気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の道場相手はABEMA Primeチーフプロデューサーの郭晃彰さん。ネットメディアの最前線で働く郭さんのお悩みは、会社の「働かないおじさん」への微妙な感情。中編は世代間にある待遇の差から、独立する条件にまで話が広がる。
郭晃彰(以下・郭)
働かないおじさんがどうして生まれてしまうのかは、前回、ある程度納得したんですが、それでもやはり、「このおじさんは何もしていなさそうだけど、おれより給料多いんだろうなぁ」と思ってしまいます。で、「自分は結局、お金のために仕事をしているんじゃないか?」って悩むんですよ。
三浦崇宏(以下・三浦)
それってトレードオフだと思うよ。
郭
トレードオフ?
三浦
郭みたいに若いうちは、ネットワークを広げたり、社会的認知を高めたりしていけるじゃない。でも働かないおじさんたちは、ネットワークも社会的認知もどんどん減っていってる。もっと言うと、郭が給料上げたいと思ったら転職はいつでもできるけど、おじさんたちはもうできないじゃん? 「可能性」「自由」「影響力」の3つを手にしてるのが郭で、「金」しかもらえてないのがおじさんたち、ってこと。
郭
トータルでは得してるんですね、僕のほうが。
三浦
だからそのバランスを変えたいんだったら、会社を変えてみることだよ。例えばだよ、テレ朝から、それよりは規模も知名度も低いメディア企業のいいポジションに転職するとするじゃない。すると、「テレ朝の郭です」で会える人を減らすことにはなるけど、代わりに給料がちょっと上がるかもしれない。
郭
そうですね。確かに。
「可能性」「自由」「影響力」を手にしてる郭さん。
博報堂からの独立は「1勝2分け」で決意した
三浦
おれ、GOを立ち上げるとき、博報堂に居続ければ得られる「金」「成長」「名誉」の3つが、博報堂をやめたらどうなるか比較してみたの。「金」、つまり収入は100%上がるなって確信があった。郭だって、給料上げる方法なんてすぐ思いつくでしょ?
郭
いえ、それはちょっと分かんないです(笑)。
三浦
フリーになってもいいし、GAFAに行ってもいいじゃん。で、おれの場合2つ目の「成長」は怖かった。博報堂には自分より経験ある先輩方がいて、企画に意見をくれたり、自分にはない視点を持ってたりしたから。
郭
先輩に「壁打ち」できますからね。
三浦
もし辞めてしまったら成長できなくなる可能性が結構あるなと。でも、すぐに気を取り直した。だって、別に辞めたって先輩たち優しいから絶対会ってくれるし、そういう先輩方って辞めたくらいで会ってくれないような人たちじゃない。会ってくれなくなる人もいるとは思ったけど、そいつらはまぁ別にいいじゃん(笑)。
郭
(笑)。
三浦
3つ目の「名誉」もドキドキした。博報堂の時の大きい案件は日産のCMとかだけど、こういうメジャーな仕事が独立後のおれに来るのかどうかは、最後まで不安だったよ。でも、ここは答えが出ないまま独立した。そうして考えると、「金」は絶対上回る、「成長」はイーブン、「名誉」はちょっと不安。つまり「1勝2分け」。なら損はないと思って博報堂を出た。これを郭に当てはめると……。
郭
僕ですか(笑)。
三浦
金儲けはもっとできる。でも成長するかはちょっと分かんない。じゃあ名誉はどうか。今は『ABEMA Prime(アべプラ)』という、すごく影響力のある仕事をしてるよね。郭自身が「この人をもっと世に知らしめたい」って思う人を呼べるわけだから。これが他の場所でもできるかどうか。
郭
できませんね。だから今のところ、僕にキャリアを変えるという選択肢はないかな。
三浦
でも郭は幸せじゃん。ABEMAっていうビッグウェーブが来てさ。
郭
本当に。まさかサイバーエージェントが電通の株式時価総額を超えるとは。
三浦
郭のポジションって、会社員として誰も見たことのないロールモデルになる可能性がある。すごく幸せでしょ。テレ朝に戻ったとしても、すぐ新しい報道番組を期待されるよね。「ABEMAでやってきた経験を地上波で活かしてほしい」って。あえてすごく失礼な言い方するけど、一瞬ネット放送を経験したら、成果が出ようが出まいが、やったこと自体が価値になるからね。
郭
そうですね。来年から民放地上波のネット同時放送が始まるので、テレビマンの中にもネットやSNSに強い人が出てきて、ナレッジもいろいろな人が持つようになるんで……。
三浦
今のうちに経験してる奴は先行逃げ切り。
郭
はい。だから今から1年半くらいは今のスター状態が通ります(笑)。
「ABEMA TIMES」という発明
三浦
『アベプラ』に集まってくるネット界の怪しい人間たち、彼らのネットワーク含めて、郭はいま一番美味しいとこを取ってるよね。
郭
ただ、フィールドが面白いだけで、やってる仕事がぶっ飛んでるわけじゃないんです。三浦さんに出てもらっても、申し訳ないことに『スッキリ』(日本テレビ)ほどはインパクトないですし。
三浦
でも楽しいけどね。インパクトで言うと『スッキリ』は確かに大きいけど、『アベプラ』は出てる人たちと距離が近くなる。何かさあ、「一座感」があるじゃん。カウンターとして集まってて、楽しいムーブメント作りたいですねって、何となくみんな思ってる。
郭
そうですね。うん、うん。
三浦
あとね、今って映像コンテンツのリアタイ(リアルタイム)視聴者は重要じゃない時代じゃん。『アベプラ』だって放送されたものを「ABEMA TIMES」が拾って、それがYahoo!に行くかLINEに行くかで見る人が変わるわけだし。あの仕組みはいいよね。
郭
発明だと思います。
三浦
世の中のニュースメディアの最も下品なものとして、芸能人のブログやインスタの内容をネットニュースにするっていう、ゴミみたいな仕事が世の中にあるじゃん?
