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インテル日本法人鈴木社長が語る「2025年データ格差社会」解消のためにインテルができること

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半導体メーカー・インテルが今、大きな転換点を迎えている。

インテルは1968年に創業し、既に半世紀が経過している半導体メーカーだ。売り上げベースでは半導体分野で世界最大だ(2019年時点、Gartner調べ)。

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Gartnerのレポート「Gartner Says Worldwide Semiconductor Revenue Declined 11.9% in 2019」より。

出典:Gartner

インテルが発表した2020年第1四半期(1~3月期)の決算では、同社の主力事業であるPC事業は前年同期比で14%の売上高増、2番目の規模を持つデータセンター事業は43%の売上高増となっており、依然として好調な決算だ。今すぐ、経営に影響が出るような不安な要素は見当たらない。

だが、そうした中でもインテルは未来を見据えて変わり続けようとしている。そうしたインテルのこれからについて、2018年に同社の日本法人のトップに就いたインテル日本法人の鈴木国正社長に、国内の状況を聞いた。

日本独自の「インテル、入ってる」プログラムを走らせた日本法人

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Windows PCに貼られているこうしたロゴステッカーの知名度は非常に高い。

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インテルの日本法人・インテル株式会社(インテル Japan KK=株式会社を略してIJKKと業界では呼ばれている)は1976年に設立され、既に40年以上の歴史をもつ。外資の半導体メーカーの日本法人としては最古参の1つだ。

「インテル、入ってる」でおなじみのIntel Inside Programも、世界各国では「Intel Inside」として提供されてきたが、日本では独自のプログラムとして、日本語のコピーで韻を踏んだ表現が利用され、日本独自のキャンペーンとして続いて来た。世界中でもこうした独自のキャンペーンを本社に認めさせたのは日本法人が最初。それだけ米国本社からも評価されてきたというのがIJKKの位置づけになる。

そのIJKKを現在リードしているのが、鈴木国正氏だ。鈴木氏は、元々はソニー出身で、前職ではソニーモバイルコミュニケーションズ(ソニーのスマートフォン子会社)の代表を務め、それ以前にはIJKKのクライアントの1つだったソニーのVAIO事業本部の本部長を務めるなど、ソニーのデバイス事業をリードしてきた人物として業界で知られている。

「四半期で2兆円」を生み出す2つの事業の変化

インテル日本法人の鈴木国正社長

インテル日本法人の鈴木国正社長。2018年の就任以来、日本事業を率いてきた。

撮影:岡田清孝

インテルが置かれている経営環境は、鈴木氏がソニー・VAIO時代に顧客側だった時代とは大きく様変わりしている。鈴木氏がソニー時代のVAIO事業本部の本部長だった時代のインテルは、クライアントPC向けのCPU事業一本足打法とでも言うべき状況にあったからだ。

ソニーがVAIO事業を展開していたような時期はPCの成長期で、台数も、金額も年々成長していく時代だった。

そうした中、いわゆる粗利が60%を超えるという、超優良の決算を継続。それが生み出す利益を元手に研究開発にコストをかけ、他社が追いつくのが難しいような、より進んだ製造技術や製品を生み出し、再び利益を増やしていく……それがインテルの強さの秘訣であり、勝利の方程式だった。

それがいま、具体的にどう変わったのか。

1つにはインテルのコアビジネスだった「PC市場」の位置づけが大きく変わった。スマートフォンやタブレットなどの一般消費者向けデバイスが成長し、もはや飽和状態にあるなか、いまやPCはビジネス向けがメインターゲットだ。

このため、どちらかと言えば、新規需要というよりは買い替え需要が中心になっており、ここ数年は3億台をやや切る程度。「減りもしないが増えもしない」という市場規模で落ち着いている。

