パランティアのアレックス・カープCEO。
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- ビッグデータ分析企業のパランティアは7月6日、証券取引委員会(SEC)に上場申請書類を提出し、IPOに向けた申請手続きを秘密裏に開始したと発表した。
- パランティアは、国防総省、陸軍、海兵隊、FBI、CIAなどの政府・治安機関・軍組織の秘密業務を担っていることでも知られている。
- 企業価値200億ドルと言われるパランティアのソフトウェアは、アメリカ移民関税執行局(ICE)が不法移民のデータを収集・保管・検索する際に利用されたほか、職場強制捜査にも利用されたと報じられている。そのため、パランティアは以前から活動家たちの抗議を受けている。
ビッグデータ分析企業パランティア(Palantir)は7月6日、上場申請書類を秘密裏に提出したことを発表した。
パランティアの存在は謎に包まれている。同社がIPOを計画しているという噂は昨年からあった。しかし、Business Insiderをはじめとするメディアは今年6月、同社が早ければ9月に上場するべく準備を進めていると報じた。
パランティアの名が世に知れわたった最初のきっかけは、共同創業者のピーター・ティール(Peter Thiel)だ。ティールはベンチャーキャピタリストだが、フェイスブックの取締役も務め、シリコンバレーにおけるトランプ政権の最大の支持者のひとりでもある。
パランティアは2003年の設立後、全米屈指の企業価値を誇るスタートアップへと成長した。ベンチャーキャピタルを通じて27.5億ドルを調達し、企業価値は200億ドルとも言われるが、その事業は謎に包まれている。
高い企業価値が付けられる一方、論争の的ともなっているこのデータマイニング会社は何者なのか。以降で詳しく見ていこう。
パランティアとはどんな会社か?
パランティアの創業にはカープ(左)のほか、ベンチャーキャピタリストのピーター・ティール(右)も関わっている。
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パランティアは2003年、カリフォルニア州パルアルトに設立された。社名の由来は、『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する「遠くから見透かす」ことのできる魔法の水晶玉だ。
創業メンバーはアレックス・カープ(Alex Karp)CEOやピーター・ティールなど、ペイパル出身者とスタンフォード大学のコンピュータサイエンティストで構成される。
パランティアはデータを管理、分析、保護するソフトウェアを開発しており、ビッグデータ・ツールを大企業や政府機関に提供している。
同社のウェブサイトには、人身取引組織の摘発、財務分析、自然災害への対応、感染症流行の監視、サイバー攻撃との戦い、テロ攻撃の防止などに同社のサービスが活用されている、と記されている。
ブルームバーグの報道によると、パランティアは2020年の売上高を10億ドルと見込んでおり、創業16年にして初めて損益分岐点に到達する見通しだ。
パランティアは非上場だが、企業価値は110億〜410億ドルと見積もられており、調査会社PitchBookは200億ドルと算定している。
カリフォルニア州サンノゼにあるペイパル本社。パランティアのソフトウェアにはペイパルでの経験が生かされている。
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パランティアはペイパルでのティールの経験から生まれた。ペイパルではクレジットカードの不正利用による損害が毎月数百万ドル発生していた。ペイパルはこの問題を解決するため、疑わしい取引を分析するためのセキュリティ・アプリケーションを開発した。
パランティアのアプローチもこれと同様で、複雑なデータの中からパターンを見出すものだ。
例えば、司法当局はパランティアのソフトウェアを使うことで、通話記録、写真、車両情報、犯罪履歴、バイオメトリクス、クレジットカード取引、住所、警察調書の間の関連性を調べることができる。司法当局がパランティアのソフトウェアを利用して車のナンバーを入力すると、その車が通ったルートや場所を素早く特定できるという具合だ。
一方で、アメリカの技術系ニュースサイトThe Vergeの報道によると、パランティアの技術はニューオリンズ州の「予測警備」にも使われたという。この捜査によって、監視・逮捕の処分を受けた有色人種が増えたことが明らかになっている。
パランティアはここ数年で複数の訴訟にも直面してきた。2017年には同社が採用でアジア人を差別しているとして労働省から訴訟を起こされ、後に和解している。
パランティアはなぜここまで謎めいているのか
パランティアは情報を開示しないことでもよく知られている。それは、同社の事業の性質上、顧客契約の多くに機密保持条項が規定されているからだ。その結果、同社は目立つことを避け、自社のソフトウェアの利用状況や財務状況などについて、ほとんど情報を開示していない。
同社の顧客には営利企業や非営利団体のほか、政府機関、銀行、法務調査会社なども名を連ねる。クレディスイス、JPモルガン・チェース、国防総省、メルク、エアバス、国家安全保障局、FBI、CIAも同社の顧客だ。
政府機関との仕事は、パランティアの中核事業と言える。創業当初の数年間は、アメリカ政府機関だけを相手にデータ分析製品を販売していた。
