌田和樹さん(左)とnoteCEOの加藤貞顕さん。共にクリエイターを支援することをミッションに掲げる。

撮影:今村拓馬

「人と会う・集まる」の価値があらためて問われる今、東京・南青山に新たなイベントスペース「note place」がオープンした。ホールやキッチンなど多彩なレイアウトと配信設備を備え、オンラインにも対応したイベントを気軽に企画できる。まさに“ニューノーマル”に対応した発信・交流の場を仕掛けたのは、個人・法人の創作活動を支援するプラットフォーム「note」や「cakes」を運営するnote。

オープン初日にはCEOの加藤貞顕さんと同社に出資するUUUM社長CEO・鎌田和樹さんの対談も行われ、それぞれクリエイターを支援する立場から、「リアルで交流する価値」や日頃から心がける創作支援の姿勢について語った。

個人が発信し、つながり合う場はこれからどんな発展を遂げていくのか。対談のハイライトを紹介する。

「創作に集中できる生活」を応援したい

note place

noteが6月に青山にオープンしたイベントスペース「note place」。今回の対談はnote placeのお披露目を兼ねて行われた。

撮影:今村拓馬

加藤貞顕さん(以下、加藤):鎌田さん、リアルにお会いできるのはお久しぶりですね。

鎌田和樹さん(以下、鎌田):note placeのオープン、おめでとうございます。すごく居心地のいい空間になっていますね。

加藤:鎌田さんの会社はnoteに出資してくださっているからか、到着して早々、「ここ、坪単価いくら?」って質問されちゃいましたけれど(笑)。鎌田さんご自身もnoteをヘビーに使ってくださっていて。多分、日本の社長の中で一番頻繁に投稿しているんじゃないですか?

鎌田:440日連続投稿まで来ましたね。「2日連続投稿!すごい!」とか褒めてもらえるから続くんですよ。もう歯磨きと同じ感覚で、書かないと気持ち悪くなってきました。

加藤:いつも何時くらいに書いてるんですか?

鎌田:朝に書いて、18時に公開設定するのがルーティンです。調子がいい時は2本書き溜めてみたり。

加藤:そんな売れっ子作家みたいなことをしてるんですか(笑)。いや、400日以上、毎日書くってすごいことですよ。僕らは「創作する人はだれでもクリエイター」という考えなので、その考え方だと、鎌田さんは立派なクリエイターですね。

そして、ご自身が代表を務めるUUUMではクリエイターの皆さんの創作を応援する事業をされている。

鎌田:会社を作ったのは7年前。2013年にHIKAKINというYouTuberに出会ったことがきっかけでした。彼をはじめとする才能豊かなクリエイターたちと付き合って感じるのは、彼らはきっとYouTuberにならなくても成功を収めたんだろうなと。それくらい、一つのことに一生懸命向き合って追求している。全力で一点突破するからこその大成功なわけで。

そんな姿を見てきているから、僕はクリエイターさんにできるだけ創作に専念してほしいんです。そのためにやるべきことはなんでもやるよ、という方針です。

風邪薬を送ったり、引越しの手配まで

鎌田さん

鎌田さん自身もnoteを書く。対談日(6月16日)現在で、440日連続で投稿。

撮影:今村拓馬

加藤:どれくらいなんでもやるのか、例を教えていただいてもいいですか。

鎌田:例えば、ちょっと体調悪そうなクリエイターがいたら風邪薬を買って送ったり、引っ越しの手伝いをしたりもします。収入が安定していないという理由で入居を断られるとか、家でも動画撮影することに理解を得られないといった困り事を解決するために、専門の仲介を通じて物件を手配する。あと、クレジットカードが作れないクリエイターには、僕らが会社として保証してあげたりとか。

加藤:それは助かるでしょうね。あと、動画制作に使える楽曲や画像の素材をまとめて提供していますよね。

鎌田:はい。「歌ってみた」の作品に使えるカラオケ曲にすぐアクセスできるように。こういう細かいけれど大事な作業をとことんやっている会社ですね、うちは。あと、最近うちの社員がせっせと作っていたのは、全国の公立小中学校の学校再開日のリスト。子どもたちの休暇のタイミングは動画づくりに影響するので、動画アップ計画に役立つ参考情報としてまとめて提供したというわけです。

加藤:すごいですね。創作活動に関わる「めんどくさい」「ややこしい」を全部やると。

鎌田:彼らもやろうと思えば自分でできるんでしょうけれど、その5分10分があったら創作に専念してほしいので。

加藤:すごくわかります。僕も出版社時代には、「目が痛くて文字が入力できません」という書き手にブルーベリーサプリを送ったりしていました(笑)。

鎌田:僕もクリエイターとの打ち合わせ前にプリンを買いに行ったり。「これ、仕事なの?」って思いながら(笑)。

実は冒頭に話した僕のnote毎日投稿も、「クリエイターの気持ちになってみる」ための活動なんですよ。毎日投稿するってどういう感じなのかな?と始めてみたら、思った以上に大変。ネタ探しも必要だし、手を抜いたら如実に「スキ(note投稿に対するリアクション)」が減るし……。

