オンラインで起きない「偶然の出合い」を生む腕時計——シチズン「AIウオッチレコメンド」の魅力とは

AIウオッチレコメンド利用画面

AIウオッチレコメンド利用画面。

「ステイホーム」を機にECサイトやブランドサイトでショッピングを楽しむ人が増えている。オンラインは便利な一方で、リアル店舗での買い物のような「想定していなかった商品との出合い」や、スタッフとの会話から得られる「予期していなかった自分の好みの発見」といった、買い物の楽しさを感じる機会が少ないのではないだろうか。

もともとECが苦手としてきた課題に対し、シチズンが開発したのが「AIウオッチレコメンド」だ。

ウェブ上に表示される画像を選び、簡単な質問に答えると、AIが好みの傾向や感性を解析し、シチズンが展開する腕時計の約 700モデルの製品の中から好みに合うものを選んでくれる。キーワードは「パーソナライズ」だ。

ウェブ上でどのようにセレンディピティを引き起こし、また店舗スタッフが現場で培った提案力を再現するのか。開発に携わったシチズン時計商品開発本部デザイン部三村章太氏と、同社営業統括本部 オープンイノベーション推進室 武笠智昭氏に聞いた。

社員約900人のヒアリングデータをAIが学習      

シチズン時計商品開発本部デザイン部三村章太氏と、同社営業統括本部 オープンイノベーション推進室 武笠智昭氏

シチズン時計営業統括本部 オープンイノベーション推進室 武笠智昭氏(左)と、同社商品開発本部デザイン部三村章太氏。

どのような腕時計と出合えるのだろう?

「AIウオッチレコメンド」をスタートさせると、まずファッションのイメージ画像が表示される。ここから好みのものを3つ選ぶと「ノームコア系」「高機能カジュアル系」「トラディショナル系」などのファッションタイプとともに、おすすめの腕時計5本がAIによって紹介される。今まで意識していなかった自分を再発見するようなワクワク感があった。

この機械学習のベースとなっているのは、シチズングループの社員とその家族約900人を対象にしたヒアリングデータだ。

「AIによる分析を入れることによって、私達もお客様自身も気づいていないけれども、“こういう傾向がある”という本来的な需要を見つけだせるのではないかと考えました」(三村氏)

理屈よりもまず「これいいな」と感じるモノとの出合いを、AIが高い確率で生み出しているのだ。

店舗スタッフのレコメンド力をオンラインで再現

武笠智昭氏

店頭でのセレンディピティや店頭スタッフによる提案をいかにウェブ上で再現していくかが重要だと武笠氏は語る。

このサービスは、これで終わりではない。次のステップで年齢、職業などの情報を入力。好きなライフスタイルのイメージや趣味のほか、「あなたにとって腕時計とは何ですか?」「あなたが時計に求めるものは何ですか?」といった腕時計に対する価値観についての質問に答える。

すると、自分のペルソナタイプが表示され、「いつもと違う自分に出会う時計」も表示される。こちらは、AIではなくシチズンによるプログラム。例えば、趣味に「スポーツ」を選んだ場合は「この製品が合うだろう」あるいは「この製品を使ってほしい」といった、シチズン側の意図が含まれている。

「店頭では欲しい時計のイメージがはっきりと固まっていなくても、スタッフと話をしているうちに気に入った時計が見つかるパターンも多い。例えばスタッフとの会話の中で『旅行が好き』といった何気ない一言から、『海外に行ってもすぐに正しい時刻に合わせられる電波時計はいかが』という提案につながることもあります。そういった感覚をウェブ上でいかに再現して伝えていくか。簡単ではありませんが、約700モデルすべての時計においてさまざまな側面からレコメンドできるようにしています」(武笠氏)

店舗スタッフは顧客から発せられた一言を紡ぐように、その人のライフスタイルや価値観に合った商品を見つけ出し紹介する。その技をウェブ上で再現した形だ。こうしてAIとプログラムを組み合わせたレコメンド機能によって、パーソナライズされた腕時計が見つかるというわけだ。

