気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の道場相手はABEMA Primeチーフプロデューサーの郭晃彰さん。ネットメディアの最前線で働く郭さんのお悩みは、会社の「働かないおじさん」への微妙な感情。多くの若手がモヤるこの問題に、三浦はどう答えるのか?
人は偉くなると考えることをやめる
三浦崇宏(以下・三浦)
おれたち、大学の先輩後輩だよね。
郭晃彰(以下・郭)
同じサークルで三浦さんが4年生のとき、僕が1年生。飲み会で1、2回お会いしたことのある「デカい先輩」って印象です(笑)。
三浦
テレ朝からABEMAに出向して4年。郭は今やしっかりABEMAを支えてるよね。で、相談って?
郭
職場によくいる「働かないおじさん」をどうすればいいんでしょうか(笑)。『ABEMA Prime(アベプラ)』でも5回くらい取り上げてるんですけど。
三浦
いるよね。おれも最近、某社や某社といった大手と仕事するとき、もうすべての人々が偉い人ほど自分で考えようとしないことに、逆に感心しちゃってさ。博報堂にいた時も……(以下略)。
郭
(笑)
三浦
人は偉くなると考えなきゃいけないことが多くなりすぎて、考えること自体をやめるんだよ。どの会社でもそういうことはあるんだろうな。
郭
役職について、今までと仕事が変わっちゃうからでしょうね。
三浦
うん。「考える」のは現場の仕事。「考えなくてもよいシステムを粛々と守る」のが彼らのポジションに求められる仕事。特にメディアの会社はずっとこのままだよ。テレビ局のビジネスモデルなんてなかなか変わんないから。
大きな企業には必ず存在する思考停止おじさん。誰を思うか、苦々しく語る郭さん。
「保険」であり「社会のバグ」
郭
彼らのせいで、単純に現場の仕事量が増えるんですよ。問題が起きた時、働かないおじさんにも詳細を共有しなければいけないけど、まず「共有するための資料」を作らないといけない。さらにおじさんがおじさんの上司に「プレゼンする時の資料」を作らなきゃいけない。
三浦
あー、分かる分かる。
郭
じゃあおれが全部やればよくない?って思うんですけど、それは許されない。
三浦
保険だよな、働かないおじさんって。例えば郭だったら、普段から働かないおじさんに忖度し続けていれば、仮に『アベプラ』のレギュラー出演者がとんでもないことになった時には、彼が詫びなきゃいけないところに詫びてくれる。
郭
そうですね、まさに。
「働かないおじさんは保険」と断言する三浦さん。そう考えると急におじさんが有り難い存在に感じてくる不思議。
三浦
保険って、一生使わなかったらそれはそれでいい。「なんで毎月給料から1万5000円も抜かれてるんだよ、クソが!」って思うけど、万が一事故った時には、そのお金が下りてきて、1カ月間入院してる間はそれで食える。それと同じで、トラブルが起きた時の保険だと思うんだよ。
郭
別名“頭下げてくれるおじさん”って言ったらだいぶ問題ありますけど、そうですね。でも、「現場は若い子が頑張れ。何かあったらおれが責任取る」っていうおじさんは全然OKです。というか、むしろ最高です。僕の中でそういう人は「すごく心強いおじさん」。むしろ、すごく働いてる。
三浦
そうなんだ。じゃあ、働かないうえに、いざという時頭下げないおじさんがいるってこと? その人たちは何してるの?
郭
ハンコ押す担当とか。昔はソリティア(一人用ゲーム)してたらしいですね。堀潤さんが言ってましたけど(笑)。
三浦
なんでそんなおじさんが会社に存在し続けてるのかって話ね。最近、鈴木涼美さんが黒川検事長の件ですごく面白いことを書いててさ。
郭
あ、賭け麻雀の。
三浦
これこれ。「そもそも日本の売春やギャンブルが、違法なのにまかり通っている、あるいは当たり前にあるのに違法のまま、という状態が危ういのは、黒川氏辞任のように、恣意的に人を排除する際に用いることができるからだと思うが」(週刊SPA!5月26日発売号鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」)
郭
へーえ。
三浦
つまり、賭け麻雀とかソープとか、本来は法律的にNGなのものが世の中に放置されているのは、いざという時に偉い人を潰すため。「はい終了」ってするときのリセットボタンとして機能しているからなんだと。
郭
完全オリジナル視点ですね。
三浦
働かないおじさんも、割とそういうふうに機能してるんじゃないかな。いわば“社会のバグ”みたいな存在(笑)。
働かないおじさんが生まれる理由
郭
テレビ局も広告代理店も、番組や広告を作りたいから入るじゃないですか。にもかかわらず、途中からすごい管理をさせられる。その後で、何かしらの理由があって、おじさんたちが、突然現場に帰ってくることがあります。
三浦
出世競争に敗れたってこと?