それでもnoteのプラットフォームはかなり書き手に優しい設計がされているから続けやすいし、僕はテキストだけの創作だけれど、これが動画撮影と編集だったらもう鬼のレベルです。しかも、まだ売れていない時期にレビューも全く付かないのに毎日投稿するって、すごいハードな苦行だなと。

そこに寄り添うことは絶対に大事だなと改めて感じましたね。

ファン交流はオフラインとオンラインを“混ぜる”

note

note placeにはキッチン付きのスペースも。ここで料理を作りながらのイベントもできるという。

撮影:今村拓馬

加藤:次に伺いたいのは、これからのクリエイターとファンの関係の築き方についてです。UUUMクリエイターの皆さんのファンコミュニケーションはオンライン上がメインになると思いますが、近年はオフライン交流イベント「U-FES TOUR」も開催して、盛り上がっているみたいですね。

鎌田:きっかけは他業界の企業が毎年開催しているイベントにあやかったのですが、やってみて分かったのは「オフラインのファン交流には大きな価値がある」ということでした。動画を投稿すれば常に200万回以上再生されるクリエイターにとって、イベント会場に呼べるファンの人は数で見れば多くても5000人とか1万人。それでも来てくださる方々の熱量はものすごいですし、その熱を“発散”してもらう場としてオフラインイベントはとても有効なのだと分かりました。

やっぱり、共感や好きな気持ちが高まっていくと、どこかで発散したくなるじゃないですか。

加藤:好きなアーティストのライブに行くのと同じ感覚ですね。

鎌田:グッズを買うといった体験もできますしね。オンラインはすぐにアクセスできて気軽につながれるから“浅く広く”の交流が可能になる。一方で、オフラインでの出会いは“深く狭く”。この二つがどちらもあることで、ファンがより熱いコアファンになってくれるのではないかと思っています。

あと、クリエイターにとっても「ファンの顔が見える体験」には価値があるんです。200万回再生という数字だけでは、どんな人が実際に見てくれているのか、リアルにつかめないんですよね。オフラインで実際に会える機会を作ると、「いつもTwitterで絡んでくれる人とは全然違う人たちが集まってくれました」とか「小さいお子さんと握手して、俄然やる気出ました!」といった声が挙がってきたりして。創作活動の継続のためにも必要な仕掛けだなと思いました。

ネット上の創作を「褒める」文化をつくりたい

加藤:クリエイターのモチベーションアップ効果はかなり高そうですね。オンライン上では、どうしても批判の声のほうが聞こえてきやすいという問題もありますよね。

鎌田:人はオンラインだとなかなか「褒める」という行為をしない。「いい」と思った人は黙ってアイコンを押すだけで、納得いかない人たちはわざわざコメントを書き込んでいく。だから、ネット上のコミュニケーションだけに偏ると、誹謗中傷が目立ってしまう問題はすごく大きいですね。

加藤さん

ステイホーム期間にnoteの利用は急増し、月間アクティブユーザーは6300万人を突破した。

撮影:今村拓馬

加藤:理由は2つあると僕は思うんです。一つはアーキテクチャの問題。ネットの世界って、斜めの角度からちょっと意見するとカッコよく見えるという特性があって、しかもそれに対する反応が数字で見えるので批判の快感が加速しやすくなる。また、広告がつくブログでは、「過激に書いたほうがPVが伸びる」という心理がさらに働いてドライブがかかってしまう。

もう一つの理由は、こういったネット特有のコミュニケーションがすでに20年ほど続いたことでは、半ば文化のような定着が生まれていること。僕らはこの二つを解決したくて、noteの設計にはかなり気を遣ってきたんです。ネット上の創作に対して「褒める」ことが気持ちよくてカッコいい。そんな文化を作りたいというのが僕の願いなんです。

鎌田:本当に、noteはネット上では稀有な温かい場所だと思いますよ。コメント欄はあえてすぐに目に入らない構造になっていますし、何より「スキ」というアクションができるのがいいですね。

加藤:「いいね」ではなく「スキ」という表現にしている点にもこだわりがあります。まず、愛を伝えてほしいんです。とにかくクリエイターにとって心地よい場を作ることを一番意識しています。先ほどのお話で、鎌田さんが「オフラインの価値」を再認識したということでしたが、オンラインとオフラインはどう使い分けていくべきだと考えてますか?