レコメンドされた時計は、製品の詳細情報とともにおすすめの理由が表示される。このテキストは、同じ製品であってもそれぞれのユーザーの趣味やペルソナに沿った内容になっており、人によって表示される内容が違う。そこにも「店舗スタッフの接客ノウハウを再現したい」という思いがある。

「現代では腕時計は生活必需品でないかもしれません。そうでありながらも、その腕時計がお客様にとってつながりが強いということを知っていただくことで、その時計の個性を感じていただき、愛着につながっていくと考えています」(武笠氏)

また、ユーザーがこの操作そのものを楽しんでもらうような工夫もしている。さまざまな質問を繰り返して最後におすすめの時計が表示されるのではなく、好きなファッション画像を直感的に選んだだけで、おすすめの時計を表示。時計を選ぶ際のワクワクする感覚を味わってもらう。その後でより詳しい質問に答えていくことで、時計に対する興味を引き出すという。

パーソナライズされた腕時計との出合いを作る

三村章太氏

シチズンのマーケティングにおいて「パーソナライズ」が1つの課題だと、三村氏は明かした。

シチズンは2018年に創業100周年を迎えたのを機に、グループ・デジタルイノベーションプロジェクトを発足。さまざまな課題に取り組んできた。その一環がこの「AIウオッチレコメンド」。開発に取り組んだ背景について、三村氏は次のように語る。

「シチズンのマーケティングにおける課題のひとつが『パーソナライズ』。デジタル技術やライフスタイルの変化に合わせて多様化するお客様の嗜好に、いかに寄り添い、商品やサービスを提供するかを考えて来ました。その1つが、昨年7月にスタートした、『シチズン アテッサ』の腕時計をカスタマイズできるFTS(ファイン・チューニング・サービス)。もう1つは約700モデルある製品をパーソナライズして提案する「AIウオッチレコメンド」。お客様にあまり知られていない製品であっても、お届けする情報をパーソナライズすることで、実はそれこそが求めていた製品だと気づくお客様がいるかもしれない、そのような出合い方で腕時計を知っていただく方法を考えました」(三村氏)

お客様にとってもメリットは大きいと、武笠氏は語る。

「これまでは時計と出合う場所と言えば、時計専門店や時計売り場でした。しかし時計を初めて選ぶ方にとってそこに行くにはややハードルが高いのではという声がありました。今すぐに購入するつもりでなくても、ちょっと興味があるといった方にも『AIウオッチレコメンド』なら利用しやすい。時計に触れ合いやすい環境をつくるのも私達の役割だと感じています」(武笠氏)

新しいデジタル体験の入口に

 武笠智昭氏と三村章太氏

三村氏と武笠氏。コロナ禍で多くの店舗が休業となった中でも、FTSはコロナ前と変わらず注目され購買にもつながっており、改めてオンラインの強さが感じられたと両氏は言う。

こうした取り組みの中、コロナ禍が発生。感染防止対策のため多くの店舗が休業を余儀なくされた。そんな中でも、FTSはコロナ前と変わらず注目され購買にもつながっており、改めてオンラインの強さを感じたと2人は言う。今後はユーザーの体験結果も利用してレコメンドの精度をさらに上げ、AIの“感性”をアップデートしながら、新しい情報をもとにした新しい接客を目指していく。

「弊社の公式オンラインサイトでは、FTSの他にも取り扱う腕時計が徐々に増えています。またオンライン体験の拡充を目指し、新たな開発も進めております。現状はそれぞれが別のサイトとなっていますが、いずれこれらを1つの体験として有機的につなげていきたい。さらに、私達の強みとしてフラッグシップストアがあります。将来の話ではありますが、オンラインで『この時計、いいな』と思ったら、試着の予約ができ、次の日には店舗で試すことができる。こうしてオンライン、オフラインを自由に行き来し、連動させていくことが目指すところです」(武笠氏)

「AIウオッチレコメンド」は、時計と出合うためのデジタル体験の入口という位置づけ。シチズンは新しい接客、新しい接点の開発を目指して、進化を続けている。


AIウオッチレコメンドについて、詳しくはこちら。

Popular

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み