丸山珈琲の本拠地も、長野・軽井沢とローカルな場所だ。
提供:丸山珈琲
スペシャルティーコーヒー専門店「丸山珈琲」は、コロナ禍の巣ごもり需要により、オンラインストア(EC)の売り上げが2019年比で2.3倍(5月)になった。
前編では「豆の販売」という視点から、アフターコロナのコーヒービジネスのあり方を聞いた。丸山さんはさらに、日本のサードウェーブ系カフェが生き残るには、「地方シフト」を意識すべきだと語気を強めた。
国盗りゲームに勝つのは「おらがコーヒー屋」
Zoomを通じて取材に応じてくれた、丸山健太郎さん。
提供:丸山珈琲
コーヒービジネスの今後を占うキーとして丸山さんがあげたのは、「地方シフト」だ。そもそもこの傾向は、コロナ禍に限らず、サードウェーブ系コーヒーが発展した背景でもあるという。
「コーヒービジネスっていうのは、国盗りゲームなんです。20〜30年単位で積み上げていくことが必要ですが、コミュニティーで認められれば、そこから広がっていく可能性があります」
丸山さんは、アメリカで2000年代に広まったサードウェーブ・コーヒーの“御三家”を挙げる。
- インテリジェンシア(Intelligentsia)/シカゴ
- スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ(Stumptown Coffee Roasters)/ポートランド
- カウンター・カルチャー・コーヒー(Counter Culture Coffee)/ノースカロライナ
これらが台頭した理由として「スターバックスという全国区で強いコーヒー店に対抗して、“おらが街”とアピールして局地戦で戦った」と分析する。
アメリカでサードウェーブ系コーヒーの“御三家”となった、シカゴ発のインテリジェンシア。
Shutter Stock / Michael Gordon
地元の人から応援してもらって知名度と信頼を得られれば、ECや卸など売り方はいくらでも広げられる —— だからこそ「地場」があることが重要なのだ、と丸山さんは声に力を込める。
札幌、仙台、福岡、富山など、すでに著名なコーヒーショップが生まれている都市もあり、日本でも「戦国時代」に突入しかけているという。
コロナで「ローカル志向」が強まったのは、東京でも同じだ。
「商業施設に入っている大手は、(正直なところ)厳しくなるでしょうね。意外といいのが、私鉄沿線の各駅停車しか止まらない駅から、さらに歩いて10分のようなカフェ。最近のおしゃれな店に押されていたようなところはお客さんが戻ってきて、むしろ息を吹き返していると聞きます」
ちょっと良いコーヒーを買おう
コーヒー産業が苦しい今だからこそ、「ちょっと良いコーヒー」を飲もう、と丸山さん。
撮影:西山里緒
カフェビジネスには大きな可能性を感じている一方で、丸山さんが警鐘を鳴らすのは、コーヒーの生産地が抱える在庫リスクだ。
国際コーヒー機関(ICO)は2020年6月、世界のコーヒー平均価格が前月比で5.2%下がり、3カ月連続の下落となったと発表した。
丸山さんも「中南米はどこも良いコーヒーが余っています。特に今年は、中国のバイヤーが手を引いてしまったので、スペシャルティコーヒーとして作られたものが買われず、低級品として売られている」とその実情を明かす。
コーヒーが売れなくなれば、農園への投資も減り、最悪の場合はコーヒー栽培自体をやめる農園も出てくるかもしれない……だからこそ「市場の声」を反映させるため、“ちょっと良い”コーヒーを買ってほしい、丸山さんはそう訴える。
「今、日本で売られているコーヒーの中で、スペシャルティコーヒーの割合は1割を超えているんです。つまり、もう産業として成立し始めている。『頭角を現す』フェーズが終わり、高品質なコーヒーを当たり前に飲む時代が来ています。ここからが、本当の戦いだと思っています」
(文・西山里緒)