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ビデオ会議は「7割足りない」を自覚せよ、会話を録音する部下と向き合う相談スキル

産業医

メンタルヘルスやモチベーションの維持、ハラスメントといった難題が山積する現代の職場において、「相談スキル」は管理職にとって必要不可欠なものと言っていいでしょう。

一方で、人の相談に乗るのに「自信がない」という悩みはよく聞かれます。悩む部下に正論で返したり、解決策を求めすぎて不穏な空気になった経験のある人も少なくないのでは?

だれかの相談に乗るプロと言えば「産業医」もそうでしょう。心身の健康、同僚との人間関係、休職や復職……さまざまなビジネスパーソンの「悩み」に日々、医学的見地から接しています。

そこで今回は、産業医療現場の第一線で活躍されているワーカーズクリニック銀座院長の石澤哲郎さんに、管理職に求められる「相談スキル」とその実践ポイントについてお話を聞きました。

相談の基本は「傾聴・受容・共感」

——さっそくですが、部下からの相談を乗る際、大切なことはなんでしょうか?

産業医の間でもよく言われるのは、「傾聴・受容・共感」が大切ということです。

中でも、まずは「傾聴」すること。「聴く:話す」は「7:3」の割合にして、例えば、1対1で10分間話すなら、最初の7分は聴くようにします。そして、いきなりアドバイスをするのではなく、まずは「大変だったね」と「受容」し、「共感」の態度を示すこと。

事前に、どんな相談が来るか分かっているときは、イメージトレーニングをして臨みます。「どんな話が出てきても、7割はしっかり聴くぞ」という気持ちでいられれば、その場でカチンと来るようなことを言われても、言い返さず、相手の話を待つことができます。

ビジネスパーソンの方々のお話を聴くとき、よく用いるのは「ミラーリング」という手法です。相手の言ったことを、ただただ繰り返す。

例えば、部下がミスをしたとき、「先週はすごく忙しかったんです」と言ったら、「ああ、先週はすごく忙しかったんだね」と返す。部下の発言をそのままオウム返しに伝えるだけでも、「自分の気持ちを分かってくれたんだ」と感じてもらうことができます。部下は上司に傾聴してもらってはじめて、上司からのアドバイスを受け入れる体勢が整っていくのです。

逆に、なにか気になることがあって、上司から部下に声をかけたいときは、いきなり「最近体調よくないの?」「仕事のアウトプットの状況はどう?」と尋ねるのはよくありません。部下のほうは「そんなことありませんよ」と、ついはねのけてしまいたくなる。

最初は雑談を交えながら、「最近どう?」とざっくばらんに聞く。そのあとに、「このまえ、あのトラブルがあったから心配になったんだ。なにか困っていることはない?」と、事実とサポートをしたい気持ちをセットで伝えると、安心して悩みを打ち明けてもらえるでしょう。

「事実に基づかない・具体的でない指摘」はNG

——傾聴・受容・共感を経て、部下にアドバイスする際に気をつけたほうがいいことは?

産業医

最近ではオンラインでの診療も増えているそう

アドバイスの内容と同じくらい、その「伝え方」に注意しましょう。

ちょうどこの(2020年)6月から、「パワーハラスメント防止法」が施行されることになりましたが、パワハラをしたと非難された人に話を聞くと、だれも「部下をいじめたい」だなんて思っていない。むしろ「もっと仕事ができる人になってほしい」という、上司としての自然な思いから事におよんでしまっている場合がほとんど。

20年前は上司が部下を夜中に呼び出したり、手を挙げたりしても「パワハラ」とは言われませんでした。しかし、この間に社会的な基準は大きく変わりましたよね。上司と部下では世代も違いますから、自分が若いころに受けた “指導” は今では通じません。自分は「仲がいい」と思っていても、残念ながら部下もそう思っているとはかぎりません。

最近は、上司との関係がうまくいっていないと悩む部下ほど、上司との会話をよく録音しているんです。録音するという行為がいいかどうかは別として、法律上録音テープには一定の効力があります。指導する際にも「もしこの会話が録音されていたとしても問題ない」と胸を張って言える発言の内容、伝え方に留めなくてはいけません。

当然、「お前はダメだ」「あなたの残業時間のうち何時間は無駄だ」「給料泥棒だ」といった伝え方は人格否定で、論外です。事実に基づかない・具体的ではない指摘には、相手は反論できず、萎縮するだけでなんの解決にもなりません。

部下とのコミュニケーションが不十分な上司ほど、あれこれ相談が来ないので、自分は上司としてうまくやっていると勘違いする場合もあります。これも要注意です。

リモート相談では「雑談と大げさな表現」が大切

——浸透しつつあるリモートワークでは、部下の相談に乗るのがより難しく感じます。

オフィスで働いていたときは、顔色の悪さや出勤時間がギリギリだとか部下の異変に気づきやすかった。今は違います。部下のほうも、「最近忙しいですね」だとかメールで愚痴るのはなんか違うと感じてしまう。

