「教えて新人」を脱却しないことにはコロナショック後の職場で生き残っていくことはできない。
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コロナショックで、働き手優位の売り手市場が企業優位の買い手市場に転じたことで、売り手市場時代に職場に増えていた「教えて新人」が生きづらい時代に突入している。
「教えて新人」とは、売り手市場下において増加傾向にあった、次のような新人のことだ。
- 上司や先輩は新人をサポートすることが「当たり前」だと考えている。
- 仕事に対して主体性がなく、周りからのサポート、声をかけてくれるのを待っている。
- 職場を「スキルアップのための学校」だと捉えている。
つまり、受け身の姿勢が強く、周囲からフォローされなければ生き残れない新人を指す。
「教えて新人」にとっては生きづらくなった職場
このような受け身思考の「教えて新人」でも、売り手市場であれば、周囲の上司や先輩がフォローしてきた。
若手人材を採用するのが難しかったこともあり、採用後も会社側は貴重な新人が辞めないように手を尽くした。
しかし、コロナショックにより業績が悪化したことで、そしてさらに先行きも不透明な中で、そのような受け身思考の新人をフォローする余裕が会社側にはなくなっている。
厚生労働省が公表した5月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月から0.12ポイント低下の「1.20倍」となった。これで5カ月連続の低下で、4月から5月の下げ幅は1974年の第1次石油ショック後の1974年2月の0.20ポイント低下に次ぐ、過去2番目の下げ幅だ。
また、厚生労働相の有効求人倍率は、ハローワークに登録された求人数を元に算出されているが、この求人は無料掲載ということもあって更新にタイムラグがあり、実態としてはさらに低い数値になっていると考えられる(実際にはすでに採用していないが、採用活動が停止していることをわざわざハローワークに連絡していない企業も多い)。
20代の若手人材(特に新卒)が多く就職する業種がコロナショックの影響を受けており、ここ数年続いていた売り手市場が終焉を迎え、買い手市場に急激に変わっている。
2018年、19年のように、若手人材が比較的「簡単に内定がもらえる」状況ではなくなり、就職や転職の難易度は間違いなく上がる。
コロナショック後、リモートワークへ移行する企業も増えてくると、今までの受け身思考は通用しない。
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こうした労働市場の変化を受けて、会社にとっての優先順位が「新人を育てる(長期的なメリット)」ことよりも「目先の売り上げを確保する(短期的なメリット)」に移行したことが考えられる。
また、2020年の新人に関しては、入社後すぐに自宅待機期間が発生したことがネガティブに影響しているとも感じる。
通常であれば、入社後研修で同期同士や上司、先輩との対面コミュニケーションにより関係性を構築できた時期に、リモートでの研修に移行してしまったことで、そのような関係性が構築できず、短期離職に至ってしまった人もいる。
実際、2020卒(2020年4月入社)で短期離職した人の理由としては、入社後の在宅期間によって不安や不満が募り、退職に至ったケースが多い。
会社によっては緊急事態宣言が解除されてから、そのままリモートワークに移行するところも多く、新人にとっては「自然と教えてもらえる環境」がかなり減ってしまった印象がある。
「教えて新人」が受け身思考のままでいると、会社にも仕事にも職場の人間関係にも慣れることができず、短期離職となるか、そのまま埋もれてしまうことが懸念される。
コロナショックを生き残るために
今後もコロナショックによる不景気が続き、会社側に新人をサポートする余裕がないことを考えると、新人が生き残るためには、意識を変え、主体的に行動する必要がある。
「教えて新人」状態を早々に脱し、コロナショック下でも生き残っていくために、次の3つのアクションが重要だ。
- 「サポートしてもらって当たり前」の意識を変える。
- 回答者に優しい「質問の型」を覚える。
- 分からないことを聞く「質問」だけでなく、仕事をスムーズに進めるための「確認」を使いこなす。
1.「サポートしてもらって当たり前」の意識を変える
上司や先輩の気持ち、立場に立ったうえで自分がどのような行動をするのが最適か、考えていかなければならない。
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まずは受け身の意識を変えることが重要だ。分からないことや確認すべきことがあれば、積極的に「自分から」話しかける意識を持つ必要がある。
キャリア面談を行っていると、「先輩が教えてくれなくて……」といった退職理由をよく耳にする。確かに上司や先輩の仕事の一つは「新人をサポートする」ことなので、新人をサポートしない上司や先輩にも、もちろん問題はある。しかし、上司や先輩の意識が変わることを待っていても、状況は一向に好転しない。
周囲からのサポートが得られず、退職してしまったとしても、次の職場でも同じような状況に陥る可能性はゼロにはならない。たまたま配属先の上司が面倒見のいい人に当たればいいが、入社前に上司を選ぶこともできないし、入社後に上司が変わってしまうこともある。
つまり、「周りの環境(上司・先輩)」を変えるのではなく、「自分」を変えることでしか対応できない。そのため、上司や先輩の気持ち、立場に立って、「どうすれば好意的にサポートしてもらえるか?」という観点で自分の行動を適応させることが求められる。
