宇宙産業の「中の人」が語る、日本版“衛星データビジネス”の可能性と期待【TellusFes 2020】

イベント公式ページ

オンラインイベント「Tellus SPACE xData Fes. -Online Weeks 2020-」の公式ページ。7月14日から50日間にわたって週3日、毎日生放送を実施するというオンラインならではのイベント。本編動画は原稿末尾からどうぞ。

撮影:伊藤有

日本発の衛星データプラットフォームとして2019年2月に本格スタートしたさくらインターネットの「Tellus(テルース)」。衛星データが本格的にビジネス活用される時代に向けて、7月16日に宇宙産業の現役プレーヤーが集うオンラインイベント「2020年宇宙産業の今 - 課題と役割についてステークホルダが語る-」が開催された。日本の衛星データ活用の課題とビジネス展望とは?

ロケット企業の中でも「衛星画像、使っていいの?」まだ高いハードル

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登壇者一覧。左上から、PwCコンサルティング 宇宙ビジネスチーム リードManager 永金明日見氏、 三菱電機 電子システム事業本部 主席技監 小山浩氏、パスコ 衛星事業部 副事業部長 石塚高也氏、さくらインターネット フェロー 松浦直人氏、三菱重工業 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 技術部 主席技師 川戸博史氏、Business Insider Japan編集長 伊藤有、JAXA新事業促進部長 岩本裕之氏。

「宇宙ビジネス」という言葉の持つ意味は、人工衛星やロケットを開発運用する企業から、衛星が生み出すデータの利用、旅行やエンターテインメントなど多岐にわたる。中でも、通信や地球観測など衛星データの利用(ダウンストリーム)に関連するビジネスが市場の牽引役とされる。

PwCコンサルティングの永金明日見氏によれば、「衛星画像データプラットフォームの(欧州の)市場規模は2020年で4550億円、年成長はプラス14パーセント」と、期待が大きい分野だ。

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PwCコンサルティング・永金明日見氏によるプレゼンテーション。欧州の宇宙データビジネスの現状から市場規模の大きさを解説。

衛星画像とは、人工衛星が地球を周回して収集した地球観測データのこと。Google Earth等でもおなじみの光学衛星(カメラを備えた衛星)による「衛星写真」から、レーダー衛星で地表、海面の起伏を捉えた画像、可視光以外にも赤外線などの波長を使って、温度や土壌の水分量、植物の分布などを観測したデータといったものがある。

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三菱電機の電子システム事業本部 主席技監の小山浩氏。

2020年度打ち上げ予定のJAXAの大型地球観測衛星「ALOS-3」開発などを手掛ける三菱電機の小山浩氏は、「これまでは地球観測衛星というと、重量1トン以上の大型で、1機ずつ打ち上げていた。現在は小型衛星を100機以上の多数打ち上げて協調観測する『コンステレーション』型に変化してきている」とビジネスの変化を解説した。

大型衛星の時代とは、データの使い方も変わってきた。大型衛星時代は、データを使用したいユーザーが画像を1点ずつ購入する、または必要な画像をそのたびに依頼して撮影していた。それが「衛星コンステレーションが取得したデータはクラウド上にアーカイブされ、常に最新画像が手に入る。(売り方・買い方が)バルク購入になってきた」という。

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大型衛星を使った観測する方式から、近年は多数の小型衛星を使って協調観測するコンステレーション型に変化してきている、と小山氏。

一方で、大型衛星から小型衛星の時代になり、コンステレーション衛星による常時観測できるようになっても、「衛星データは扱い方がわかりにくい」というハードルが残っている。衛星データプラットフォーム「Tellus」を運営するさくらインターネットが衛星データ普及の支援を続けてきたものの、わずか1年あまりで簡単に解消される課題ではない。

イベント登壇者からも、三菱重工業の川戸博史氏は「衛星画像を使った災害対応事業を企画した際に『衛星画像、使っていいの?』という社内からの反応があった」と明かした。日本の主力液体ロケットH-IIAシリーズを運用し、JAXAの地球観測衛星を打ち上げてきた三菱重工業の社内でも、衛星画像利用には温度差があることをうかがわせる。

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三菱重工業の防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 技術部 主席技師の川戸博史氏。方向性として挙げた2点は、これまでの日本の衛星産業が取り組みづらかった課題でもある。

国内外の衛星画像の販売や、解析を手掛ける専門企業・パスコの石塚高也氏からは、「(衛星画像は)まだまだ限られた分野でしか利用されていない」とした上で、供給する衛星側にも「意外と撮れない。ユーザーの『ここを撮りたい』に応えられないことがある」という課題について触れた。

利用にあたっても「衛星データだけで課題を解決しようとしている。地図、統計、ビッグデータなど組み合わせがもっとあるはず」と利用の仕方ももっと多様になる必要があり、「地球上の何らかの変化を見たい場合、アーカイブの過去データとの比較が必要になる。新規データだけでなく、過去のデータセットがなければ価値が半減してしまう」という。

また、「衛星のダウンストリーム活用で市場が広がるという効果はあるものの、ひとつひとつのビジネス規模が小さいため、幅広く活用されないと事業にならない」という課題もあると指摘する。

プラットフォーム側の回答は?

