製薬大手ファイザーは新型コロナウイルスワクチンの初期臨床試験の結果を公表。バイオテックベンチャー・モデルナの独走に「待った」をかけた。
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- 新型コロナウイルスのワクチン開発競争をリードしてきたモデルナにライバルが追いつきつつある。
- ニューヨークに本拠を置く製薬大手ファイザーは7月1日、候補ワクチンの初期臨床試験の結果を公表した。
- ファイザーはモデルナと同様、mRNAワクチンの開発を進めている。
- ファイザーは7月中にも後期の臨床試験開始。モデルナの開発タイムラインと並んだ。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まって数カ月は、モデルナの独壇場だった。
同社はマサチューセッツ州に拠点を置くバイオテックベンチャー。ワクチン開発競争のスタートダッシュで、モデルナは間違いなく先頭に立っていた。
1月23日、モデルナはアメリカ国立衛生研究所(NIH)と共同でワクチン開発に取り組む計画を発表。3月にはアメリカで初めてヒトを被験体とする臨床試験に着手し、5月に試験結果の詳細を公表した。
同社は未承認ながら期待度の高い「mRNAワクチン」技術を用いて、わずか42日間という記録的なスピードで最初のワクチンバッチ製造に成功している。
投資家も殺到し、株価は最高値を更新した。モデルナには米食品医薬品局(FDA)から承認を受けた薬剤やワクチンがひとつもないにもかかわらず、評価額は230億ドル(約2兆5300億円)に達し、年始時点の株価から3倍増を果たした。
モデルナの株価は、初期臨床試験に真っ先にたどり着いたことで一気に3倍まではね上がった。
Markets Insider
ファイザーがモデルナに追いついた
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大から6カ月間で、そうした風景は様変わりしてしまった。
世界保健機関(WHO)によると、いまや150件のワクチン開発計画が動き出しており、うち17件がヒトを対象とする臨床試験段階におよんでいる。
遺伝子プラットフォームをベースに開発を進めているのももはやアマルナだけではなく、mRNAワクチンを使った臨床試験だけでも4件ある。
その一角が製薬大手ファイザー。7月1日、同社は独自の候補ワクチンによる臨床試験の結果を公表し、開発競争にかける並々ならぬ意欲を示した。
ファイザーと独バイオンテックがワクチンの共同開発を発表したのはモデルナに遅れて3月17日だった。
Screenshot of Pfizer website
ファイザーはモデルナが最初のヒト臨床試験に着手したのと同じ3月半ばに、ドイツのバイオンテックとの共同開発計画を発表。その後、時価総額1900億ドル(約20兆9000億円)という製薬業界の巨人は持てるリソースを余すところなく活かし、モデルナに追いついた。
株式市場はこのダイナミクスの変化を反映し、ファイザーとバイオンテックの株価はそれぞれ4%、2.4%上昇。一方、モデルナの株価は5%下落した(いずれも7月1日の数字)。
同じ技術、同じタイムラインで開発進めるファイザーとモデルナ
ファイザーと独バイオンテックは7月1日、新型コロナワクチンの初期臨床試験で良好な成果を得たことを、詳細なデータとともに発表している。
Screenshot of BioNTech website
ファイザーが組んだ独バイオテック企業のバイオンテックは、モデルナと同じくmRNA技術に特化したワクチン開発を進めている。
開発のタイムラインもほぼ一緒で、ファイザーもモデルナも数千人の被験者を対象とする後期の臨床試験に7月中にも着手する。予定通りいけば、この秋にも(感染リスクの高い医療従事者などを対象とする)数量限定の緊急使用の準備ができるという。
ただし、いくつかの点で、ファイザーのほうが優位に立っている。モデルナは5月に臨床試験の結果について「良好な結果」としたものの具体的なデータを示さず、「プレスリリースによる広報宣伝」だと批判を浴びた。
モデルナの臨床試験データを伴わない「良好な結果」発表を批判した、ハーバードメディカルスクールのウィリアム・ヘーゼルタイン教授のオピニオン記事。
Screenshot of Washington Post website
モデルナのステファン・バンセル最高経営責任者(CEO)は、臨床試験データがまもなく国立衛生研究所から発表されるとしているが、現時点ではまだ公開されていない。
一方、ファイザーが発表した臨床試験の結果には研究論文が添付されていたが、査読前、学術誌への投稿前のバージョンだった。
SVBリーリンクのアナリスト、ジェフリー・ポージェスは投資家向けのレポート(7月1日付)で、「ここまでに公開された限定的なデータから考えるかぎり、モデルナよりファイザーのワクチンのほうが有力と考えられる」と指摘しつつも、初期データの予備的な性質を踏まえると、現段階で結論を出すのは難しいとしている。
また、ジェフリーズのアナリスト、マイケル・イーは「モデルナのデータを欠く説明に対し、ファイザーの臨床データには矛盾がなく、少なくとも良好な(あるいはモデルナより良い)結果と評価できる」と分析する。
米疾病対策センター(CDC)による新型コロナウイルスの電子顕微鏡画像。
DC/Hannah A Bullock and Azaibi Tamin/Handout via REUTERS
はっきり言えば、どちらのワクチンがうまくいくのかはまったくわからない。
初期段階の臨床試験は、人体に投与したときの安全性と、免疫応答を誘発するかどうかを調べるためのもので、感染や発症を防ぐ効果があるかどうかを判断するにはより大規模な臨床試験が必要だ。
開発競争でしのぎを削る企業の経営者たちは、ワクチンがたったひとつできれば十分というものではないと強調する。というのも、世界全体では供給を超える需要が想定され、開発に成功する企業が多く出てきたほうがいい状況があるからだ。
製薬大手アストラゼネカもモデルナのライバルで、秋にも緊急使用に対応できるワクチン開発を進めている。
最大3万人の被験者集めがカギを握る?
モデルナの候補ワクチンを被験者に注射する医師。
AP Photo/Ted S. Warren
ファイザーとモデルナが直面する次なる課題は、最大3万人という大規模臨床試験の被験体をどうやって集めるかだ。
迅速に進めようと思えば、世界中で数百とは言わないまでも、数十の臨床試験サイトで一挙に進める必要がある。
その場所の観点からは、ファイザーが有利といえるだろう。世界有数のワクチンメーカーであるファイザーにとって、そうしたグローバルの臨床試験は特段目新しいことではない。
7月1日の投資家向け説明会で、ファイザーのワクチン研究開発部門を率いるカトリン・ジャンセンは4週間ほどあれば後期臨床試験の被験者は集まると発言している。
一方、モデルナは未知の領域に乗り出そうとしている。2010年の会社設立以来、同社は第Ⅲ相試験を実施したことは一度もない。
ファイザーもモデルナも、米政府が推進する「ワープスピード作戦」の一員であり、2021年1月までに安全かつ有効なワクチンを3億ドース用意する取り組みに加わっている。
この政府プログラムが後期臨床試験の実施をどんなふうに後押ししてくれるのか、現時点では未知数だ。
(翻訳・編集:川村力)