iPadOS 14 パブリックベータ版。筆者の普段の利用環境に近くなるよう、アプリやデータを揃えてテストしている。
出典:アップル
WWDC 2020 (日本時間6月23日)で発表されたアップルの新OSのうち、「iOS 14」と「iPadOS 14」のパブリックベータ版が公開された。
パブリックベータ版は「誰もが使える開発途上版」といったところ。深刻な不具合などが存在する可能性もあるので、日常的に使っている機器に入れることは一切オススメしない。
だが、新機能がどうなるかは誰もが興味を持つところ。そこで、筆者が変更点を解説してみたいと思う。これをみて、秋の正式公開まで想像を膨らませていただければ幸いだ。なお、今回は取材に基づく特別な許可のもと、画像を利用している。
iPadOS は、2019年発表の「iPadOS 13」が非常に大きなアップデートだったこともあり、単に機能だけを見るとシンプルな変化に見える。実際、後述するペンでの手書き文字入力に関わる部分が、ほとんど「日本語で使えない」ため、魅力が弱くなっている。
とはいうものの、確実に快適になっていることに違いはない。特により「Mac的」になった。といっても、Macそのものになったのとは違うのが絶妙なところなのだが。
その1:やはり分かりやすい「Apple Pencil」の進化
iPadOS 14の「スクリブル」機能。
出典:アップル
技術的に一番驚きがあるのは、やはりApple Pencilによる「手書き」の評価だ。そもそも現状、iPhone・Macに対するiPadのアイデンティティは「ペン」になってきているので、ここを強化するのは当然でもある。
これまでのApple Pencilは、どちらかというとイラストを描くアーティストなどに注目されている部分があったが、今回はより一般的な作業での「手描き」でなく「手書き」に着目している。
例えば「スクリブル」。簡単に言えば、iPad内にあるあらゆる「入力欄」に、直接手書きで文字を入れられるようになる。
これは動作中の動画を見るのが一番わかりやすいだろう。認識は非常に素早く、かなり正確に入力されている。入力欄に入らないとだめ、というわけでなく、多少はみ出しても問題ない。
「スクリブル」をはじめとしたiPadOS 14での手書き文字入力進化の状況をチェック。
ブラウザーで検索キーワードの入力に使ってもいいし、ファイル名の入力に使ってもいい。もちろん、同じ認識エンジンは「メモ」などでも使えるので、普通の手描き文字入力もできる。
しかしこれらの機能、残念ながら日本語には対応していない。これで日本語版入力ができていたら最高なのだが。
ただ、「日本語をペンで書く」上で何も進化がなかったか、というとそうではない。
「線」として描いた文字が一文字単位で選択できて、移動・編集などが可能になっている点に注目。選択は主に指で行う。
出典:アップル
iPadOS 14では「スマートセレクト」という機能が搭載された。文字を書く場合、文字を「認識」させる方法もあるが、描線=絵のまま残す場合もある。後者のときに有効な機能だ。
手書きの線による文字は、人間は文字と認識していても機械はそうとは限らない。なので、書いた後に並べ直すのが意外と面倒だった。
しかしスマートセレクトでは、描線を機械学習で分析し、「文字の意味は認識していないが、描線のどこからどこまでが1文字なのかは判別する」ことをしている。だから、「線で描いた文字を、一文字単位で選択して編集」できるのである。
画像でもお分かりのように、これは日本語でも使える。
また、電話番号のように言語にあまり依存しないものは、ちゃんと「電話番号である」「メールアドレスである」と認識する機能もある。なので、書き終わってから指でタップすると、新規メールの作成画面やメッセージの作成画面がでてくる。これは、デスクサイドのメモとして非常に強力な機能で、むしろiPadでなくiPhoneに欲しい機能だとも思う。
その2:「サーチ」から見える「キーボード+タッチパッド強化」の流れ
今までと同じように「ホーム画面」に戻って検索もできるが、外付けキーボードとセットで使うともっと便利になる。
出典:アップル
今回の進化の中で「ああ、Macっぽくなったな」と強く思った部分が「サーチ」の機能だ。以前からiOS/iPadOSには「サーチ」機能がある。しかし、意外と使っていないのではないだろうか。機能が中途半端だったからだ。
