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ゲリラ豪雨予測、相対性理論の検証。研究施設としての「スカイツリー」の隠された姿

スカイツリー

間近から見上げたスカイツリー。その高さを改めて実感できる。

Osugi/Shutterstock.com

634mの高さを誇る、世界で最も高い自立式電波塔「東京スカイツリー」(以下スカイツリー)。観光スポットとして知られるこの高層建築物に、もうひとつの顔があることをご存じだろうか。

実はスカイツリーは、その高さを活かした「研究施設」として、さまざまな研究者たちに力を貸している。

スカイツリーで研究するメリットとは何か。これから迎える本格的な夏に頻発するであろう「大雨」に関係する研究を行なっている、防災科学技術研究所に話を聞いた。

なぜ、雲ができ、雨が降るのか?

入道雲

夏の風物詩である入道雲。雨や雷を降らせるとされる雲だ。

Moronobu/Shutterstock.com

空気中には、ある程度、水蒸気が含まれている。

そのため、上昇気流に乗って大気が上空へと吹き上げられると、空気が冷えて小さな水滴ができる。この水滴が、空気中に漂うちりやほこりなどの「エアロゾル」のまわりに集まることで「雲粒」ができる。

そしてさらにこの雲粒が集まることで、いわゆる「雲」となる。

雲の中には、雲粒が無数に存在しており、ほかの雲粒とくっつくなどして、次第に大きくなっていく。そして、ある程度の大きさにまで成長すると、自らの重みで落下しはじめる。

これが雨だ。

都会には、車の排気ガスや工場の煙などの影響で、空気中に雲粒の核となるエアロゾルが多く含まれており、その分、雲粒もできやすい。

空気中の水蒸気量には限りがあるため、エアロゾルが多いと、ひとつのエアロゾルに集まる水蒸気量は少なくなり、「小さな雲粒」がたくさんできることになる。

一方で、エアロゾルが少ないと雲粒の数は少なくなるものの、ひとつのエアロゾルにたくさんの水蒸気が集まるため、雲粒が大きく成長しやすく、すぐに雨になって地上へ落下してしまう。

スカイツリー

TakashiImages/Shutterstock.com

しかし、これまでの研究では、エアロゾルが多い都市部の平日の方が雨が降りにくいという結果もあれば、都市部の平日は午後に発生する積乱雲(雷雲)からの降水量が多いという結果も出てきている。

人間の活動によって生じるエアロゾルの量によって雨の降り方が変わると予想されてはいるものの、いまだにはっきりとしたことが分かっていないのが現状だ。

そこで、防災科学技術研究所はスカイツリーに注目。

2016年6月から都市部での雲粒観測を行うことにしたというわけだ。

「たとえば、同じ標高の高い場所でも、山の中に観測機器を設置したら、地面や周囲の植物の影響を受けてしまいます。エアロゾルも土埃や花粉の割合が多くなってしまうことでしょう。

スカイツリーのように、周囲にさえぎるものがなく、大気そのものを継続して観測できる場所で、しかもそれが都会にあるというのは実に貴重です。世界でもこのような観測施設はここだけのはずです」(防災科学技術研究所水・土砂防災研究部門の三隅良平部門長)

地上458m。壁に穴をあけて観測装置を設置

観測機器

設置された観測機器の様子。この部屋の壁には穴が開いており、雲を直接ポンプで吸い込んで雲粒の大きさや数を記録する。

提供:防災科学技術研究所

これまで、雲粒を観測する手段は航空機に限られていた。しかし、航空機を観測用に改造する費用やパイロットの人件費など、航空機での観測には費用がかかる。さらに、単発でしか飛ばせない。

一方で、たびたび雲がかかるスカイツリーでは、観測装置を設置してしまえば継続的に雲粒の観測ができる。

スカイツリーの地上458m地点、天望回廊という展望台の上には、作業用の道具を保管する倉庫がある。防災科学技術研究所は、そこに観測装置を設置し壁に穴をあけてエアロゾルが含まれた大気や雲を直接その倉庫内に取り込み、雲粒の大きさや数を観測している。