郭
敗れたのか、選んだからなのかは、分かりません。とにかく帰ってくる。で、帰ってくると、めちゃくちゃ働くんですよ。「この人たち、やっぱり現場が好きなんだな」って、すごく嬉しい気持ちになります。
三浦
ふーん。
郭
それを見て感じるのは、モノを作るというクリエイティブな仕事に就いていた人が、年功序列によって気付いたら管理職になっている。それが元凶なんじゃないかと。
三浦
その通りだね。テレビも広告も、おそらく出版も、「作りたい」人たちが、頑張って良いものを作っていった結果、ある日突然「よーく頑張ったな、ご褒美にCMを作る権利、番組を作る権利を奪って、部下を管理する権利をあげよう!」って言われる。そんなことやりたいなんて、一瞬も思ったことないのに。
郭
本当ですね。
三浦
外資とかスタートアップだと、エキスパートロールとマネジメントロールはまったく別。要は、日本のテレビなり広告なりの大手企業が、「クリエイティブのプロが人事マネジメントをしなければいけない」ような歪(いびつ)な構造を変えなきゃいけない時期なんだよね。
郭
そう思います。
三浦
これ何が一番エグいかっていうとさ、エキスパートロールは時間が経てば経つほど自然とエキスパートとしてのクラスが上がっていく……っていう幻想がはびこってることだよ。本当は全然そんなことない。CMを100本撮ったことがある人が、クライアントから「Twitterでバズるものを作ってほしい」と言われたところで、応えられないじゃん。
これが結構地獄で、ずっとモノ作ってたからマネジメントはできないし、とはいえ年取ってエキスパートですらなくなってしまった。そういうすごくかわいそうな存在が、メディアコンテンツ界には生まれてるわけよ。
郭
変異できなかった人たちってことですよね。これからますます増えていくんじゃないですか?
三浦
だね。ただ、30秒のテレビCMを作ってほしいというニーズは今後も存在し続けるし、お年寄り向けの健康番組だけ作ってほしいというニーズも一定数はあり続けるだろうから、そっちに枠を振り分けておかないとね。今まではマネジメントロールとプレイヤーロールの2つだけだったのが、これからはマネジメントロール、オールドエキスパートロール、ニュープレイヤーロールの3つくらいに分けないと、組織としても人をディレクションできなくなるんじゃないかな。
郭
確かに、その通りですね。
「もはやクリエイティブかマネジメントかという二択の時代ではない」という三浦さんの言葉に深く頷く郭さん。
代理店とテレビ局には「人事の専門家」が必要
三浦
テレビ局も広告代理店も、今までマネジメントがコンテンツ制作から軽視されてきたわけだよね。「良いコンテンツ作れば金儲かんだろ」って。でも、もう人事の専門家を育てることを考えないといけない。テレビ局や代理店とか大手メディアが変わんなきゃいけない最大のポイントだよ。
郭
出向先のサイバーエージェントさんに行くと、人事一筋みたいな方がいるんですけど、僕にしてみたら衝撃的なわけですよ。テレ朝の人事部って、どちらかと言えば「いろいろ経験を積んで会社のことも学びたいから一度行ってみる」ポジションですから。最初から人事をやりたくて入ってくる人、テレビ屋にいないんで。
三浦
皆、面白い番組を作りたくて入ってくるわけでしょ。それで言うと、おれなんか一番分かりやすくてさ、超面白いものばっか作りたくて、クリエイティブで金儲けしたくて会社作ったのに、去年の終わりくらいから7割くらい組織のこと考えてるわけ。
郭
そうなんですか!
三浦
あ、これヤベえなと思ったんで、人事系コンサルティング会社のNo.1営業が来月から入ってくるよ。その人にGOの組織を任せて、おれは現場と最後の意思決定のどっちかしかしない。
郭
すごく良いことですね。
三浦
おれは社長を3年やってそれに気付いたのに、なんでおれよりもずっとしっかりしてるはずのテレビ局と広告代理店と出版社はそれに気付かないのかなって、本当に思うよ。
※本連載の中編は、7月13日(月)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
郭晃彰(かく・てるあき):ABEMA Primeチーフプロデューサー 2010年テレビ朝日入社。情報番組でAD、ディレクターを経験後、社会部で国土交通省、海上保安庁、気象庁などを取材。東日本大震災から5年でドキュメンタリー番組を制作、NYフェスティバル入賞。2016年からABEMAで報道コンテンツを制作。報道リアリティーショーをコンセプトにしたニュース番組「ABEMA Prime」のほか、24時間ニュース専門チャンネル「AbemaNews」の編成・宣伝戦略なども担当。