いわゆる「成長が止まったPC」に変わってインテルのビジネスを牽引してきたのが「それ以外」の事業だ。インテルが4月に発表した2020年第1四半期(1~3月)の決算で、約198億ドル(約2兆1258億円)の売上高のうち、PCに関するものは98億ドル、それ以外が100億ドルとなっており、既にPC以外の売り上げがPCを上回っているのだ。

インテル発表「Q1 2020 EARNINGS Presentation」より抜粋

インテル発表「Q1 2020 EARNINGS Presentation」より抜粋。

出典:インテル

さらに、成長率は興味深い。PC事業が、新型コロナウイルスにからんだ在宅ワーク需要などの高まりにより、前年同期比で14%の売上増なのに対して、それ以外の事業は前年同期比で34%とさらに大きい。インテルのような巨大な企業で、3割も売り上げが増えるのは並大抵のことではない。

実はそれを支えているのは、インテルがデータセンター事業と呼んでいる「サーバー向けCPU」の事業だ。データセンター事業の前年同期比の売上増は43%で、ここがインテルの今の成長を支えている。

具体的には同社のサーバー向け製品である「Xeon Scalable Processors」やAltera社を買収して得たFPGA(Field-Programmable Gate Array=製造後にプログラムを書き換え可能な半導体)製品。これらを、アマゾン、マイクロソフト、グーグルといったクラウド事業者や、サーバーメーカーなどに対して販売し、圧倒的なシェアを持っている。

楽天も活用する「5Gにも生きるインテルの強み」とは?

しかも、今後はそうした、従来からの「伝統的なサーバー」だけでなく、通信機器などの市場にも進出を目指していく。

「インテルの強みはエッジからクラウドまで一気通貫に提供できることだ。それにより、AI(人工知能)、5Gなどを網羅した、包括的なインフラを実現することができる。

実際、楽天様の事例では、(サーバー向け主力製品である)『Xeon』やFPGAを採用いただくことで、5Gも含めたネットワークインフラをクラウドネイティブで実現していただいている」

と鈴木氏。従来はインテルのサーバー製品がカバーできていなかった通信事業者のインフラといった製品にもXeonやFPGAの採用を訴えていくとした。

今後、通信事業者は5Gのインフラを拡張していくが、最初の5Gのインフラは、4Gと同じ専用ハードで作られたインフラをシェアしている。しかし、今後数年かけて導入されていく5Gネイティブのインフラでは、Xeonのような汎用プロセッサとソフトウェアを組み合わせたものに置き換わっていくと言われている。つまり、インテルにとって通信業界は新たな事業領域になりつつあるのだ。

2030年の持続的な成長に向けた「RISE」

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インテルの将来に向けたビジョン「RISE」を説明する図。

出典:インテル

こうしてみると、インテルの収益の柱はクライアントPC(2020年第1四半期の売上が98億ドル)、そしてデータセンター事業(同70億ドル)という2本柱であることがわかる。しかし、今は安定しているPC事業、そして成長を続けているデータセンター事業だとしても、今後も傾かないという保証はない。逆に2つの事業が安定し成長しているからこそ、次の新しい事業に取り組むべきだと言える。

鈴木氏によると、そうしたインテルの将来に向けてのビジョンは「RISE(Responsible /Inclusive/Sustainable/Enabled)」というキーワードに込められているという。Responsibleとは日本語にすると責任感、Inclusiveは包括的、Sustainableは持続成長性、Enabledは可能ということで、「責任感を持って、包括的に、持続的成長を目指し、テクノロジーによりさまざまなことを実現していく」という意味になるだろう。

インテルは全世界でこのRISEを2030年に向けた成長戦略の1つとして語っている。グローバルに世界が抱えている多様な課題を、テクノロジーの力で解決していくことを、新しい企業戦略として掲げた形だ。

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撮影:岡田清孝

鈴木氏によると「インテルの存在目的は、さまざまな形で世界を変革しようとするテクノロジーを生み出すことによって、地球上のあらゆる人々の生活を豊かにするというものだ」という。