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さくらインターネット フェローの松浦氏による、衛星計画からのアプローチ解説。ビジネス化のヒントの一例は気象衛星の活用にあると説明した。

「使い方がわかりづらい」「衛星データ以外に組み合わせるデータが必要」宇宙産業の既存プレーヤーから寄せられた課題に、日本版衛星データプラットフォームであるTellusはどう応えるのだろうか。

さくらインターネットの松浦直人氏は、まず衛星データの使い方がわかりにくい背景として、開発に要する時間を挙げた。

衛星開発の計画は5年がかりで、利用できるまでさらに2年ほどかかることもある。(これまで)計画時に5年後を見越して『利用したい』と手を挙げてくれる人は、公的機関がほとんど。あとは研究者の先生(だったのが現状)」(松浦氏)

一例として、JAXAの地球観測衛星の打ち上げ前に公表される情報を見てみよう。

地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」

2020年度打ち上げ予定のJAXAの地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」。

(C)JAXA

ALOS-3のスペック

ALOS-3のスペック(JAXA Webサイトより)

この上の表を見て、衛星のスペックから利用法や何らかの課題に対するソリューションを考えられるならば、それはすでに専門家の域だ。

そこで松浦氏は、内閣府の発表する「宇宙基本計画」の工程表に記載された衛星の用途から利用法を考える方法を提案する。

Tellusの宇宙データ活用でカギとなるのは、「データが無償で提供されること」と、「複数のデータを組み合わせて活用する」こと。たとえば、気象観測は日本国内でも市場規模300億円程度のビジネスだ。雲画像や雨量といった基本的な情報に、エアロゾル(大気中の細かいチリなどの粒子)観測からわかる黄砂や大気汚染物質、また赤外線観測からわかる植生分布といった情報を加えて、周辺にビジネスを広げていくことができる。

そしてTellusが提供するのが、「学習からビジネスまで一気通貫で提供するプラットフォーム」というメリットだ。

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Tellusの持つ特徴。データの提供と分析だけではなく、ラーニングの機能やコンテスト、販売(マーケットプレイス)まで用意することで、新しい衛星ビジネスを立ち上げるためのプラットフォームとしての側面もある。

例えば衛星データがどこにあるのかわからない、利用してよいのか、コストがわからないといった入手性の課題には、Tellus上に複数の衛星データが無償で用意されていること、地図や降雨量といった組み合わせられるデータも豊富であることによって応えられる。

衛星データのサイズが大きく、扱いづらい場合には、ブラウザ上で利用できるコンピューティング環境や解析ツールがある。そして、解析して付加価値をつけたデータの販路、顧客を開拓するためにマーケットプレイスも用意されている。

衛星データから生み出した「価値」をどうビジネス化するか

1時間あまりで宇宙産業の生の声を語ったセッションのアーカイブはYouTubeで公開されている。

こうしたTellusの機能に関心を持つイベント参加者から、「農業ベンチャーを起こしているが、何らかのソリューションを見つけたときに相手先企業(需要)を探すことが難しい」とアドバイスを求める質問が寄せられた。

松浦氏は、「作成したデータを無償、または低価格でマーケットプレイスに置いてみれば、Tellus登録ユーザー1万6000人以上に届く」と、Tellusを使って販路を開拓する方法を提案した。パスコの石塚氏は「お客さんが持っている既存の課題にも、衛星データを加えれば解決できそう、という部分が隠れていることがある」と想像力を働かせることを勧めた。

衛星データでソリューションを提供する側とそれを求める顧客、両者を結びつけるのが欧州では「インキュベーター」と呼ばれる役割だという。欧州は、エアバスなどが参加する衛星データプラットフォーム「コペルニクス」が、仕組みづくりで先行している。インキュベーターは「さまざまな課題を収集してマッチングする業務の人」(三菱電機 小山氏)。

今後は、衛星データを活用したビジネスにそうした人材が入ってくることが期待される。

(文・秋山文野

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