「夜の街」より重要な“見えない数字”とは…東京での新型コロナ再流行の読み解き方

書類

東京都の感染者情報資料には「調査中」の項目が多い。

撮影:三ツ村崇志

7月8日、東京都では新型コロナウイルスの感染者が新たに75人確認された。

ここ数日、緊急事態宣言が発令された4月初旬と同じ100人を超える感染者が確認され続けていたことを考えると、ひとまず状況が落ち着いてきたかのようにも見えるかもしれないが、感染者がいまだに多いということに変わりはない。また、4月には新たに確認される感染者が一度100人を下回ってから、200人近くにまで一気に増加していた。

現状は、まだそれほど楽観視できる状況とはいえないだろう。

とはいえ、同じように100人前後の感染者が確認されていた4月頃の状況とも少し異なるのも事実

では今、日々の生活を送る上で、いったいどのような数字に注意するべきなのか。

5月末に「企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル」を緊急出版した、国際医療福祉大学・和田耕治教授に話を聞いた。

※取材は7月5日に行われ、その時の情報にもとづいている。

同じ感染者100人でも、4月とはフェーズが違う東京

和田教授

国際医療福祉大学院大学の和田耕治教授。お忙しい中、7月5日に取材の時間を頂いた。

提供:和田耕治教授

まず、感染者が増えてきた東京の現状をどう見るのか。

「(3月末頃からの流行は)海外の渡航者をきっかけに、『夜の街』や家族間、同世代の人の間で感染が広がり、病院や介護施設に拡散していきました。

今確認されている感染者の100人は、4月には確認されていた100人とは意味が違っています。今は、当時(3月末〜4月)は検査がされずに見えてこなかった方たちの感染が、検査によって見えている可能性があります」

と和田教授は話す。

ポイントの一つは、感染者の年齢構成。

4月2日の感染者情報

4月2日の感染者の年齢構成。

出典:東京都福祉保健局

4月の段階では、20〜30代を中心とした若者世代の感染者も多かったが、50歳以上の世代にも幅広く感染者が確認されていた。すでに、病院や介護施設などの、高齢者に感染が広がっていた。

一方、6月中旬から7月初旬の感染者は、20〜30代の若い世代に明らかに偏っている。

7月7日の感染者情報

7月7日の感染者の年齢構成。

出典:東京都福祉保健局

若い世代は、新型コロナウイルスに感染しても軽症のまま回復するケースが多い。そのため、感染者が増えてきたといっても、すぐに重症者に対する治療が追いつかなくなる「医療崩壊」のような状況になるとは考えにくい。

重症者

東京都の感染者数に占める重症者の人数。7月以降、100人規模の感染者が確認され続けているが、重症者は減り続けている。

出典:東京都福祉保健局

実際、4月上旬の感染拡大期には日々重症者も増加していたが、6月中旬以降に新たな感染者が増えていった中では、重症者は減少を続けている

6月24日以降、都内において新型コロナウイルスが原因で死亡した人も報告されていないことから、単に重症者が回復していることが分かる。こういった点からも、少なくとも現時点ではまだ重症者が大幅に増える(4月上旬のような)状況には陥っていないと言える。

現状はむしろ、3月上旬ごろには確認されていなかった軽症の感染者が、検査体制などの改善によって見えてきた状況に似ていると言えそうだ。

もちろん、新たな感染者が確認されてから重症者が増えるまでには一定のタイムラグがあるため、単純に安心できる状況でもない。軽症でも感染者が増えれば入院などの措置が必要となり病床を圧迫し、それが結果的に医療崩壊を招く要因にもなりかねない。

現状が予断を許さない状況であることには変わりはない。

今後は「50代以上の孤発例」に注意

高齢者

新型コロナウイルス感染症は、年齢が上がるほど重症化するリスクが高くなる。特定の地域の高齢者たちの間で感染が広がってしまうと、一気にその地域の医療機関が逼迫した状態になってしまう恐れがある。

撮影:今村拓馬

では、今後の動向を見守るためにはどういったデータに注目すべきなのか。

報道では、とりわけ「夜の街」の感染の実態にフォーカスが当てられがちだが、和田教授は、現状で特に注目するべき数字は「50代以上の孤発例」(リンクの追えない感染者)だと指摘する。

もともと、感染経路の追えない感染者の割合は3月の頃から注目されてきた。その裏には、「見えない感染者」が存在すると考えられるからだ。

現在、感染者の中心は若者世代。こういった世代と、50代以上の人が直接的な交流をもつ機会は限られている。

そのため、50代以上の孤発例が複数確認された段階で、「20代〜30代を中心とした感染の広がりが起きている」という段階から、もう一歩広い範囲での感染の広がり(高リスク層での感染の広がり)が起きている懸念が生まれるというわけだ。

50代以上の感染者は、コロナ以外の理由で入院したあと、コロナだと判明することもある。これは「紛れ込み事例」などと呼ばれ、こういった事例が複数、同じ病院で見られるようになると、その地域内である程度感染が広がってしまっていると考えられるという。

「こういったことが起きると、その地域に対して検査を強化することを考えるべきです。『具合の悪い人への検査を強化すること』が必要になります」(和田教授)

実際に、すでに感染がある程度広がっていると考えられている東京都新宿区では、具合が悪い人だけではなく、感染者が相次いでいるエリアの「症状の出ていない事業者や従業員」らを対象にした集団検診が実施されている。

感染している可能性(事前陽性率)が高い無症状者に対する検査は、7月6日に行われた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会でも、今後推奨していくとしている。

