撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
この連載の第23回で「女性のキャリア構築」についてお話ししました。それを読んでくださった読者の女性からご質問をいただいていますので、今回はそのテーマについてお話ししたいと思います。テーマは「ワーキングマザーが働きやすい会社」です。
ワーキングマザーの「生産性の高さ」を評価する企業は多い
その不安な気持ち、よく分かります。特に、周囲に育児しながら仕事をしている女性がいないと、自分の将来像が見えませんよね。
まず、「育児とキャリアを両立したい」という考えは、ごく自然に受け入れる企業が増えています。
ニュースなどで「女性活躍推進」という言葉は聞いたことがあると思います。
日本の労働人口減少が深刻な課題となっていることから、女性の労働力をもっと活かすために政府が主導して「女性活躍推進法」を制定。それに応え、企業も女性が出産後も働き続けられる制度・環境の整備に注力するようになったのです。
また、ベビーシッターサービスや家事代行サービスなど、ワーキングマザーを支えるサービスも世の中に増えていて、その利用費を補助する企業も多く見られます。
もちろん企業自身にとっても、人材確保が困難ななか、貴重な戦力である女性に辞められては困るのが実情。「国の施策だから」という理由ではなく、自社の成長戦略の一環として女性活躍を推進しているのです。
限られた時間内で最大のパフォーマンスを上げようと工夫するワーキングマザーは、企業からの評価が高い。
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「充実した制度を用意できるのは大手企業だけ」と思う方もいるかと思いますが、実はそうでもありません。ベンチャー企業では、むしろ大手企業より柔軟性が高く、個々の事情に応じた働き方を取り入れています。要は企業規模に関わりなく、経営トップの「意識」次第と言えますね。
そして、企業の「ワーキングマザー」への評価はけっこう高いのです。それは、先人たちの努力の賜物。この10~20年の間のワーキングマザーたちの働きぶりが、企業に高く評価されているのです。
ワーキングマザーは、育児に時間をとられる分、働ける時間に制約があります。そこで独自に工夫して、限られた時間内で最大限のパフォーマンスを上げる努力をしてきました。それが企業に認められるところとなっているのです。
実際、「採用するならワーキングマザーがいい」と、あえて指定する企業もあるほど。
ワーキングマザーの責任感や高い生産性にメリットを感じているのはもちろん、「ワーキングマザーが活躍できる企業」をブランドとして打ち出している企業もあります。
グローバルで「ダイバーシティ(多様性)」が促進されていますし、それに伴って「働き方改革」も進んでいます。さらには、コロナ禍を機に在宅勤務も一般化しつつあり、アフターコロナの時代にもある程度定着すると見られています。
今後、子どもを育てながら働きやすい環境がさらに整っていくと予測できますし、ワーキングマザーにとっては転職先の選択肢も増えると思います。
ワーキングマザーが働きやすい会社の「見極めポイント」は?
とはいえ、まだまだ前時代的な体質の企業も多いのは事実です。
仕事と育児の両立を支援する風土がまったくない企業もありますし、表向きには「女性が働きやすい制度」を設けているものの運用がされていない企業も見受けられます。
転職活動に臨む際、本当に女性が働きやすく、キャリア構築もできる会社かどうかを見極めるためには、次のポイントに注目してみてください。
1.人事評価制度
「評価の指標」が何なのかを確認しましょう。「残業をたくさんして長時間働く人が偉い」という意識から抜け出せない企業はまだ多く存在します。
先進的な企業では、「社内トップの売上を挙げていても、所定労働時間を超えたチームは表彰対象から外す」といったように、「時間」ではなく「生産性」を重視する方向へ評価指標を変えています。
労働時間ではなく「成果」「目標達成度」などを重視する評価制度となっているかどうかをチェックしてください。
2. フレックスタイム制度、在宅勤務などの制度の有無
仕事と育児を両立するうえで、業務時間や働く場所を自分の裁量で決められる制度はとても魅力的。
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ワーキングマザーの生活スタイルに適応した制度があるかどうかは重要です。始業時間・終業時間を自分の都合でコントロールできる「フレックスタイム制度」などの有無、子どもが熱を出した時などに「在宅勤務」に切り替えることが可能かどうかなどを確認しましょう。
