コロナ時代に「都心オフィスは縮小する」のか? オフィス不動産の動向、サブスクで職場改革する企業も

人がまばらな街の風景

撮影:今村拓馬

コロナ禍で一気に広がったテレワーク。特に都心部では通勤時や職場での3密を避ける意味もあり、緊急事態宣言解除後も、在宅勤務を継続する企業が少なくない。そんな中、オフィスの設計見直しや在宅勤務社員への支給用などで、「働く場所の在り方」と働く環境周りのビジネスが変化しはじめている。

例えば、オフィス家具・ワークチェアなどのサブスクリプション型サービスの需要の高まりも、そうした社会の変化を反映したものだ。

在宅勤務社員に「サブスクでチェアを支給」

smn_office

撮影:太田百合子

7月初旬のSMNの執務スペース。出社している社員はまばらだ。

マーケティングテクノロジー事業を展開するソニーグループのSMNは、4月6日から全従業員200名を在宅勤務へと移行した。緊急事態宣言解除後の現在もほとんどの社員が在宅勤務を継続していて、東京・品川にあるオフィスは人影もまばらだ。

コーポレートカルチャー&リレーション推進課 課長の松本裕文氏によると、在宅へ移行後まもなく社員から聞こえてきたのが「椅子問題」だったという。

「エンジニアやゲーム好きな社員は自宅にも長時間座っていられる、そこそこのチェアがあるなど、在宅勤務しやすい環境が整っているケース多かったのですが、営業職や若い社員などで、長時間座ることが前提になっていない自宅の椅子では身体が辛いという声がありました。以前から、いわゆる健康経営に積極的に取り組んできた背景もあり、これは見過ごせない課題と考えました」

そこで相談を持ちかけたのが、松本氏が以前から関心を寄せていたsubsclife(サブスクライフ、2017年創業 )だった。

法人向けにオフィス家具のサブスクリプション型サービスを手がけるsubsclifeでは、3月から4月にかけて、在宅ワーカー向けにオフィス家具の特別支援プランを提供するキャンペーンを展開。これに、SMNが反応した形だ。

「ワークチェアの貸し出しを社内で募集したところ、わずか2日ほどで約30台の申し込みがありました。4月の半ばに締め切って、月末にはもう社員の元に配送されていた。非常にスピード感がありました」(松本氏)

増加する「サブスクのオフィス家具利用」相談

subsclife CEOの町野健氏

subsclife CEOの町野健氏。

撮影:伊藤有

subsclife CEOの町野健氏によると、在宅勤務の従業員にオフィス家具を貸し出したい、オフィス改革を進めたいという相談は、4月以降、目に見えて増えているという。

「(問い合わせで)多いのはワークチェアとデスク、あとはデスクライトくらいですが、特に価格帯にすると3万~5万円クラスのワークチェアへのニーズが急増している。企業がとりまとめて、福利厚生として社員に貸し出すという形で、多いところでは数百台規模の問い合わせもいただいています」(町野氏)

オフィス家具のサブスクリプション型サービスへのニーズの高まりは、在宅ワーク向けだけにとどまらない。Withコロナ時代を前提に、オフィスの在り方そのものを見直す企業も増えているからだ。

BONDSHAUS

Bonds Investment Group(旧オプトベンチャーズ)の新オフィス。

ベンチャーキャピタル事業を展開するBonds Investment Group(旧オプトベンチャーズ)は、社名変更などのリブランディングにあわせて、7月1日にオフィスを移転。「BOUDSHAUS」と名付けられた新オフィスは、その名の通り「家」をコンセプトにした。

フリーアドレスなのはもちろん、ソファーや大きなダイニングテーブル、ラグなど、シックなブルックリンスタイルのくつろげるインテリアで統一されている。家具を含めたコーディネートはsubsclifeが担当した。

「オフィスの移転そのものは半年ほど前から計画していましたが、コロナ禍で6名いる社員全員が在宅ワークに。投資先のスタートアップ企業ともコミュニケーションがオンラインに限定される中で、新オフィスは単に仕事をする場所ではなく、気軽に集まって話せる場にしたいという思いが強くなり、コンセプトを見直しました」(コミュニティーマネージャーの守屋佑香氏)

「拡張移転の減少」はオフィス不動産市場に変化の兆候?

office_rent

CBREが発表している米国のオフィス賃料の動向予測(6月4日発表)。新型コロナウイルスの影響は確かに大きいものの、最悪のケースでも1990年代以降の危機よりも、大幅な低下はないと予測している。