そうなると、ビデオ会議のときしか話さないので上司のケアが減るんです。「コロナ鬱・在宅勤務鬱」とも言われるように、自分でも気づかないうちにメンタルヘルスを崩す部下の方が増えていると実感しています。

よく上司の方には「仕事の話だけをしないでください」とお願いしています。「あのタスクやった?」「次はこのタスクをお願い」といったやりとりだけでは、相談で大切な「傾聴・受容・共感」が消えてしまうからです。

企業の中には、一日20分、部下との雑談時間を設けることを「ルール」にし、半強制的に上司が部下の話を聴く機会を設けているところもあります。

テレワーク

ただ、リモートワークの難点は、プライベートと仕事の切り替えです。家事が終わって部下の相談に乗ろうにも、つい他のことが気になってしまったり。

ですから、上司自身が頭のモードを切り替えるために、仕事始めの際には仕事用の服装を着替えたり、一度外に出て散歩したりすることをお勧めしています。

そして、実際にリモートワークで働く部下の方とビデオ会議で話す際には、大げさに表現することが実は大切です。身振り手振りを大きくするなどして、喜怒哀楽の「怒」以外の感情を普段よりはっきりと示しましょう。

というのも、人はコミュニケーションの7割がノンバーバル、非言語と言われています。メールで相手に厳しいことを伝えるとトラブルに発展しやすいのもそう。SNSでスタンプや絵文字を使うのはノンバーバルを補完するためです。

ですから、ビデオ会議であっても「7割足りなくなっている」くらい意識して丁寧に、ゆっくりと伝えましょう。よくよく話を聞いてみると、部下が実はあまり自分の言ったことを理解していなかったということもありえます。リモートワークでは「相手の理解を確かめる」ことも大切です。

相談に乗る「上司の心の負担」を減らすには?

——相談に乗るものの、どうしても部下の行動や価値観を理解できずに悩む人もいます。

いらっしゃいます。ただ、部下の仕事だけでなく、普段の生活も注意深く眺めてみると気づくこともあります。なぜなら、口にはしなくても、行動パターンにはその人の考えが表れるものだからです。

例えば、平日の日中はすぐ返信が来るのに、週末は返ってこない。もしかすると、仕事とプライベートは完全に切り分けたい人なのかもしれません。自分が部下だったころは休みなく働いていたとしても、今の若手が「休日は休みたい」と考えるのは当たり前のこと。部下の気持ちを想像することが出発点です。

ただし、ビジネスである以上、「上司や会社としてはこれくらいのアウトプットは出してもらわなくては評価できない」ということであれば、部下が望むワークライフ・バランスと上司や会社が求めるアウトプットをすり合わせるために話し合う必要があります。

部下にもいろんな人がいますから、すり合わせが難しい場合もあるでしょう。仕事に対するやる気がない、納期に間に合わせる気もない、みたいな人も中にはいて、そのすり合わせが難しいために、上司のほうが悩んで、疲弊してしまうケースもあります。

多くの上司の方は、たとえどんな部下であっても「なんとか引き上げよう」と頑張りますが、部下を大人として見ることも大切です。何度伝えてもアウトプットが改善されないのであれば、「あなたの思いを個人としては尊重するけれど、会社としては評価できない」と厳しく接していい。

冷たく聞こえるかもしれませんが、「部下の問題は自分の問題ではない」と割り切ることも必要です。共感能力の高い人ほど、部下の問題を自分の問題のように感じ、負担がかかってしまいます。ですが、「上司として対応する必要がある」というだけで、あくまで自分の問題ではありません。

本当にすり合わせできないと感じる部下に対しては、それ以上相手の態度を変えようとするのではなく、お互いが持つ共通目標を確認することにフォーカスしましょう。その人との関係性はどうあれ、仕事の目標自体は変わりません。お互いのアプローチが違うことを認めて、だけど「最終的にはここを目指しましょう」という目標は確認し、あとは相手にまかせるといった具合に。

共感能力が高いうえに「問題を解決したい」という気持ちまで強すぎるとなると、部下からの相談に乗っている途中で「解決できない」と気づいてしまったとき、上司のほうこそ強いストレスを感じてしまいます。

もし、相談に乗った自分のほうが疲れたと感じたら、そういうときほど相手は楽になっている、と考えてみてください。部下からすれば、だれかに話を聴いてもらえただけで、少なくとも「理解者はいる」と思えますから。不安の一部だけでも受け止められれば、部下のパフォーマンスは自然と上がっていくでしょう。


産業医事務所セントラルメディカルサポート代表/ワーカーズクリニック銀座院長/東京大学医学部附属病院心療内科非常勤講師 石澤哲郎2001年東京大学医学部卒業。内科研修、東京大学心療内科医局長などを経て、2014年に産業医事務所セントラルメディカルサポートを設立。東京大学心療内科非常勤講師。2019年ワーカーズクリニック銀座院長に就任。

[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之

キャリアコンパスより転載(2020年7月10日公開の記事

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