また、担当業務内容はそのままで、正社員から「業務委託」へ雇用形態を変えられるなど、柔軟な人事制度を設けている企業もありますので、チェックしてみてください。
育児支援に力を入れている企業では、「キッズ休暇」など、子どもの保育園・学校行事などの際に、有給休暇を使わずに休暇をとれる制度も設けています。
3. 制度が実際に使われているか
注意すべきは「制度はあるけれど、誰も使っていない」という企業も少なくないことです。
制度を使うことで、「周囲から冷たい目で見られるのが怖い」という声も多数。つまり、育児をする女性を温かく支える風土がないということですね。
ですから、その制度を実際に活用している既存社員がどれだけいるのかも、面接などで確認しておくことが大切です。「お子さんを育てながら働いている女性社員の方々は、普段どんな働き方をしているんですか」などと尋ねてみましょう。
4. 「チーム」で働く体制・風土があるか
ワーキングマザーは突発的なアクシデントに対応しなければならないことが多いものです。子どもが突然熱を出せば、朝、通常通りに出勤できませんし、保育園から「すぐにお迎えに来てください」と連絡が来ることもあります。
そんな時、チームで働く体制や風土がある職場であれば、チームメンバーにサポートしてもらうことができます。
面接では、「どんなチームワークで動いているか」を確認してみてはいかがでしょうか。
5. 経営トップに子どもがいるかどうか
これは、経営陣が比較的若い(30~40代など)ベンチャー企業に応募する際に確認しておきたいことです。
私は多くのベンチャー経営者とお付き合いがありますが、やはり自分に子どもがいる経営トップは、ワーキングマザーへの配慮もきめ細かいと感じます。
自分の家庭で、妻がどんな1日を過ごしているか、その生活がどれほど大変かを理解しているからです。特に最近の30~40代ともなれば共働きの家庭も多いので、育児と仕事を両立する妻の姿を見ていること、自分自身も育児をしていることから、その苦労を理解しているのです。
6. 社内でファミリーイベントを開催しているか
最近では、「家族参加型」の社内行事を行う企業もよく見られます。
「社員同士の交流を促進する」「社員とその家族とのエンゲージメントを高める」などの目的で、バーベキューパーティーやクリスマスパーティーなど、社員本人だけでなく家族も招いて行うのです。「パパ・ママの職場参観日」を設け、オフィスに子どもたちを招待するイベントなども。
こうした企業では、「社員の家族も大切にする」という価値観を持っているので、ワーキングマザーを支えてくれると想像できます。
また、イベントで自分の家族とチームメンバーに面識ができることで、日頃からプライベートの会話をしやすくなりますから、「家庭の事情」への理解も得られやすくなるというわけです。
7. リーダーやマネジャーとして活躍している女性が実在するか
出産後のキャリアを大切にしたいなら、「働きやすいか」だけでなく「成長機会を得られるか」という観点も大切。
撮影:鈴木愛子
ここまではワーキングマザーの「働きやすさ」を判断するポイントをお伝えしてきました。では、ワーキングマザーでも「キャリアを構築できるか」「成長機会を得られるか」という観点に関しては、「社内にマネジャーやチームリーダー、プロジェクトマネジャーなどとして活躍しているワーキングマザーがいるかどうか」を確認してみましょう。
また、「自ら希望して部署異動・職種転換できる仕組みがある」「副業OK」など、従業員の多様なキャリア構築を支援する体制・風土があるかどうかも、ひとつの指標となります。
ただし、「今はまだいないけれど、そんな組織・風土にしていきたい」と本気で考えている企業もあります。社長や役員などとの面接で、今後の組織作りへの考えを尋ねてみるといいでしょう。
以上のポイントのほか、会社が「心理的安全性」を高める取り組みに積極的かどうかも重要なカギとなります。
「チームビルディング」をテーマにした第24回でもお話ししていますが、仕事だけでなく、人生そのものを「キャリア」と捉えて支援しようとするスタンスの企業は増えています。そんな企業の中から、自分のキャリアを活かせる1社を見つけてくださいね。
あるいは、転職しなくても、自分が旗振り役となって、今の会社で働き続けやすい制度・環境整備を推進していく道もあると思います。自ら後輩女性たちのロールモデルになることを目指してみるのもいいのではないでしょうか。
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※本連載の第27回は、8月3日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。