スカイツリー上空

高さ458mで行われる、観測機器の設置工事。

提供:防災科学技術研究所

なお、この観測場所には研究者が月に1回程度訪れ、観測データを回収しにいく。

写真で見るとただの室内に観測装置が設置されているように見えるが、部屋の壁には穴があいている。

前出の三隅良平部門長も、

「地上では穏やかな天気でも、上空は強い風が吹いているので恐いですね」

と話す。

雲レーダーと雲粒観測の連携で、ゲリラ豪雨を予測

ゲリラ豪雨

例年夏になると頻発するゲリラ豪雨。降り出す前に予報することはできるのだろうか。

sugarfresh1/Shutterstock.com

「観測の結果、東京の雲粒は、数が多くて小さいということが分かりました。ただ、世界のほかの場所と比べて、雲粒の数や大きさはそれほど特殊ではないということも分かっています」(三隅部門長)

スカイツリーで得られた観測結果は、夏場に多い「ゲリラ豪雨」の予測に活かすことができる。

ゲリラ豪雨は、積乱雲によってもたらされることが分かっている。しかし、積乱雲の中には、雨を降らさずにそのまま消えてしまうものもある。

防災科学技術研究所では、もともと電波を使って雲粒を感知できる「雲レーダー」を所有している。この雲レーダーの観測結果から推定される雲粒の大きさや雲に含まれる水分量と、スカイツリーで実際に観測した結果を比較・検証することで、雲レーダーで雲を検知した瞬間に、その雲が今後雨を降らせるほど成長するかどうかを予測することができるかもしれないのだ。

データが集まれば、今までは上空で雨が降り始めてからしか予報できなかったゲリラ豪雨を、雲が発生した段階ですぐに予報することができるようになる可能性もあるという。

ゲリラ豪雨が「ゲリラ」ではなくなる日は、着々と近づいているのだ。

スカイツリーで「時間の流れ」の違いを観測

スカイツリーで実施されている研究

スカイツリーでは、さまざまな実験が行われている。

©TOKYO-SKYTREE

スカイツリーは、建設にあたって、テレビやラジオの放送設備としてだけではなく、広く活用できるようにと余力を持たされていた。とはいえ、はじめから現在のようにカメラや観測機器などの観測設備を設置し、研究施設として利用しようと計画されていたわけではない。

それが現在では、その高さを活かして、気象観測以外にもさまざまな研究が行われるようになっている。

高さ497m地点では、電力中央研究所による雷観測が行われている。平地にある建造物での雷の観測としては、世界で一番高い場所で実施されている。また、電力中央研究所は、高さ300m付近でPM2.5などの観測も行なっている(大気質観測)。

防災科学技術研究所が雲粒観測を行なっている高さ458m地点では、国立極地研究所・東京理科大学が空気中のエアロゾル(ちりやホコリ)の観測も。また、高さ250m付近では国立環境研究所によって、大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスの観測中だ。

さらに、2020年の4月には、理化学研究所・東京大学の研究グループが、スカイツリーの高さ450m地点と地上付近に設置した「光格子時計(※)」を使って、450m地点の方が地上よりもわずかに時間の流れが早いことを確認したことを発表。これは、アインシュタインが提唱した「一般相対性理論」の検証に相当する実験だ。

※原子が光を吸収したり放出したりするようすを元に、時間を定める特殊な時計。実験で使われた光格子時計は、約100億年かけても1秒しかずれない超高精度なもの。

アインシュタイン

アルバート・アインシュタインが提唱した「一般相対性理論」によると、地球の中心に近い方が、重力の影響を強く受けるため、時間の流れが遅くなる。たかだか高さ数百メートルでは、その影響は微々たるものだが、超高精度の時計を用いることで理論の正しさが検証できた。

Keystone:GettyImages

東京スカイツリーの広報担当者によると、

「観測機器が置けるスペースにはまだまだ余裕があります。ぜひ新たな研究拠点として活用してほしいです」

と、今後も研究のためにスカイツリーの利用を歓迎しているようだ。

世界でも珍しい天空の研究施設で、今後、一体どのような研究が行われるのだろうか。

(文・今井明子、編集・三ツ村崇志

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