だが、今回のiPadOSのサーチはより実用的になった。iPadがどんな状態にあってもすぐに起動して使えて、各種検索が使える。特に使いやすいのは外部キーボードとセットで使った時だ。「cmd」+「スペース」でどこでもポップアップして現れ、そこにキーをタイプすると、すぐ結果が表示される。
どんなアプリを使っているときでも「cmd」+「スペース」で呼び出し。検索だけでなく「アプリの起動」もOK。
出典:アップル
ネット検索はわかりやすいところだが、「メモ」などだと内容も検索対象になるし、AppStoreにあるアプリも見つかる。そして、「iPadの中にあるアプリ」も見つかるのがいい。
そうすると、仕事をしつつ別のアプリを起動する際、キーボードから指を動かさず、アプリのアイコンの位置を探すこともなく、素早く起動ができるわけだ。
こういう使い方は、Macでは「Spotlight」として実装されていた機能に近い。iPadOSに名前が変わって以降、iOSとiPadOSは明確に違った存在になり、iPadOSはむしろ「キーボードとタッチパッドを備えたMac」の使い勝手を取り込んでいる。サーチの強化もその一環だろう。
サーチと関係はないが、「Macに近づく」という意味では、ブラウザーの「Safari」がさらにMac版と共通性が高まってきている点も大きい。もはやレイアウトや動作速度での差もほとんどない。
iPadOS 13では、なぜか「ブラウザー経由で複数のファイルを選択して一度にアップロードする」ということができなかったのだが、iPadOS 14では改善している。この辺は、業務用ウェブサービスなどで地味に苦労する部分だったのでプラスの改善と言える。
コピペをするとこのような表示が。セキュリティーだけでなく、作業の間違い防止にもいい。
出典:アップル
細かい点をもう1つ挙げておこう。今回よりiOSでもiPadOSでも「あるアプリから別のアプリへ情報をコピー&ペースト」するときには、以下のような表示が出るようになった。
これは「アプリが情報を盗まないように」というセキュリティー対策のために作られた部分があるが、ことiPadOSでは、使い勝手の向上にもつながっている。
アプリを複数並行して使い、データをそれぞれからコピーしてきて1つの文書にまとめる……といった作業をしていると、「どのアプリからどのアプリへ貼り付けるべきなのか」を勘違いすることがある。機械的に作業をしていると、この勘違いに気づきにくいときがある。だが「どのアプリからどのアプリへペーストされた」という表示があれば、自分がやっていることを確認しつつ作業できるので安心だ。
その3:ウィジェットはあるけれど……
iOS 14とiPadOS 14の画面。「ウィジェット」の扱いの違いが大きいことがわかる。
出典:アップル
見た目的な変化で言えば、左側に現れた「ウィジェット」が目立つ。iPadOSでは、現行バージョンである「13」から導入されていたものだが、iOSでは次の「14」から導入され、同時にiPadOSの側も強化が進んでいる。
とは言え、iOS 14のウィジェットの扱いと、iPadOS 14のウィジェットの扱いでは、iOS 14の方が「派手」だ。iOSの方はホーム画面の好きな場所にウィジェットを置けるようになり、UIの印象が大きく変わってしまった感があるのだが、iPadOSの場合には、13の時と同じく「一番左側」に表示されるだけで、好きなところに置ける訳ではない。
複数のウィジェットを重ねておく「スマートスタック」。指でスワイプすると中身が入れ替わる。
ウィジェットはアプリの一部が切り出されているような構造になっているので、今はOS標準のものくらいしかない。iPadOS 13までのウィジェットも表示はできるが、位置やサイズの変更、スタック表示などに対応していない。
情報をパッと見せるにはいい機能なのだが、「作業する機器」「コンテンツを見る機器」としての役割が大きいiPadだと、画面をウィジェットが覆い続けるのはちょっと違う、ということなのかもしれない。
(文・西田宗千佳)
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。