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くら寿司が挑む、マグロの「AI仕入れ」。新商品「AIまぐろ」を実食…プロの目はデジタル伝承できるか?

くら寿司 田中信副社長

くら寿司の田中信取締役副社長。

撮影:伊藤有

回転寿司チェーン大手のくら寿司が、マグロの買い付けにAI(人工知能)を使い始めた。

くら寿司は7月7日、新商品発表イベントのなかで、仕入れ時のマグロの質(ランク)判別にAIを使うアプリ「TUNA SCOPE」の実験的な導入を発表した。

背景には、新型コロナ流行による海外買い付けの困難化に加えて、目利きとなる仲買人の後継者不足問題がある。

くら寿司の「仕入れ」改革

「TUNA SCOPE」のデモ機。既にAIマグロ向けのキハダマグロの仕入れに使い始めている。

「TUNA SCOPE」のデモ機。尾の断面を撮影することで、仲買人の経験値を学習したAIが画像認識で判断する。新商品「極み熟成 AIまぐろ」向けのキハダマグロの仕入れに使うという。

撮影:伊藤有

「くら寿司は新たな改革にチャレンジする。新しい仕入れ様式。まずは寿司ネタでもっとも人気のあるマグロからスタートする」と、会見の中で、くら寿司の田中信取締役副社長は語った。

「新しい仕入れ様式」とは、これまで現地まで仲買人などが赴いて判断していたマグロのランク付け判断を、ディープラーニング技術を使ったAIアプリ「TUNA SCOPE」で判別する試みだ。同社によると、大手チェーンでの導入は国内初だという。アプリ開発は、電通とそのグループ企業であるISID(電通国際情報サービス)が担当している。

電通がプロジェクトを開始したのはおよそ3年前。AIの開発にあたっては、仲買人が実際に見ているマグロの尾の断面を撮影して、数千枚の学習用データをつくり、そのマグロが実際にどんな等級だったのかを教師データとして用いた。その後、くら寿司の導入が決まった。

くら寿司によると、一人前の仲買人になるには、一般に10年とも言われる下積みが必要。さらに、その「学び方」や「判別方法」はほぼマニュアル化されておらず、技術の伝承が課題になっている。

TUNA SCOPEを使うことで、プロの「眼」の技術をデジタル化し、およそ90%以上の精度でマグロの等級のAランク(最上級)/Bランク(上級)/Mランク(並品)を判別できるという。

くら寿司のTUNA SCOPE

実際のマグロの尾の断面に見立てた写真を撮影すると、判別のデモが体験できる。どれがAランクだかわかりますか?(ちなみに答えは、左からAランク、Bランク、Mランク)。

撮影:伊藤有

くら寿司によると、マグロの仕入れへの利用から取り組んだのは、マグロがメジャーな商品であることに加えて、「品質チェックがほかの魚種に比べて難しい」からだと明かす。

水揚げされた生の魚では、目の濁りや体の弾力など、質判断の情報量が多い。一方、マグロは基本、冷凍されたままで、尾の断面の色あいなどだけで、仲買人の経験値を総動員して「良質さ」を見分ける。くら寿司の仕入れ担当であっても、その質を見分けるのは簡単なことではないという。

それに加えて、コロナ禍で仕入れの現地に赴くことが制限される現状では、今後、仕入れの質の問題が出てくる、という課題意識がある。

「AIまぐろ」を実食。濃密なうまみ感

「極み熟成 AIまぐろ」

手前がAランクまぐろを使った「極み熟成 AIまぐろ」。奥が、通常のMランクまぐろ。

撮影:伊藤有

くら寿司はこの日、TUNA SCOPEを使って判別したAランクマグロを「極み熟成 AIまぐろ」という期間限定商品として7月10日から売り出すことも発表。全国の実店舗メニューとして並び、価格は2カンで税込220円とプレミアム価格で勝負する。

発表会では「AIまぐろ」と、Mランクの一般まぐろの比較実食もできた。「並品」Mランクと比べると、舌に載せたときの濃厚な旨味感に、明白な差があることが感じられる。Aランクの質の高さだけでなく、くら寿司がウリにしている48時間熟成による効果もありそうだ。

コロナ禍で一番難しいのは「お寿司を流す」という当たり前のこと

くら寿司の既存店売上高

くら寿司の既存店売上高。6月には急回復できたが、今後の見通しは第二波の流行次第だ。

出典:くら寿司オンライン発表会からキャプチャー

くら寿司は他の外食産業同様に、この数カ月、苦しい戦いを続けてきた。4月には既存店売り上げベースで前年対比51.9%まで落ち込んだ。緊急事態宣言が明けた6月には103.5%に急回復したが、いま市中では東京以外の地域でも、第二波とも言われる感染者増加が起きている。

田中副社長は、ビジネスインサイダーの取材に対し、新型コロナの流行がもたらす回転寿司という業態への危機感について、

「非常に難しい時代だと感じている。関連会社、お客様、従業員のことを考えた時に、くら寿司として(遮断シートなど複数の対策も用意しているが)一番難しいのは、“お寿司を流す”ということ」(田中副社長)

という認識を示した。

くら寿司は2011年から、独自の防菌寿司カバーを導入するなど、回転寿司の安心・安全確保にもアイデアを取り入れてきた。

寿司カバー鮮度くん

くら寿司の回転レーンのトレードマークでもある、寿司カバー。名称は「鮮度くん」。そのほか新型コロナ対策として、遮断カーテンやテーブル入れ替え時のアルコール消毒なども取り入れている。

出典:くら寿司オンライン発表会からキャプチャー

コロナ以前の独自調査として、防菌寿司カバーの効果は「(寿司の表面に)99%、菌が付着していない、残りの1%は不明。つまり検出されず」(田中副社長)と、取り組みへの自信を強調する。

そうした過去からの実績の上で、「(このコロナ禍にあって)回転寿司業界で、大げさに言えば“回る寿司”で流せる(流し続けられる)というのは、当社だけだろうという自信がある」(同)とコメントした。

コロナ対応「ドライブスルー」に手応え、将来100店舗へ可能性

「回転寿司のニューノーマル」ともいえる対応としては、出前館との提携(現在約40店舗)やドライブスルー店舗の実験(現在約10店舗)にも取り組む。

特にドライブスルー店舗に関しては「なるべく非接触で済ませたい」という利用客からの評判は上々だという。広報によると、対応店舗は今後、100店舗以上に増やせる余地がある、と説明している。

編集部より:TUNA SCOPE導入の経緯詳細を正確に改めました。 2020年7月8日 21:00

(文・伊藤有

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