見えない情報をどこまで出すか

情報

東京都のWebページでは、年齢、性別程度の情報しか公表されていない。

撮影:三ツ村崇志

現状、東京都福祉保健局のウェブページで公開されている感染者情報を見ても、確認できるのは年齢と性別のみ。「50代以上の孤発例」「紛れ込み事例」など、和田教授が注目すべきと指摘した情報について公開情報はなかった。

現時点で公表されている東京都の感染者データからは、大雑把な50代以上の感染者数の増加傾向しか判断できない。

7月7日の感染者106人中、50代以上の感染者は12人(50代6人、60代6人)。7月8日にBusiness Insider Japanが東京都福祉保健局に問い合わせたところ、そのうち感染経路の追えない患者(孤発例)は50代で1人、60代で2人だった。

これまでウェブ上で個別の感染者が孤発例かどうかを公開してこなかった理由について問うと「そこまで手が回っていないのが現状」と担当者は話す。今後も、基本的には公開する予定はないという。

和田教授は、言う。

「できれば、いつ、どんな状況で、どういう人が感染したのかということを知りたいと思っています。とくに、他の病気の疑いで来院して、その後感染が判明した『紛れ込み事例』などのデータも出して欲しい。そうした事例のあった地域の医療機関は検査を強化することになる」

神奈川県をはじめとした他県と比べてみると、東京都が公開している情報は少ない

一方で、感染者の多い地域や、実際に感染者が確認された場所の名前などを公表する難しさもある。

「夜の街」は、3月末に名指しされて以降、これまでスケープゴートのように扱われてきた。感染者が確認された学校や企業、特定の飲食店などに対しても、差別的な言動が投げつけられているケースがある。

こういったことが続けば、感染対策に欠かせない感染者からの情報提供などが滞ってしまいかねない。

今後、より的確な感染対策を進めるためにも、感染情報を発表する自治体はもちろん、それを報じるメディアも、改めて感染対策のために本当に必要な情報は何なのか、落ち着いて考えるべきだ。

その情報を出すことで、不幸にも感染してしまった個人や、感染者が出てしまった特定の企業などに差別的な目が向けられることは絶対に避けなければならない。

今後の感染対策。何ができるのか?

街

最近では、リモートワークを終了し、原則出社することにした企業もある。

撮影:竹井俊晴

現時点では、20〜30代を中心とした限られた感染の広がりしか見えていないとはいっても、このまま感染者が増加していけば、その分、他の年代に感染が広がるリスクは高まっていく

ここ数日では、飲み会や職場内での感染の広がりも目立ってきた。

今後、感染対策はどのように実施されるべきなのか。

和田教授曰く、「感染対策の基本は同じです」という。

日常的に密を避けて、会話をするときにはマスクを着用し、頻繁に手洗いをすることは感染対策の基本だ。

また、人と会う場合も、コロナ以前と比べて多少頻度や時間を減らすなど、「接触減」のための工夫を試みることが重要となる。飲み会や食事会を行う際には、換気をよくしてお互いに離れるなどの対策をして欲しい。ただし、和田教授によると、そういった対策をしても感染してしまった事例はあるという。

人と会うことは、少なからず感染のリスクを上げる行為であると考えて、自分の生活の中でリスクをコントロールすることが必要だ

企業活動を継続する上では、地域での感染者が出ている以上、孤発例があろうがなかろうが少しでも具合が悪ければ出社を控えることが大前提といえる。

和田教授は、こう語る。

「これが意外とできていないことがあります。具合が悪いのに出社して感染を広げたとなると、企業名などが公表されることがあり影響が大きい。若い世代は、具合が悪い場合は勇気をもって上司にその事実を伝えることが必要です。上司もさすがに最近は理解してくれるはずでしょう。

また、『昨日具合が悪くても朝は大丈夫になった』ということでも、出社はまだです。症状がおさまっても、48時間程度は様子を見て症状が再び出ないか確認して欲しい。本当は72時間程度様子を見て欲しいところです

「具合が悪い」とは、どういった状態なのか。

和田教授は、「発熱、咳、呼吸が苦しい、急に始まった味覚や嗅覚の障害、こうした場合には、まずは外出しない、症状がおさまらないならひどくなる前に受診を」と話す。

もしこういった症状がある場合は、いきなり病院に行くのではなく、まずはかかりつけ医(あるいは近隣の内科)に電話をして症状を説明してから受診して欲しい。

新型コロナへの感染が疑われ、近隣の病院を受診できない場合には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診療に対応している近くの病院を聞けば教えてもらえるはずだ。もし、それでも分からなければ、保健所に設置された帰国者・接触者相談センターに連絡して欲しい。

なお現状、新型コロナウイルスに感染していると診断された場合、症状の状況に応じて10日程度入院となる可能性がある。

病院

入院患者が増えてくれば、たとえ軽症者でも医療資源を圧迫してしまうことになる。

撮影:竹井俊晴

たとえ医療機関がどれだけ治療にあたろうとも、感染者が増え続けてしまえばいずれ医療崩壊は免れない。医療従事者に頼るだけでは、感染対策は実現できない。

緊急事態宣言のような劇薬は、そう何度も使えない。今後は、一人ひとりが現在の地域の感染状況を正確に把握しながら、自分の心のブレーキをかけることが重要となってくることは間違いない。

すでに全国でも、ポツリポツリと孤発例の感染者が確認されはじめている。

「ほかの地域の孤発例が出てきたということの重みを感じています。4月頃と似たような意味合いをもっていると思います。東京以外ではもう少し詳しい情報がある。それによると当初は接待を伴う飲食店が中心でしたが、次第に、そうしたところに縁がない市民に広がっていると思われる感染が確認されようとしています」(和田教授)

文・三ツ村崇志

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