パランティアは現在も、敵の活動情報収集、犯罪者監視、不正の検出、ロジスティクス計画など、軍組織や戦闘任務向けのさまざまな事業を行っている。オサマ・ビン・ラディンを発見した際もパランティアのソフトウェアが使われていたと言われている(ただしこの件について、同社はコメントを出していない)。
パランティアは顧客選びも慎重だ。カープは以前、フォーチュン誌のインタビューの中で、あるタバコメーカーとの提携を断ったことについて「その企業が、タバコの販売先となり得る社会的に脆弱な地域をピンポイントで特定するためにデータを利用することを懸念した」ことが理由だったと語っている。
パランティアがICEと行っている事業は何か
アメリカ政府の歳出情報サイトUSAspending.govによると、パランティアはアメリカ移民関税執行局(ICE)との契約によって、進行中の契約分9400万ドルを含む1億7000万ドルを受け取った。ICEと言えば、トランプ政権による不法移民の取り締まりを実行した組織だ。
パランティアは不法移民の雇用情報、通話記録、移民履歴などのデータを収集、保存、検索するための調査事案管理ソフトをICEに提供している。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、トランプ政権の移民親子分断政策によってアメリカの南部国境付近が混乱に陥った後、2018年にはパランティアの社員数名がICEとの取引停止を会社に要請したという。
これに対しカープは「パランティアのソフトは麻薬取り締まりのために利用されているのであって、親子の分断には関与していない」と回答、ICEがパランティアの技術を利用しているのは人身取引や児童搾取といった犯罪活動の調査とテロ防止のためだ、と述べた。
しかし、ラテン系・メキシコ系アメリカ人の全米団体Mijenteの報告によると、ICEの調査官はパランティアのソフトウェアを利用して不法入国した子どもと家族のプロフィールを作成しており、それが告訴や逮捕に利用される可能性があるという。
さらに、2019年のWNYCの報道によると、ICEの調査官が職場強制捜査の計画のためにFALCON Mobileと呼ばれるパランティアのアプリを利用したという。このアプリを使えば、司法当局のデータベースの中から移民履歴、家族関係、過去の国境通過記録を検索することが可能となる。
またICEは、2018年に職員に対しFALCONアプリを利用するようメールで通知したわずか2日後に全米約100軒のセブンイレブン店舗の強制捜査を実行したという報道もなされている。
抗議の声はアマゾンへも飛び火
アマゾンのジェフ・ベゾスCEO。
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パランティアはビッグデータ・ソフトウェアの運用にアマゾンのクラウドを利用していることから、批判の矛先はアマゾンへも向いている。
2018年にはアマゾンの匿名社員がMediumに投稿し、450名を超すアマゾン社員がジェフ・ベゾスCEOに対してパランティアとの取引を停止するよう要請したことを明かした。アマゾン社員はICEとのつながりについて全社会議の席上でもベゾスに抗議している。
また、2019年にはパランティアとの取引停止とICEへの対抗を求める社内文書がアマゾン社員の間で出回った。同じ週には、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の会議の席上、パランティア・ICEとアマゾンとのつながりに抗議する活動家が基調講演を遮るという行為に及んでいる。
この件に関し、AWSのスポークスパーソンはBusiness Insiderの取材に対して次のように回答している。
「当社はこれまでも繰り返しお伝えしてきたとおり、企業も政府機関も、新たな技術を利用するうえでは責任をもって合法的に利用する必要があると強く認識しております。政府は、容認可能なAIの利用方法や、誤った利用による影響を明確に示す必要があり、当社はそのための法的枠組み案を提供してまいりました。政府への要請を引き続き行うとともに、関連法案の成立を求め、アイデアや具体的な提案を提供し続けてまいります」
パランティアのIPOはいつ?
パランティアは今年9月の上場に向けて着々と準備を進めていると見られている。
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パランティアが最後の資金調達を行ったのは5年前。その時点での企業価値は200億ドルとされた。その後のセカンダリーマーケットでは80億〜120億ドルだったと推定されている。
パランティアのIPOは長らく想定されてはいたものの、その噂が高まったのは2019年、同社がクレディスイスおよびモルガンスタンレーとIPOを協議していると報じられた際だ。この時の金融機関各社の試算では、同社の企業価値は410億ドルとされた。
そして2020年7月6日、パランティアは証券取引委員会(SEC)に上場申請書類を提出したことを発表した。主幹事証券会社はどこか、直接上場(ダイレクト・リスティング)でのIPOなのかは現時点で不明であるものの、今年9月の上場に向けて着々と準備を進めている。
コロナ禍の影響で他社のIPO計画が中断されるなか、パランティアのIPOは今年最も高い期待を集める上場となるだろう。
(※この記事は、2020年7月にBusiness Insider英語版に掲載された原文から翻訳するにあたり、一部抄訳・編集を施しています)
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)