気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の道場相手はABEMA Primeチーフプロデューサーの郭晃彰さん。ネットメディアの最前線で働く郭さんのお悩みは、会社の「働かないおじさん」への微妙な感情。後編は報道メディアの形に関して、GO三浦が提言する。
若い世代に政治に興味を持ってもらいたい
郭晃章(以下・郭)
『ABEMA Prime(アベプラ)』で一番できないのは「選挙」なんですよ。選挙の公平性をどう担保するのかは、「均等割り」以外今のところ答えがないんです。
三浦崇宏(以下・三浦)
A党の話を3分聞いたら、B党の話も3分聞かなきゃ、みたいな話?
郭
そうです。僕の番組では過去に、1日40分くらいの尺を、今日は自民党、今日は立憲民主党、今日は共産党とかって分けたんですよ。それだったら公平じゃんって。でもやっぱり選挙の時って、皆で集まってワッと話すのが面白いじゃないですか。
三浦
今(取材日:6月4日)だったら都知事選か。候補者が多いよね。
郭
彼らを全員集めなきゃいけないけど、できないんですよ。だから都知事選のことは6月以降ほとんど出ないし、堀江貴文さんや小池百合子さんの本周りでザワザワしてるやつも深く触れられない。面白くないですよね。
三浦
『東京改造計画』と『女帝 小池百合子』ね。
郭
政治には興味持ってほしいと思うじゃないですか。特に若い世代に。それをどうしたらちょっとエンタメっぽく見えて、参加した方が面白い! と思ってもらえるか。それって、ABEMAに来てから一番できてないことかもしれないです。
三浦
選挙の答えじゃないんだけど、政治に関して言うと、やっぱ国会中継の副音声じゃない? 黒川検事の時、皆めっちゃネットで生中継見てたじゃん。あれにクソふざけた副音声をつける。Twitterの放送もそう。だから池上彰さんとか堀潤さんとか宇佐美典也さんに解説してもらう。「今、官僚がメモを渡してますけど……」って、相撲のように解説するの。「白鵬関、なかなか緊張の取り組みですけれども」みたいな感じで(笑)。
郭
いいですね(笑)。
三浦
それで言うと、こないだ参議院議員の音喜多駿にインスタライブで話を聞いたんだけど、すごく面白かった。
郭
何を聞いたんですか?
三浦
なんで政治家はTwitterの声を全然意に介さないのかって。Twitterでめちゃくちゃ盛り上がってるのに、全然耳に入ってないじゃない、彼ら。音喜多の答えはシンプルで、「だっておれらは名前出して、人生かけて、リスクしょっていろいろやってるけど、Twitterなんて匿名でつぶやいただけで参考にすることはできない。だいたい50万リツイートとか言ったって、本当に名前出して自分の責任もってつぶやいてる奴なんて、芸能人入れたってせいぜい1000人くらい。それを真に受ける必要があるのかと考えてしまう」と。
郭
面白いですね。
三浦
50万リツイートよりも、事務所に届いた50枚の手紙の方が全然効くってさ。「本当に変えたいなら手紙書けよ、地元の議員に。公明党の女性部に。でもTwitterやってる中で手紙書く奴なんて、1人もいないだろ」って。その是非はさておいても、政治家の立場からの解説って面白い。
郭
同じ政治家の立場から、説明してくれるわけですよね。
三浦
副音声と政治って、意外と相性いいと思うよ。あと、緊急記者会見と言えばABEMAじゃん。例えばだけど、吉本の謝罪会見の解説をおれと中川淳一郎でやるとかね。「三浦くんこれどう?」「いや、僕だったらこれ、ここのタイミングでお辞儀させないっすね」みたいな。
郭
最高ですね、それ。従来はそれを翌日にやってたわけですけど、生でやっちゃえばいいと。
「それいいですね」と乗り気の郭さん。近い日にアベプラで国会副音声企画ができるかもしれない。
選挙候補者のPVを作ろう
三浦
都知事選の立候補者、1人2分でPV作ったら?
郭
面白いんですけど、本当に……目も当てられないような人が立候補してくるんですよね。
三浦
分かる分かる(笑)。テレビに出しちゃいけないような人だよね。でもさ、あれって政見放送というものを使ったプロモーションだよね。以前、家入一真さんが都知事選に出たけど、あれはメルマガの会員を増やすためだと思ってたもん。供託金たった300万円でNHKの尺10分もらえるんだよ。すごくない?