実際、上司や先輩の業務量は、新人のそれよりも多い。仕事が忙しく、余裕がない時に「教えてもらうことが当たり前」といった態度(もちろんそこまでではないにしろ、消極的にサポートを待っている態度も含む)の新人をサポートする気にはなれないのは当然だ。
「どうすればサポートしやすいか?」「相手が楽になるか?」といった視点で、主体的に質問やサポートを依頼する意識を持つことができれば、上司や先輩も対応してくれやすくはなるだろう。
2.回答者に優しい「質問の型」を覚える
「上司が楽に回答できるように質問する」ように工夫を加えることで上司も答えやすくなり、最小限の時間で対応することができる。
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上司や先輩とのやりとりで、最もエラーが起きやすいものに「質問」がある。
仕事を進める上で、新人にとっては分からないことだらけの状況のため、自ずと質問する回数も増える。そのいちいちの質問に上司や先輩がフラストレーションを溜めてしまうような、いわば「回答者に優しくない質問」をしていると、そのうち質問に対応してくれなくなったり、煙たがられるようになってしまう。
実は、筆者も新人時代、直属の上司に「俺はお前よりも忙しい。無駄な質問で時間を取らないでくれ」と言われたことがある。言われた直後は「分からないことがあればどんどん質問しろ!って言ってたのに…」「上司の仕事って部下を教育することじゃないのかよ…」と思ったものだ。
ただ、このように考えてしまうと、どんどん上司との関係は悪化してしまうし、仕事も進まず、職場にいづらくなってしまう。結局は「上司が楽に回答できるように質問する」ことを工夫するしかない。
それでは、具体的にはどのようにすればいいのかというと、次の「質問の型」に合わせて質問することをおすすめする。
- まずは端的に「結論」から伝える。
- 情報量が多い「補足情報」は、結論の後に伝える。
- その際に「自分の意見(予想)」も合わせて伝える。
- 特に重要な質問であれば、なぜその質問をしているのか「意図(目的)」も伝える。
例えば、上司に対して「新規顧客に対する提案プラン」に関して質問する場合、次のように質問する。
今日、新規で訪問した顧客に対して、Aプランを提案しようと思っているのですが、よろしいでしょうか?<結論>
新規顧客のニーズとしては、まずは試しに安価なプランでサービスを利用してみて、費用対効果があれば徐々にプランをアップグレードしていきたいという意向でした。<補足情報>
そのため、より料金の高いBプラン、Cプランもご紹介はしたのですが、まずはAプランを利用してもらい、サービスの理解度や満足度を上げてから、料金アップの追加提案を行っていこうと考えています。<自分の意見(予想)>
念のため、◯◯さんに方針を共有しつつ、もし「もっといい提案」や「提案内容の修正」が必要があれば、アドバイスをいただきたいなと思いまして。<意図(目的)>
このように質問することで、回答者も答えやすくなり、最小限の時間で対応することができる。
3.分からないことを聞く「質問」だけでなく、仕事をスムーズに進めるための「確認」を使いこなす。
「質問」だけでなく、「確認」も交えて先輩や上司とコミュニケーションを取ることで、仕事をスムーズに進められる。
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上述の「質問の型」に盛り込まれている「自分の意見(予想)」は、実は仕事をスムーズに進めていく上で非常に効果的だ。
新人の場合、どうしてもわからないことを「質問」して終わりになってしまいがちだが、ここに自分の意見や予想を「確認」することも加えると、上司や先輩の評価が変わってくる。
この自分の意見を交えた確認をすると、次のポジティブな効果がある。
- 自分の現状での理解度を伝えることで、「ここまでは調べたんだな」「何も調べずに質問してきたわけではないな」と思ってもらえ、評価が上がる。
- 上司や先輩も、理解している範囲外での補足説明や間違っている部分の訂正だけで済むので対応時間を削減できる。
このように、「質問」だけでなく、「確認」も交えて先輩や上司とコミュニケーションを取ることで、仕事をスムーズに進めることができる。
新人にとって転職の厳しい時代にどうするか
コロナショックによって景気は悪化するし、働き方も劇的に変わる。このような状況では、主体的に変化に適応していかないと生き残れない。
企業がどこも業績が芳しくない状況では、未経験者や経験が浅い人材を受け入れてくれる企業はかなり減っている。つまり、実務経験が豊富な即戦力人材でない限り、転職という選択肢が非常に取りづらい市場環境だと言える。
環境を変えるのではなく、自分を環境に適応させていくアプローチが不況下では特に大事となってくる。
くれぐれも「教えて新人」とはならずに、この苦境を乗り越えていってもらいたいと思う。
(文・川畑翔太郎)
川畑翔太郎(かわばた・しょうたろう):株式会社UZUZ専務取締役。1986年生まれ。鹿児島出身で高校卒業後、九州大学で機械航空工学を専攻し、住宅設備メーカーINAX(現:LIXIL)に入社。1年目から商品開発に携わるも、3年目に製造へ異動。毎日ロボットと作業スピードを競い合う日々を送る。高校の同級生・今村からの誘いと自身のキャリアチェンジのため、UZUZ立ち上げに参画。現在はキャリアカウンセラーだけでなく、ウズウズカレッジ運営や企業ブランディングを担当し、累計1000名以上の就活サポートを実施。