撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
転職市場で高く評価される要素の一つに「チームビルディング力」があります。さて「チームリーダーに必要な要素とは何か?」と問われたら、皆さんはどう答えますか?
「メンバーを引っ張っていく強力なリーダーシップ」
——そう答えたあなた、実はその考えは時代にそぐわなくなっています。
もちろん、そうしたタイプのリーダーが活躍できる企業も多くありますが、昨今、転職市場において強く求められているのは「フォロワーシップ型」のリーダーです。
この先、チームリーダー、マネジャーとして転職を目指すなら、フォロワーシップ型のチームビルディング経験を積んだほうが選択肢が広がるといえるでしょう。
また、コロナ禍の影響により、リモートワークが中心となるなかでのチームマネジメントも課題視されています。これは一過性のものではなく、「物理的に同じ空間にいないメンバーをモチベートし、チームとしてまとめて成果を挙げる」というスキルは、今後どの業界にも共通して求められるものでしょう。
そこで今回は、フォロワーシップ型のチームビルディングの方法、また、リモートワーク下でのチームマネジメントをテーマにお話しします。
心理的安全性を高めれば、安心してチャレンジできる
近年注目されているのが「フォロワーシップ型」のチーム。そのマネジメントでは、心理的安全性の確保が大前提となる。
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「フォロワーシップ」とは、組織に属する部下・メンバー(フォロワー)がチームの目標達成のため、上司やチームメンバーに対して「自律的」「主体的」な働きかけをすることを意味します。
つまり、チームメンバーが上司の命令・指示を受けるだけでなく、自発的に考え、行動できるのが「フォロワーシップ型のチーム」です。
カリスマ的なリーダーが上段に立って「俺についてこい!」というスタイルは、今の時代の若手のマネジメントでは通用しなくなりつつあります。
そもそも、ゆとり教育の影響により、カリスマ型のリーダーシップを発揮できる人材は少なくなりました。そして、今は変化の激しいVUCA(※注)の時代。たった1人の発想力やアイデアで勝てた時代は過去のものであり、今はチームメンバーがいかに知恵を出し合い、議論してアイデアを磨き続けるかが重要です。
※注 VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)
加えて、ミレニアル世代は価値観が多様化していく環境で育ち、ワークスタイルも働く目的もさまざま。画一的なマネジメントはもはや通用しません。組織にあるのは、「上下関係」ではなく「役割」であり、全メンバーが対等に意見を言い合える——そんなチームビルディングが求められているのです。
私が尊敬してやまない、元・早稲田大学ラグビー部監督、現・日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターでありTEAMBOX代表の中竹竜二さんの著書『リーダーシップからフォロワーシップへ——カリスマリーダー不要の組織づくりとは』でも、フォロワーシップ型のリーダーの在り方について詳しく書かれていて、学びの多い一冊です。
では、そんなチームを作るためにリーダーは何をすればいいのでしょうか。
まず取り組むべきは「心理的安全性」の向上です。心理的安全性とは、他者からの反応を恐れたり、恥ずかしく感じたりすることなく、ありのままの自分をさらけ出せる状態のこと。
「このチームなら自分の考えや行動を受け入れてくれる」という安心感があれば、メンバーは臆することなくチャレンジできたり、モチベーション高く取り組めたりするのです。
「素の自分」をさらけ出せる関係作りを
では、心理的安全性をどう高めるか。ここからは私自身の体験談をお話しします。
私はリクルートエージェント(現・リクルートキャリア)在籍時代、営業チームのマネジャーを務めていた時期もありました。新入社員だけを集めた部門のマネジメントを担ったこともあります。
その当時、私が目指したのは「自走できるチーム」。当時は「フォロワーシップ」という言葉は認識していませんでしたが、私が指示しなくてもメンバーが自発的に動けるチームビルディングに取り組んだのです。その結果、社内の全グループ中トップの業績を挙げ、MVG(Most Valuable Group)として表彰も受けました。
「メンバーに本音で語ってもらうためには、まず自分自身をさらけ出すこと」。森本さんが常に心がけていることのひとつだ。
撮影:鈴木愛子
その頃に私がしていたこと。一つは、メンバーとの1on1で、その人がこれまでどんな家庭環境や友人関係の中で育ってきたのか、その人の「原点」となる部分をじっくり聞くことでした。
もちろん、いきなり「あなたはどう育ってきたの?」なんて質問を投げかけられても、相手は戸惑ってしまいます。
そこで私は、まず自分自身について話すことから始めました。生まれ育った場所、学生時代に熱中したこと、この会社に入った理由、どんな思いで仕事に取り組んでいるか。プライベートから仕事観まで、自分をさらけ出しました。
そして、「上司と部下は単なる役割であり、人としては対等。私はあなたと『人対人』のお付き合いをしたい」と伝えました。
するとメンバーは「ここまでオープンに話していいんだ」「この人になら話しても大丈夫」と安心し、自分のことを率直に話してくれるようになったのです。