郭
たった300万であざす! って感じですよね。視聴者も結構多いですし。
三浦
自分の人生をコンテンツにする覚悟さえあれば、都知事選に出る以上に有効なPRはないわけだよ。『東京改造計画』を刊行したタイミングでホリエモンが出馬する噂を出したのは、やっぱ天才だなって思った。選挙の仕組みをハックしてプロモーションするわけだから。
郭
仕組みをつついてますしね。皮肉もありますし。
三浦
だから、ABEMA的な政治のいじり方はまだまだあると思うんだよね。候補者全員のPVを格闘技の煽りVに見立てて、北野雄司さん(ABEMA格闘チャンネル・プロデューサー)にやらせればいいじゃん。格闘代理戦争と一緒だよ。いや、リアル代理戦争か。
郭
先輩、ちょっとやってくださいって頼みましょうか(笑)。
格闘技の話になると分かりやすくテンションが上がる三浦さん。
三浦
それか、既存の番組のフレームにはめちゃえば? 『しくじり先生』とか。そういうことでいいような気がするんだよな。『しくじり先生 都知事選特番』、何か感じるものがあるじゃない。選挙ってものを報道以外で取り扱うやり方があるんじゃない?
郭
そうですね。言ってみれば選挙って、ただの人間模様ですからね。
忖度しない映像メディアをGAFAが作る?
三浦
それこそ独立とか考えないの? 働かないおじさんがたくさん給料もらってることが歯がゆいんなら(前回参照)。
郭
映像を伴うテレビのニュースが好きなんですよ。でもニュースの映像制作って独立してできることじゃないんです。テレビ局は日本中いろんなところに系列局があって、映像が入ってくる。もちろんお金も払ってるんですけど。
ただ単に「報道が好き」なんだったら、それこそ「ビジネス・インサイダー」さんで記事を書かせていただければ幸せなんですが(笑)。
三浦
古田大輔さんとか津田大介さんが、フリージャーナリストって地位を確立しようとしてるじゃない。そっちの流れより、やっぱり映像がいいんだ。
郭
そうですね。政治の副音声だって映像を伴ってこそ。静止画でやってもいまいちテンションが上がりません。会見の時にポロっと見せる顔とか、ちょっとした間とか、そういうのは映像のほうが情報量は多いと思うんですよね。しかも映像って決めつけないじゃないですか。見る人の分だけ解釈や視点がある。それは大きなテレビ局にいないとできないです。
三浦
ビデオジャーナリストって今いないよな。
郭
ドキュメンタリーだったら個人でも全然できると思うんですけど、ニュースとなると、なかなか。
三浦
相当難しいね。全国の映像にアクセスできるのって本当にテレビ局だけだもんね。ジャーナリズムは基本的人権を守るもの、っていう志向が日本には薄いじゃない。おれ、そこが問題だと思ってて。ある意味で言うと、総務省許認可されていない、本当にフリーの強い映像メディアがなきゃいけないってことだよね。
郭
テレビ局ではなく。
三浦
「週刊文春」じゃないけどさ、自民党にもトヨタにもソフトバンクにもNTTドコモにも忖度しないで済む圧倒的な映像メディアがあって、緊急記者会見があったら、みんなそれを見るような。ただ、それってマネタイズが超難しいから、ある種公共の福祉みたいにやるしかないんだよね。
郭
でもNHKの受信料って本来そういうものですよね 。
三浦
あ、そうか。
郭
クラウドファンディングで取材費を捻出する手もあります。ただ、映画みたいに作るものが決まっていればいいんですが、ニュースって決まってないじゃないですか。「これをやって、この人たちを助けます」とかだったら応援しやすいんですけど。
三浦
ネットニュースというものがアルゴリズムと出合った時点で、報道は半分死んでるからさ。アルゴリズムによって殺されたネット報道と、管理されるテレビ。そういう意味で、本当の報道って存在しないよね。それこそTwitterやGAFAだよ。彼らが報道をやる意味や体力はある。
郭
外資系企業からってことですか。
三浦
今や外資かどうかなんて関係ないよ。郭、GAFAに行って「報道やりたい」って言ったらいいんじゃない?
郭
うははは(笑)。
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
郭晃彰(かく・てるあき):ABEMA Primeチーフプロデューサー 2010年テレビ朝日入社。情報番組でAD、ディレクターを経験後、社会部で国土交通省、海上保安庁、気象庁などを取材。東日本大震災から5年でドキュメンタリー番組を制作、NYフェスティバル入賞。2016年からABEMAで報道コンテンツを制作。報道リアリティーショーをコンセプトにしたニュース番組「ABEMA Prime」のほか、24時間ニュース専門チャンネル「AbemaNews」の編成・宣伝戦略なども担当。