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【ETIC.・宮城治男1】起業家1500人誕生の陰にいる「仙人」。悩める社会起業家に「やめていいんだよ」

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1993年に誕生し、これまで1500人以上の起業家を育てたNPO法人、ETIC.。

社会課題解決に取り組むNPOのリーダーの中には、クロスフィールズ代表理事の小沼大地、かものはしプロジェクト共同創業者の村田早耶香などETIC.の人材育成プログラム卒業生が非常に多い。

代表理事の宮城治男(48)は、しばしば起業家たちから「仙人」と称される。淡々とした語り口、他人のために労をいとわず体を動かす姿が、そう呼ばせるのだろう。

悩んでいる時に「やめてもいいんだよ」

「宮城さんは会うと『やめてもいいんだよ』か『今日は顔色いいね』しか言わない。偉ぶったところがまったくなくて、気さくな親戚のおじさんのような感覚です」

ETIC.の「社会起業塾イニシアティブ」OGで、NPO法人3keys代表理事、森山誉恵(32)は宮城について笑顔で語る。

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ある年に参加したETIC.の合宿で、森山はドライヤーを持ってくるのを忘れてしまった。周囲のスタッフが忙しそうにする中、困っていた森山にただ1人「どうしたの?」と声を掛け、一緒にドライヤーを探してくれたのが宮城だった。

「その探し方が通り一遍じゃなくて、すごく一生懸命なんです」

森山が「やめてもいい」と言われるのは、大抵悩んでいる時だという。

「宮城さんは、私たちが『本当に心からやりたいことは何なのか』をすごく気にしてくれている。だから信頼できる」

宮城は言う。

「起業家は好きなことをするために会社を興したはずなのに、組織を大きくする、従業員を食べさせるといった日々の課題にとらわれ、本気で向き合いたいものを忘れてしまうことがある」

「やめてもいいんだよ」という言葉には、彼らに改めて自分の意思で、本来望んでいたことを選び直してもらいたい、という宮城の思いが込められている。

中立的に「ありのまま」に向き合いたい

メルカリCEOの山田進太郎は、宮城を「静かな情熱の人」と評する。

山田は早稲田大に入学した18歳の時、ETIC.の前身となる学生サークルを訪ね、代表を務めていた宮城と知り合った。「一見情熱的なタイプには見えないが、20年以上起業家を育て続けるというのは、よほどの情熱がなければできない」と、山田は語る。

宮城はサークル時代、当時まだ珍しい存在だった「ベンチャー起業家」に話を聞く勉強会や、イベントを開いていた。その後NPO法人を立ち上げ、ベンチャーへの学生インターン派遣、社会起業家の育成、東日本大震災の被災地への人材派遣、地方創生の担い手づくりなどへ、活動の幅を広げてきた。

現在のETIC.は「中間支援組織」と位置付けられている。宮城はその役割を「裏方の裏方」と説明する。

中間支援

筆者の図を元に編集部が作成

NPOの多くは規模が小さく、資金や人材も豊富とは言えない。ETIC.は、NPO設立時にリーダー育成や事業戦略の立案をサポートし、設立後は学生インターンの派遣などを通じて、ヒト・モノ・カネ・知恵といったリソースをNPOへ提供する。困っている人をサポートするNPOを、さらに支援する存在というわけだ。

ETIC.と関わりの深いベンチャーには、メルカリのようにビジネスの世界で成功している企業も多い。ETIC.がもしベンチャーキャピタル(VC)として、創業期のベンチャーに投資していれば、多額の利益を得ることもできたはずだ。

しかし宮城は、「不要な成長を求めず、ニュートラルな立場でいられるのがETIC.の役割」と語る。

VCは投資を回収するため、成長という物差しで起業家を評価せざるを得ない。しかし特に社会起業家の場合、利益追求から離れてこそ、これまで手付かずだった課題に取り組める。

「背景に何の思惑もない中立的な立場で、常にフェアにありのままのその人に向かい合いたい。これはETIC.のすべてのスタッフが共有している願いだし、何物にも代えがたい信頼の源泉だと思う」

と、宮城は強調した。

孤独な起業家にコミュニティを提供

ETIC.新年会の様子。

ETIC.新年会の様子。ETIC.はNPOに対してヒト・モノ・カネ・知恵を提供する「中間支援団体」という位置付けだ。

提供:ETIC.

宮城はETIC.を、若者たちの「難民収容所」「インターチェンジ」にも例える。

「起業を志すのは、勇敢だが孤独な道でもある。やりたい事を周囲になかなか理解してもらえず、同じ思いを持つ仲間も少ない。なのに一見、意識の高い『キラキラ』な人に見えるので、救いの手も差し伸べられにくい。『難民』のような存在だ」

3keysの森山は、大学時代から児童養護施設の子どもを対象とした学習支援サークルを運営していた。当時をこのように振り返る。

「大学の友人に学習支援の話をしても、『へー、すごいね』とスルーされるか『すごい真面目ちゃん』扱いされるだけ。切磋琢磨する仲間がいるのは、社会起業塾だけだった」

宮城は、こう力を込めて話す。

「起業を志す人にとっては、たとえ少数でも理解者がいるだけで心強い。ETIC.が仲間の集まるコミュニティを提供することが、彼らの勇気になる」

一方で宮城は、「社会起業家になる」と決心してETIC.の門を叩く若者たちに、「本当にそれを望んでいるのか?」と問いかける。時には「周囲が期待しているから」「いいアイデアがあるから」といった理由で何となく起業を志し、地に足がついていない人もいるからだ。

「起業を目指す人に何度も揺さぶりをかけ、別の選択肢を投げかけては自分の軸に向き合い直してもらうのが、我々の役目」

その結果、「それでもやりたい」とNPOを立ち上げる人もいれば、ビジネスの領域に進む人もいる。ベンチャーキャピタリストとして起業家をサポートする道を選ぶ人もいるし、学究の道に入る人もいる。ETIC.を経由してさまざまな道に進めるから「インターチェンジ」だ。

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撮影:竹井俊晴

ETIC.が目指すのは必ずしも社会起業家を育てること、そのものではないと宮城は話す。

「創業から一貫して、人が既存の枠組みから自由になり、自分らしく生きることにフォーカスしてきた。その結果の一つとして、社会起業家という姿にごく自然にたどり着いたのです」

(敬称略、明日に続く)

(文・有馬知子、写真・竹井俊晴、デザイン・星野美緒)


有馬知子:早稲田大学第一文学部卒業。1998年、一般社団法人共同通信社に入社。広島支局、経済部、特別報道室、生活報道部を経て2017年、フリーランスに。ひきこもり、児童虐待、性犯罪被害、働き方改革、SDGsなどを幅広く取材している。

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