コロナで休園中だったウォルト・ディズニー・ワールド(米フロリダ州)は7月11日、段階的な再開に踏み切った。
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- アメリカでコロナの感染拡大が続くなか、ディズニーは7月11日、休園していた旗艦テーマパーク「ウォルト・ディズニー・ワールド」(フロリダ州)の段階的な再開に踏み切った。
- ディズニーは、世界中で展開するテーマパークが休園した影響で、第2四半期の営業利益は10億ドル減少すると試算している。
- UBSのアナリストの推計によると、アメリカ国内の同社テーマパークの経費は、1カ月あたり約15億ドルにのぼるという。
- ゴールドマン・サックスのアナリストは「ディズニーのテーマパーク事業は長期的に見れば回復するものの、ソーシャル・ディスタンシングが抑制要因となり、完全な回復は2023年までかかるかもしれない」という悲観シナリオを示した。
- さらに、香港ディズニーランドは6月18日にいったん営業を再開したものの、感染拡大を受けて香港政府がソーシャル・ディスタンシング措置を再導入したことから、再び休園を余儀なくされた。
「最悪の場合、2023年まで完全には回復しない」
アメリカでコロナの感染拡大が続くなか、ディズニーは7月11日、旗艦テーマパークである「ウォルト・ディズニー・ワールド」(WDW、フロリダ州)の段階的な再開に踏み切った。
同社の財務状況を見ると、その理由がうかがえる。
老舗の大手メディアであるディズニーの決算報告によると、第2四半期の営業利益は10億ドル減少した。これは世界中の同社テーマパーク休園の影響によるものだ。同社のテーマパークの中で最大の入場者数を誇るWDWは、第2四半期中、約2週間にわたって閉鎖されていた。
アナリストの推計によると、WDWとカリフォルニア州のディズニーランドだけでも、休園中の経費は1カ月あたり15億ドルにのぼるという。これは同社の全米中のテーマパークが休園していた時点での推計だ。
それから3カ月以上経過したが、休園による財務上の影響を正確に知るには、8月の第2四半期決算発表を待つしかない。
しかし、ゴールドマン・サックス、UBS、ウェルズファーゴのアナリストが見るところ、コロナ禍前までディズニーの安定的収益源だったテーマパーク事業は、来年度まで、あるいは抗コロナウイルス・ワクチンが広く接種可能となるまで同社の財務を圧迫する。安全への配慮から、同社のテーマパークが完全に再開されるには至っていない。
ウェルズファーゴのアナリストは今年4月のレポートの中で、「検査能力が大幅に向上するか広く接種可能なワクチンが現れない限り、多くの人がどれほどWDWに行きたいと望んでも、『スター・ウォーズ:ライズ・オブ・ザ・レジスタンス』に長い列ができることはないだろう」と記している。
ゴールドマン・サックスのアナリストは6月13日付のレポートで、テーマパーク、リゾート、クルーズ、体験型施設のすべてにおいて、ディズニーの入場者数と収益は基本ケース・シナリオでも2022年まで、最悪シナリオでは2023年まで完全には回復しないだろうと予測している(より正確な見通しは次の決算報告が待たれるとも記している)。同アナリストは、次のように続ける。
「5月に上海ディズニーランドが再開した際は、入場者定員の30%以内という政府制限を大きく下回る率で運営し、数週間かけて30%に引き上げていった。これによってディズニーとコムキャスト双方のテーマパーク事業の営業損失は軽減されるものの、稼働率が30%以下では大幅な営業利益にはつながらないだろう」
ゴールドマン・サックスの悲観シナリオでは、2021年のディズニーのパーク&エクスペリエンス(テーマパークおよび体験型施設)事業の売上高は、同社予想157億5000万ドルを30%下回り、2022年売上高は同社予想228億ドルを20%下回るとしている。
なお、2019年度(9月決算)の同事業の売上高は262億ドルで、ディズニーの事業の中で最大の稼ぎ頭だった。2020年度上期は129億ドルで、前年度並みの水準となっている。
鍵を握るのはワクチン
7月1日に再開した東京ディズニーシーのエントランスゲートで、ソーシャルディスタンシングを保ちながら入場を待つ人たち。
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現時点の状況は次のとおりだ。
- 7月15日のエプコットとハリウッドスタジオの営業再開をもって、WDWのほとんどの施設は営業となる。
- 東京ディズニーリゾートは7月1日に営業を再開。
- ディズニーランド・パリは7月15日に営業を再開。
- 香港ディズニーランドは6月18日にいったん再開したものの、その後の感染拡大により香港政府がソーシャル・ディスタンシング措置を再導入したことから、再び休園を余儀なくされた。
- カリフォルニア州のディズニーランドは州による制限のため休園が続いている。
WDWはディズニー最大の入場者数を誇るテーマパークだ。UBSが分析したテーマエンターテインメント協会のデータによると、2018年のWDW入場者数は5830万人で、2位のテーマパークを78%も上回った。しかしアメリカでのコロナ感染拡大を受けて、3月15日に異例の休園措置をとった。
ゴールドマン・サックスのアナリストは、ディズニーの新ストリーミングサービス「ディズニープラス」をはじめ、同社のより広範な取り組みの助けを借りることでテーマパーク事業もいずれ回復することは間違いないと言い、次のように続ける。
「ディズニーのテーマパーク事業と映像事業はこれまで卓越した業績を上げており、コロナ禍から経済が回復するとともに好調を維持するでしょう。また、テーマパーク、映像、ディズニープラスの事業間に働くシナジー効果は投資家に過小評価されていると考えられます。
例えば、マーベルやスターウォーズのような主力映画シリーズとリゾート事業のマーケティング費用は次第に減じていくでしょう。なぜならその費用の一部は、連携するディズニープラスが補填または負担することになるからです」
定額制動画配信サービス「ディズニープラス」は、アメリカでは2019年11月から、日本では2020年6月からスタートした。
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なお、UBSが今年6月に成人2000人を対象に行ったアンケート調査によると、回答者の30%が「計画していたディズニー・テーマパーク行きをコロナ禍のために延期または中止した」という。
延期・中止したと回答した人のうち、48%は「再開から6カ月以内にテーマパークを訪れることを計画している」と答える一方、12%は「再開から18カ月以内に訪れる計画はない」と回答している。再開後直ちに訪れないのは「ソーシャル・ディスタンシング」が主な理由だ。
UBSのアナリストは6月25日付レポートの中で、「このアンケート結果は、テーマパークが再開すれば需要があることを示している」と記したうえで、「需要にとっても入場制限緩和にとっても、鍵となるのはワクチンだ」と述べている。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)