郭
(笑)。
三浦
「ABEMA TIMES」ってあれの「良い版」だよね。郭が『アベプラ』で猛獣をいっぺんに集めて、せーので発言させる。クリティカルな新しい視点がある。問題発言もピックアップされて、短尺の動画とテキストに落として、それをTwitterとネットニュースを媒介にして拡がっていく。これ、めちゃくちゃいいと思う。
『アベプラ』は大きな問題を設定している
郭
リアタイ視聴が重要じゃないとすると、何が重要ですか?
三浦
「大きい問題を設定できるかどうか」だよ。まさに「働かないおじさんがいるよ」とか、「はあちゅうにアンチと会ってもらったよ」とか。そういう大きい問いかけができるから、『アベプラ』は強いんだと思う。
郭
確かにその辺が、「意外と」ってあえて言いますけど、意外と評価されるんですよ。めちゃくちゃ真面目なコンテンツが、YouTubeでやたら跳ねるんです。「難病について追っかけてるんだ」とか。その手の企画は地上波の良い時間帯だと弾かれるんですけど。
三浦
どの辺の層が見てるの?
郭
10代、20代ですね。最近、うちの若い子が言ってるのは、日テレの『月曜から夜ふかし』って、面白素人さんをコンテンツにしてるけど、『アベプラ』はちょっと社会性のある素人さんのコンテンツがめちゃくちゃ跳ねるんじゃないかって。社会派エンタメというか。
三浦
今、若い人の金の使い方が変化していて、10代で寄付する人が増えたんだって。ここ1年で。
郭
クラウドファンディングですか?
三浦
そう。若い人たちの間で、「世の中の良いことのためにお金を使おう」っていう気運が高まってる。さらに言うと、20代では政治や社会課題にSNSで何か言うって人が増えてる。この3、4、5月ではTwitterのつぶやき量が1.3倍くらいになってるし。
郭
新型コロナの影響ですか。
三浦
うん。人は皆、すごいストレスがあると何か言いたくなる。政権批判もすごく書く。そういうタイミングで「皆これについて考えなきゃダメだよ」とか「これってヤバくない?」と言い続ける報道メディアの価値は高いと思う。で、さっきの話に戻ると、若い人はリアルタイムで見ることを重要だと思ってない。
郭
正直、生放送のほうがテンション上がるんですけどね。収録だと、「収録かあ……」って思ってしまいます(笑)。
三浦
分かる。分かるけど、でもだからこそ、1週間程度のタイムラグで皆が解きたくなる問題を、番組で話し合えるかどうかじゃないの? その課題設定力が優れてるから、『アベプラ』はいいんだと思うな。結論付けると、『アベプラ』がリアルタイムで見られることよりも、『アベプラ』で設定された課題が世の中に拡がっていくってことが、すごくいいことだよね。
郭
ありがとうございます!
リアルタイムの視聴率よりも課題設定力がアベプラの強みという三浦さん。
三浦
「はあちゅうアンチ」の回(2019年12月6日放送)も、すごいもん見たなって思った。「ネットを誹謗中傷する人間の本当の気持ち」と、「誹謗中傷されたインフルエンサーの本当の気持ち」って、今っぽいテーマだけど、すごく人間の本質に触れてる。
こないだテラハ事件が起こったとき、その半年前の「はあちゅうアンチ」の映像が掘り起こされて出回ったけど、それって耐久年数の長い課題設定ができていた証拠だよね。
郭
言語化してくれて、めちゃくちゃ嬉しいです。いやー、惚れちゃいます。
三浦
言語化力が自慢だから、おれ(笑)。
※本連載の後編は、7月14日(火)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
郭晃彰(かく・てるあき):ABEMA Primeチーフプロデューサー 2010年テレビ朝日入社。情報番組でAD、ディレクターを経験後、社会部で国土交通省、海上保安庁、気象庁などを取材。東日本大震災から5年でドキュメンタリー番組を制作、NYフェスティバル入賞。2016年からABEMAで報道コンテンツを制作。報道リアリティーショーをコンセプトにしたニュース番組「ABEMA Prime」のほか、24時間ニュース専門チャンネル「AbemaNews」の編成・宣伝戦略なども担当。