いま世界は新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱と、その後に姿を現わす「ニューノーマル」に向けた変化の真っ只中にある。鈴木氏はこのニューノーマルの世界では生活様式が変わるだけでなく、産業構造や経営の仕方も変わるだろうと指摘する。

「そうした変化がすべての産業で起こっていく。(その前提で)デジタル化を加速させるための活動をインテルは積極的に取り組んでいる。米国本社は5000万ドル規模のCOVID-19に対応するファンドを設立し、COVID-19を始めとした医療問題の解決に役立てようとしている。

日本でも多数のアイデアを出し、パートナー企業やエンドユーザーなどと協力しながらプロジェクトを進めている。その中で現在も数個のPoC(Proof of Concept=実証実験)が進んでいる」

「2025年の崖」で発生する「データデバイド」を防ぐ取り組み

「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」より。

「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」より。

出典:経済産業省

こうした取り組みは、「最初の一歩」に過ぎないと、鈴木氏は言う。今後、IT業界が取り組むべき喫緊の課題として「データデバイドへの対策が必要だ」(鈴木氏)。

その具体例としてあげたのは、経済産業省が2018年に公開した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」で取り上げられた「2025年の崖」についてだ。

「この中に書かれていることは大いに刺激になっている、各企業においてベンダーロックが発生し、現在運用しているレガシーシステムの拡張が足かせになったり、経営者がITに対する理解を深化させないようなことが続く場合、そうしたことでデータを有効に使える(企業)・使えない(企業)という“データデバイド(企業間格差)”が日本で起きてしまう可能性は高い」

と、世界各国に比べて遅れているとされる、日本のIT環境に警鐘を鳴らす。

インテル日本法人の鈴木国正社長

撮影:岡田清孝

「私がITに関わるようになったのは1990年代前半に米国に赴任したころだった。そのころは、(多くの人に)デジタルが使われ始めている時期。ただ、そのような中で、デジタルを使いこなせる人と使いこなせない人の差、いわゆる“デジタルデバイド”が発生していた。

私がそのころ、アップルのスティーブ・ジョブズ氏、マイクロソフトのスティーブ・バルマー氏、またアンドロイドの開発者であるアンディ・ルービン氏などIT業界を作ってきた創業者世代と会って感じたことは、そのデジタルデバイドを解消しようという情熱だった。

そして、その想いから開発された製品(iPhoneやAndroidなど)により、デジタルデバイドが解消していく中で、デジタル産業も急速に拡大していった」

こうした背景の次に、“2025年の崖”がある。

データデバイドを解消し、企業のさらなる成長を支えるためには、横断的に「いかにデータを有効活用するか」を考えていく必要がある。各業種のデータを単一業種で利用するだけではなく、複数の異なる領域で活用することで、データの価値を高められるからだ。

業界をまたいだ仕組みを支援していくには、ハードウェア、ソフトウェアにかかわらずあらゆる業種・業態の知識とデータを持ち、中立的な立場で相互を結びつけられる企業の存在が重要になる。

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インテルのさまざまな形で関係する業種・業態の一例。ハードウェアのみならず、ソフトウェアやデータの利活用のアドバイスまで、担っているケースがある。これらを中立的に結びつけられるのは、「イネーブラー企業」だからこそだ。

出典:インテル

インテルは、パートナー企業から見れば、そうした異なる業界どうしを繋ぎ、社会実装の機会を創出する「テクノロジー・イネーブラー企業でもある」と鈴木氏は言う。 日本におけるデータ格差とも言える状況を招かないために、「インテルとしては、データデバイドが起こらないように、企業や組織のデジタル変革を促していきたい」としめくくった。

(文・笠原一輝

編集部より:初出時、過去の経歴の1つをVAIO事業部の事業部長と表記しておりましたが、正しくはVAIO事業本部 本部長となります。現在は正確な肩書きに改めております。2020年7月7日 10:35
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