アシックスはno new folk studio(ノーニューフォークスタジオ)と共同開発したスマートシューズ「EVORIDE ORPHE(エボライドオルフェ)」の販売予約を開始した。エボライドオルフェを持つアシックスのスポーツ工学研究所の猪股貴志氏。
撮影:大塚淳史
アシックスは7月21日、同社初のスマートシューズの予約販売を購入サイト「Makuake(マクアケ)」で開始した。
スマートシューズ「EVORIDE ORPHE(エボライドオルフェ)」は、スポーツテック企業「no new folk studio(ノーニューフォークスタジオ)」と共同開発。同社には"侍ハードラー"として活躍した元陸上選手・為末大氏がCSO(チーフ・スプリント・オフィサー)、アドバイザーとして参画している。
CES2020で大反響の注目スマートシューズ
予約販売を開始したスマートシューズ「エボライドオルフェ」。真ん中に置かれている専用センサーモジュールが、ミッドソールに入る。
撮影:大塚淳史
アシックスは4年前から、ノーニューフォークスタジオとスマートシューズ開発で協力。2020年1月には投資子会社アシックス・ベンチャーズが出資している。
アシックスの廣田康人社長は21日のオンライン会見で、「EVORIDE ORPHE」への期待をこう語った。
「長年培った知見とノーニューフォークスタジオの先進的な技術を使ったシューズで、アメリカのラスベガスで(1月にあった)CES2020で発表して、大変反響があった。人々の健康に対する思いはますます強くなっている。健康志向とデジタルを掛け合わせ新しい技術で、新しいランニング体験を提供したい」(アシックス廣田社長)
エボライドオルフェに期待するアシックスの廣田康人社長。
出典:7月20日のオンライン会見よりスクリーンショット。
エボライドオルフェのコア技術の一つが、ノーニューフォークスタジオが開発したセンシングソリューション「ORPHE TRACK(オルフェトラック)」だ。
靴のミッドソールに入った専用モジュールが、走っている時の足の向き、足裏にかかる力のかかり具合、足首の角度などのデータを収集し、瞬時に解析する。
これらのデータと、アシックスが長年にわたって蓄積したランニングフォームのデータや、バイオニクス工学の研究成果を掛け合わせ、より良いフォームで走るようアプリ上で支援できるという。
靴底にある専用センサーモジュールを通じて、ランナーのランニング時のあらゆるデータを集める。
出典:7月20日のオンライン会見よりスクリーンショット。
ランニング中でも、自分があらかじめ設定した距離や時間ごとにデータを解析してくれる。
そのデータに基づき、今すぐ改善が必要なところを音声で自動的にアドバイスしてくれる。例えば、キック力が小さいランナーだったら、「もっとストライドを長く!」、フォームが乱れて地面を蹴る効率が低い人には「もっと前傾になって路面を蹴りましょう」とさながら、レースに帯同するコーチのように、背中を押してくれる。まだアドバイス機能自体はまだ開発途上の段階だが、最終的には十数パターンを用意する予定だ。
このように、走りながらでも自分の走りを修正しやすくなる。これまでのスマートシューズは、データを解析してランナーに明示してくれることはあっても、ここまでのアドバイスはなかった。ランニング愛好家たち個人個人に合った走り方を提案する。「シューズが、コーチになる」というコンセプトを打ち出している。
ランナー一人一人に価値を提供
アシックスが蓄積したデータとノーニューフォークスタジオの技術が融合する。
出典:7月20日のオンライン会見よりスクリーンショット。
原野健一執行役員兼スポーツ工学研究所所長は「デジタルを活用したパーソナライゼーション。ランナー一人一人に対して価値を提供していく。今回の発売をきっかけにさらに(この動きは)加速していく」と力を込めた。
ノーニューフォークスタジオの菊川裕也社長は「将棋だけでなく、スポーツの世界にもAIが入ってくると思う。予測する上で重要なのがデータ。リアルタイムでアスリートの動きを解析していくことで、AIとの共創が可能になる」と自社の強みを説明した。
解析されたデータは瞬時にランナーへフィードバックされる。
出典:7月20日のオンライン会見よりスクリーンショット。
今回、ノーニューフォークスタジオが開発した専用センサーモジュールは「ver.2」にあたる。
2019年に発表した前のバージョンよりも約50%小型化。重量は35グラムから20グラムの軽量化に成功した。ランナーにとっては、わずかな小型化や軽量化であっても、走りに影響を感じるという。
ノーニューフォークスタジオが開発した専用センサーモジュール。これをシューズの中に入れる。
出典:7月20日のオンライン会見よりスクリーンショット。
専用センサーモジュールは2019年開発のものから小型化・軽量化した。
出典:7月20日のオンライン会見よりスクリーンショット。
「一分とか時間単位で解析するスマートシューズは他にあるが、僕たち(エボライドオルフェ)は一歩単位で解析するので、本当のリアルタイムに近い。さらに音声でフィードバックできるから、ランナーの(フォーム)改善率は高いと思う」(菊川社長)
オンライン会見後には、東京都内のビル内でシューズの体験イベントも開かれた。
自分自身で履いてみたエボライドオルフェは、靴の中にあるセンサーモジュールは特に気にならない。アシックスの人気ランニングシューズのシリーズ「エボライド」をベースということもあり、走りやすそうな感触だった(ビル内ということで実際には走っていない)。
タッチポイントイベントで実際に履いてみた。中に入っている、センサーモジュールは気にならない。
撮影:大塚淳史
室内を2分ほど歩いてみたデータ。角度や力のかかり具合がアプリ上で表示される。
撮影:大塚淳史
スマートシューズは以前から注目されている分野で、各シューズメーカーが開発しているところ。ただ、市場として拡大していくかはまだ不透明ではある。エボライドオルフェの価格は、シューズとセンサーのセットで3万1500円(税別)、シューズのみで1万1500円(税別)と、高機能ぶりを考えると決して高額ではない。
なお、支援プロジェクトの期間は10月18日までだが、21日23時時点で目標金額を超え、応援購入総額は630万円を超えている。
(文・大塚淳史)