ホール

noteが新たにクリエイターとファンの交流の場としてつくったnote place。

撮影:今村拓馬

鎌田:両軸で“混ぜていく”という感覚ではないかと思っています。例えばこの対談もnote placeというリアルな会場で人を集めて開催しながら、同時にオンライン配信もしている。こういう“二軸の発信”がこれからのスタンダードになっていくはずです。

また、これまでオフラインで行っていたものをオンライン化する時に「オンラインだから安くしないと」という発想は、僕は間違っていると思います。提供するクリエイティブの価値は同じですし、オンラインだから付加できる価値もある。

今の音楽業界が直面している壁はまさに「オンラインライブのチケットに1万円の値付けをしていいのか?」問題だと思うのですが、僕はぜひ1万円で売ってほしい。オフラインとオンラインを混ぜ合わせること、“浅く広く狭く深く”が可能になる。それがこれからのクリエイティブの目指すべき姿だと思います。

加藤:コミュニケーションのポートフォリオをより豊かにしていく、という発想ですね。それって、みんな実は昔からやってることで、例えば人間関係でいうと、「年賀状だけの付き合い」なんてものがありましたし、決してネットだけのことではないんですよね。

オンライン上のnoteは基本は無料でだれでも読めますが、書き手をより熱く応援したい人には記事の対価としてお金を出して支援する「サポート」やコミュニティを形成できるサークル機能という仕組みも用意しています。「質の高い創作に報酬がきちんと得られる」という流れを、ネット上でも滑らかに実現したいとずっと思っていて。最近では、岸田奈美さんという書き手のように、noteを上手に活用して活躍の場を広げていくクリエイターが登場していてとても嬉しいです。

鎌田:僕もサークル機能を使わせていただいているんですけれど、集まってくださる方々とのコミュニケーションは自然と盛り上がるし、その延長で「今度会いましょう!」となるんですよね。これこそオンラインとオフラインの融合だなぁと感じます。

YouTuberがテレビに出るのは「思い出づくり」

鎌田さん、加藤さん2

撮影:今村拓馬

加藤:この春の自粛期間中、通常の活動ができなくなった芸能人の方々が次々にYouTubeを始めていましたよね。テレビのような従来のマスメディアとネットメディアの関係性にも変化を感じますか? UUUMさんと吉本興業との提携も話題になりましたが。

鎌田:以前はYouTubeでの活動って、テレビ出演と比べて下に見られる傾向があったのですが、最近はすごく変わってきました。多くの芸能人がYouTubeを表現や発信の場として使うようになりましたし、「YouTuberがテレビに出る意味・目的」も変わってきたと思います。それを聞かれた時には僕がよく返す答えは「思い出づくり」。

結局はYouTubeで自分で発信したほうが表現を自由にコントロールできるし、昔と違ってテレビと同等の影響力もある。けれどYouTuberもテレビは好きだし、会いたい憧れの人もいる。つまり、YouTubeで発信しながらテレビにも出るというのが一番いいんですよね。

僕らはテレビ局とお付き合いする上で、吉本興業さんの力を借りたり、吉本さんが企画制作する番組から出演オファーをいただいたりもしています。コロナの問題で劇場を開けられない期間にはYouTube上の活動を活発化させたりと、芸能人の方々もオンラインとオフラインを混ぜ合わせた形での活躍が当たり前になっていくのではないでしょうか。

加藤:ここのところnoteでも芸能人や有名人で使ってくださる人が増えているんですよ。

鎌田:増えていますよね。僕は漫画家の石田スイさんの大ファンで、noteもよく読んでいます。本業の合間にさらに書くってすごいな……と思いながら。

加藤:伝えたいことが溢れてくるのがクリエイターなのでしょうね。鎌田さんと同じように、僕らもクリエイターが気持ちよく創作を継続できる世の中を目指しています。特別な才能が多くの人に支持されて花開く場でもありたいし、たった1つの「スキ」が付くだけでも、なんなら自己満足でもいいから安心して創作できる場にしたい。クリエイターの「つくる」だけでなく「つながる」「届ける」支援する場を、オンラインとオフラインの両軸で進めていきます。

(文・宮本恵理子


鎌田和樹:UUUM代表取締役社長CEO。1983年生まれ。2003年、大手通信会社入社。2011年よりイー・モバイル一次代理店の社長を務める。その後、孫泰蔵氏の薫陶を受け起業を決意。HIKAKINとの出会いから2013年、ON SALE(現UUUM)を設立。UUUMは2017年、東証マザーズ上場。2018年、レモネードを買収。2019年にはピスオブケイク(現note)と、2020年には吉本興業と資本業務提携を結ぶ。2020年より資本業務提携先でもあるSUGARの代表取締役社長も務める。

加藤貞顕:note代表取締役CEO。1973年生まれ。2000年、大阪大学大学院修了後、アスキーに入社。パソコン雑誌の編集者に。ダイヤモンド社に転職。2009年に手がけた書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』が大ヒット。2011年、ダイヤモンド社を退社後、ピースオブケイクを設立。翌年「cakes」をリリース。2014年、あらゆる表現者を応援するプラットフォーム「note」をリリース。2020年、社名をnoteに変更。

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