対話の中では、その人が目を輝かせてエピソードを語ることがあります。すると「この人はこんなシーンで『楽しい』と感じるんだな」「こんな役割を担うといきいきするんだな」など、「モチベーションの源」が分かります。
そして、その人ならではの「モチベーションの源」を刺激するような役割や課題を与えるようにしたところ、自主的に考え、行動してくれるようになりました。
メンバー1人ひとりの「モチベーションの源」を知るためには、オープンに話し合えるう関係をつくることが大切。
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また、私との1on1の場だけでなく、チームメンバー同士でもお互いの生い立ちや価値観を共有する機会を設けました。各自、幼少期から現在までの経験、モチベーションの上がり・下がりの波などを記したワークシートを用意し、メンバー全員で感想を話したり質疑応答したりするものです。
メンバー同士がお互いのパーソナリティや価値観を理解したことで、連携がスムーズになりました。「彼(彼女)に言いたいことがあるけれど、どんな反応が返ってくるか分からないからやめておこう……」といった「事なかれ主義」がチーム内に広がる心配もなくなりました。
言うべき場面で言い合うことができる関係ができ、心理的安全性が高いチームになったことで、1人ひとりが主体的に動いてくれたと思います。
リモートワーク下でのチームマネジメントのポイント
コロナ禍で在宅勤務が中心になって以降、リモートワーク下でのチームマネジメントに悩んでいる方は多いことでしょう。
「メンバーの姿が見えないので、何をしているか分からず、適切なタイミングで指示を出せない」と……。
リモートワーク下でのチームマネジメントには戸惑いの声も多い。
Maki Nakamura / Getty Images
コロナを経て訪れるニューノーマルの時代も、働き方改革の流れでリモートワークは拡大していくと思われます。上司が隣にいて都度指示を出せない環境で生産性を上げていくためには、やはりメンバー1人ひとりが自分で考えて動けるチームをつくる必要があると言えるでしょう。
今は徐々に「対面」「集合」ができる状態になりつつありますので、折を見て1on1やチームミーティングを行い、「心理的安全性」を高めるための対話を試みてはいかがでしょうか。
ちなみに、私が経営する株式会社morichのメンバーは皆、自分で考えて動けるプロフェッショナルとして活躍してくれています。コロナ以前は「プロセスのマネジメント」をあまりしていませんでしたが、在宅ワークに切り替えてから始めた日課があります。
朝イチの「今日は何をするか」の確認、夕方・終業時の「今日の振り返り」です。
主体性を持ったメンバーたちではありますが、時には、本人がよかれと思ってしていることと、私が期待していることがズレることもあるかもしれません。間違った時間の使い方をしないように、目的の共有と軌道修正をする場として、1日2回はすり合わせを行っています。
「指導する」ではなく「気づいてもらう」
私がマネジャー時代、自分で考えて動けるメンバーに育てるために意識していたことがもうひとつあります。
メンバーに問題点を発見した時、「正解を与える」のではなく、「自分で気づかせる」ようにしていました。
例えば、メンバーがお客様と電話しているのを聞いていて、「これはマズいな」と思ったら声をかけるのですが、「今の電話で○○と言っていたけど、それじゃダメだよ。こういう伝え方をしなさい」などとは言いません。
「○○と言っていたけど、どういう意図でその話をしたの?」「お客様はどういう捉え方をしたと思う?」といった伝え方をします。
メールも同様です。メンバーからCC・BCCで届くメールをスルーせず、どんなことを書いているかをチェック。電話の場合と同様、「どういう意図か」「相手はどう思うか」を投げかけました。
メンバー自らが動けるように「気づき」を促すことがマネジャーの大切な役割。
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ちなみに、現在のリモートワーク中でも、メールやグループチャットなどでの発信はメンバーの動きをつかむ手段として有効なので、しっかり見守っておきたいものです。
このように問題点に気づいた場合、正解を教えたほうが早いのですが、自分で考えさせることで本人の成長につながります。
日頃から、チームの業績のためだけでなく、メンバー自身の成長、あるいはお客様と信頼関係を築けることなどを「目標」として共有しておけば、「口出しされてうっとうしい」なんて思われることはないと思います。
チームリーダーは、自分が上に立って引っ張っていくよりも、メンバーに動いてもらったほうが圧倒的に「ラク」になります。その分、戦略を考えることに自分の時間を使うことができます。「俺様」ではなく「おかげ様」のスタンスのほうが、生産性が高い、強いチームを築けるのです。
以上のような点に気を配り、日頃から意識してチームマネジメント力を高めておくと、いつしかそれがあなたの強力なポータブルスキルになりますよ。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第25回は、7月20日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。