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たどり着きたい場所が明確だから、目先の失敗に囚われない/imperfect株式会社 マーケティング部長 佐伯美紗子さん

佐伯美紗子さん

©ethica brand studio

渋谷の表参道に、ウェルフードマーケット&カフェ「imperfect表参道」がある。消費者だけでなく、社会的・環境的にもよいものを提供するカフェ。その運営会社でマーケティング部長を務めるのが、佐伯美紗子さん。幼少期にメキシコで目にした、同い年くらいの子どもが物乞いをする様子。お金を恵むだけでは救えない人々を目の当たりにし、社会を変えるような活動をしたいと取り組んでいる。

佐伯 美紗子(さえき・みさこ):大阪府生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、その時の経験から「いつか社会や経済の仕組みを変えたい」という想いを抱くようになる。帰国後は国内の大学に進学し、2008年、新卒で総合商社に入社。2019年より「imperfect(インパーフェクト)株式会社」立ち上げに携わり、同社マーケティング部長に就任。2019年7月にオープンしたフラッグシップストア「imperfect表参道」の企画運営を主導。

できないところばかりに目が向いていた時期もあった

これまで働いてきて、失敗したことはあまり覚えていないんです。もちろん、上手くいかないことは毎日のようにありますが、性格的にあまりくよくよしないタイプなのだと思います。幼いころから家族の都合で海外に住んでおり、文化や人種が違う中で苦労したことはたくさんありました。そんな中、「この経験は将来にどう生きるのだろう」「大変だけど将来のために乗り越えていこう」という意識を持っていました。

だから、日々のことは「何のためにやっているんだっけ?」と、立ち返る癖がついているのかもしれません。小さな失敗に囚われないような気の持ち方をしていると思います。

佐伯美紗子さんとクラスメイトたち

米・テキサス州に住んでいた中学生の時、クラスメイトとボウリング場で。

とはいえ、なかなかうまくいかなかった経験もあります。総合商社に席を置きながら食品メーカーに出向し、商品開発のマーケティングを担当していた頃のことです。それまでは、食品メーカーの流通や販売、原材料の輸入、海外進出などをサポートする業務だったのですが、新しい仕事は、商品開発とマーケティングに携わるため、一人ひとりのお客様を理解することが重要になります。

刺さるマーケティング」という観点で考えるのが初めてで、戸惑いがありました。例えば、パッケージに同じ色を使うのにも、ちょっとした違いで印象がまったく異なる。それまでの仕事とは、使う思考回路がまったく違っていました。

チームには、コンセプト開発、アイデアの発想など、優れた能力のメンバーが集まっています。その人たちと比べて、自分には能力がないと感じてしまった。「あの人のようになりたい、どうすれば近づけるんだろう」と、自分のふがいなさに焦っていました。

ただ、半年~1年ほど経った頃、自分のことを客観的に見られるようになってきました。私はメンバーそれぞれの良さを引き出して成果を出すことが得意で、そこに面白みを感じるのだとわかったんです。同じような能力の人が2人いる必要はないし、私には私の良さがある。当たり前のことが、ようやくわかりました。

そう切り替えられてから、目に見えて成果が出るようになっていきました。他の人のようにやろうとするから、自らの能力にふたをしてしまっていたんですね。

自分の目指していたものとぴったりのコンセプトに出会う

佐伯美紗子さん

©ethica brand studio

出向時期が終了するタイミングで、次にどんな事業をしようかといろいろな人に話を聞きました。その中で、imperfectを構想している先輩の話を聞いたんです。

世界中の農業の現場が抱えている課題を、事業を通じて解決しようというコンセプトでした。メーカーや企業が力を入れるだけでなく、消費者の方々も巻き込んでいくことに、とても意義を感じました。

もともと、食べ物の領域での社会の仕組みに違和感を覚えていました。例えば、日本人が食べているものは、その多くを輸入に頼っています。貧困や病気に苦しむ国々からも原材料や食品を輸入し、大量に廃棄しているのが現実です。同じ地球にいるのに、そのように世界が断絶していていいのだろうか。どうにか変えられないものだろうか。ずっとそんな風に思っていました。

というのも、子どもの頃、アメリカのテキサス州に住んでいた時のことが原体験になっています。メキシコとの国境沿いの町に住んでおり、メキシコにも時々訪れていました。日本人がメキシコに入ると、当時10歳前後だった私と同い年くらいの子どもが物乞いをしてくるのです。困っているからお金をあげた方がいいのではないかと言う私に、父の同僚のメキシコの方が「恵んではいけないよ」と言います。

お金を恵むことで、彼らはこの生活を続けてしまう。それは何の解決にもならないんだよ」。そう言われました。社会の構造そのものを変えないと、その人たちを救うことはできない——。格差や貧困に対する違和感が、心の奥に重く残ることになったのです。

imperfectは、そんな私の想いにフィットし、社会を変えたいという願いを叶えてくれるものでした。

自然な形でお客様をどう巻き込むか?

imperfect shop

imperfect表参道は、2019年の7月にウェルフードマーケット&カフェとしてオープンしました。お客様からは、とても嬉しいお声をいただいています。

ただ、オープン前にとても迷ったのは、お客様の巻き込み方です。農家の方の課題を知っていただき、消費という活動を通じて役に立てることがあるという意識を持ってほしい……。

お店の壁にパネルを飾り、農家の方の状況などを説明するというアイデアも出ました。でも、なんだか“お勉強”っぽくて自然ではないと思ったんです。何時間もメンバーと議論をして、「投票」の仕組みを採用しました。

ご購入くださったお客様に扇形のチップを配り、応援したいプロジェクトに投票していただく。投票するためには、その内容を知らなくてはいけないから、自然とプロジェクトの詳細を読んでくださいます。どれが採用されるかわからないというゲーム性もあり、お客様にも好評です。

佐伯美紗子さん

©ethica brand studio

もちろん、それだけではなく、ご購入いただく際に、カウンターを挟んで丁寧に説明をすることもあります。例えば、ブラジルの多くの女性は、男性と比較して労働時間が長いにもかかわらず賃金が安いのです。そんな中、女性が主体で経営している農園のコーヒー豆をご購入いただくと、女性の地位を向上することにもつながっていくかもしれない。ふらりと立ち寄った店舗で、少しでもそんな世界に触れていただければ、社会が少しずつ変わっていくのだと思うのです。

今までもこれからも、仕事で大切にしているのは、その先に「社会の変化」が見えること。仕事だけでなく、自分自身の消費行動も、社会をよりよくしていくことにつながっていくといい。ひとりでも多くの人がそのように活動してくれたら、社会が変わっていくと思うのです。

今はまだ、imperfectのコンセプト「Do well by doing goodいいことをして世界と社会をよくしていこう)」のような考えは珍しいかもしれません。でも10年後、20年後には、当たり前になっていてほしいと思っています。

写真提供・imperfect、ethica brand studio


栃尾江美:外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。雑誌や書籍、Webサイトを問わず、ビジネス、デジタル、子育て、コラムなどを執筆。現在は「女性と仕事」「働き方」などのジャンルに力を入れている。個人サイトはhttp://emitochio.net

MASHING UPより転載(2020年7月7日公開

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