出典:CBRE

こうした「オフィス縮小」「在宅前提」の動きは国内市場全体に波及していくのだろうか。

事業用不動産サービス大手CBRE(日本法人)のリサーチヘッド・大久保寛氏によると、6月上旬時点では、オフィスの解約・縮小移転に向けた動きは少しずつ見え始めた段階だとする。

2019年までの4〜5年は移転理由として「拡張移転や新規開設が7割を超えていた。それが、2020年第1四半期は6割を切る状況になってきていた」と、国内市場にも「アフターコロナの変化」の兆候かもしれない動きが見え始めたと注視しているという。

CBREのリサーチヘッド・大久保寛氏

CBREのリサーチヘッド・大久保寛氏。

提供:CBRE

ただし、大久保氏は、社会全体が長期的にこうしたオフィス解約へと向かうかどうかに関しては「懐疑的だ」と語る。大小さまざまな企業が集まる集積地としてのオフィスエリア、都心でいえば、新宿、六本木、丸の内からの大規模な流出が起こる可能性は低いとみている。

ただし、何も変わらない、という意味ではない。

ニューノーマルの世界では、テレワークが当然の働き手の権利としても、BCP(事業継続計画)としても当たり前になっていく。そこで変わるのは、「会社員が毎日同じオフィスに出社する、というこれまでの働き方だろう」(大久保氏)

大久保氏が需要減少に転じる可能性が低いと考える理由は主に2つある。

1つは、「コワーキングオフィスやシェアオフィスなどのサテライトオフィスの需要は、むしろ増える可能性がある」(大久保氏)つまり、大規模オフィスへの本社機能集中は変わるかもしれないが、社内のチーム(部署)で近い人たちが集まるような小さなオフィスの分散化が起こるため「全体の需要そのものは減らないのではないか」(同)と見る。

もう1つの理由は、ソーシャルディスタンスという新たなビジネス常識に関係している。この概念の広がりのなかで、「妥当とされる一人あたりのオフィス面積はむしろ増える可能性がある」。

こうした「たくさんの人を1カ所に詰め込むのではなく、分散させてビジネスを回す」という動きは、CBREが4月と5月に実施したテナント向けのアンケートでも傾向が見えてきている。

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CBREの2020年5月の調査より。調査対象はテナント企業。移転検討する際に重視する項目として「立地」が大きく後退し、コストや快適性の需要が上昇してきている。郊外への流出というだけではなく、移転に合わせた分散オフィス化の兆候と見ることもできる。

出典:CBRE

オフィスの働き方という観点では、ただ固定席を減らすためのフリーアドレスではなく、図書館のように一人で集中できるエリア、カフェ風のリラックスできるエリア、チーム議論のためのエリアといったように、より本質的な「ABW=アクティビティベースドワーキング」という考え方が重要になってくる、と指摘する。

「オフィスの在り方」の再構築を進める始めた企業

都市の風景

撮影:今村拓馬

富士通が7月に発表した「今後3年でオフィス規模を半減させる」という目標は、産業界に衝撃をもって伝わった。しかし、マクロレベルで、オフィス需要がどう変化するのかは、まだ見通せない部分も多い。

前出のSMNは、新しい働き方を実現、サポートするための今後のオフィス戦略についての見直し検討を始めたと明かす。

「コロナ以前から、分散しているオフィスを統合する計画を進めていましたが、それをゼロベースで見直すことにしました。契約もありますからすぐに動けるわけではありませんが……在宅ワークに必要な備品をどう提供するか、通勤交通費といった問題を人事制度などの制度設計とともに、新しい働き方の受け皿として“オフィスがどうあるべきか”を見定めながら再検討を始めたところです」(松本氏)

検討内容には、地方に移住して働く「ウェルビーイングワーク(ワーケーションに近い考え方)」というような、根本的に新しい仕組みの検討まで含まれているという。

「このコロナ禍によって、日本企業も、“個々人の働くことの意味”というものを改めて考えさせられたと思います。いわゆる健康経営の文脈から考えても、いろいろな可能性、選択肢があると思います」(松本氏)

もちろん、オフィス縮小がビジネスの効率性を落とすかどうかは、その企業の業種・業態による部分も大きい。社員がバラバラの場所にいて、雑談が減るとセレンディピティが起こりにくい、企業の文化・風土をどう醸成するかという課題もある。

ただ、1つ言えそうなのは、働くということにおいて「形式より本質」だと考える企業は増えている。効率よく、働き手も働きやすくを突き詰める機会として、コロナ後のニューノーマルに向かう状況が大きな後押しになっているのは間違いがない。

(文・太田百合子伊藤有

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