マイクロソフトが最近リリースした「職場復帰支援ツール」が、新型コロナ関連ビジネスの勢力図の一部を塗り替えることになるかもしれない。
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マイクロソフトは業務アプリケーション構築・運用プラットフォーム「Power Platform(パワープラットフォーム)」上で機能する新たなツール4種類を発表した。
新型コロナウイルス感染拡大を受けてオフィスを閉鎖していた企業にとって、再開後に従業員を安全に職場に復帰させるための有力なサポート手段となる。
大まかに言うと、Power Platformは、業務アプリケーションの開発およびデータの収集分析を(WordやExcelの知識さえあれば)コーディングなしで実現できるプラットフォーム。
今回リリースされたツールを使えば、従業員の健康状態、(感染者との)接触履歴、職場の衛生環境、消毒薬など衛生・安全用品を一元的に管理できる。
マイクロソフトはさらにデータ共有機能も追加。今後、すべてのユーザーがチャットアプリ「Teams(チームズ)」から新たなツールに直接アクセスできるようになる。
この新たなプロダクトは、セールスフォースが安全な職場復帰を実現するツールとして売り出している「WORK.COM(ワーク・ドットコム)」に似ている。
セールスフォースが提供する職場復帰支援ソリューション「WORK.COM(ワーク・ドットコム)」の紹介ムービー。
Salesforce Official YouTube Channel
あるアナリストは、セールスフォースが5月にリリースしたノンコーディング(あるいはローコーディング)業務アプリケーション構築機能「Dynamic Forms(ダイナミック・フォームズ)」「Dynamic Actions(ダイナミック・アクションズ)」から、マイクロソフトのPower Platformへの乗り換えが進むと予測する。
マイクロソフトの業務アプリケーションビジネスを率いるアリサ・テイラーによれば、ユーザー企業は新たなツールをそのままでも、またカスタマイズしても利用可能。ツールに機能を加えたり、ツールどうしを組み合わせるなどして顧客企業に販売することもできるという。
このカスタマイズ機能こそがセールスフォースのDynamic Forms、Dynamic Actionsとの差別化ポイントで、しかも追加料金が必要になるセールスフォースと違って、マイクロソフトのツール群はPower Platformのユーザーなら無料で使えるという。
フューチュラム・リサーチのアナリスト、ダン・ニューマンは、今回マイクロソフトが発表したツールは、同社が展開するPower Platformと(クラウドCRMおよびERPプラットフォームの)Dynamics 365に新たな顧客を呼び込む方策のひとつと分析する。
すでにマイクロソフト製品をある程度使っているユーザー企業は、今回のツールをきっかけに同社製品の導入範囲を拡大する可能性もある。
マイクロソフトの業務アプリケーション構築・運営プラットフォーム「Power Platform」の紹介ページ。
Screenshot of Microsoft Power Platform website
従業員の健康状態をモニタリングし、職場の衛生・安全環境を維持するツールは、パンデミックのなかでオフィス再開を模索する企業にとって間もなく不可欠となる。
そうした企業はマイクロソフトやセールスフォースが提供するようなツールを使うか、あるいは自分たちで構築することになるが、後者は大変な作業を伴う。
「職場復帰ツールを持たない企業は、本当にそれを自作しようと思うだろうか?マイクロソフトのPower Platformのように、ツール導入を支援してくれるソフトウェア企業に頼ろうとするのでは?もしそうだとしたら、マイクロソフトは新たな顧客とビジネスチャンスをつかむことになるのでは」(ダン・ニューマン)
前出のアリサ・テイラーは、マイクロソフトのプラットフォームとしての優位性について、提供するツールのネットワークが幅広く、しかもそれらが完全に統合されていることだと説明する。
例えば、コンサルティングファームのメサ・グローバル(Mesa Global)は、マイクロソフトの健康管理ツールを組み込んだ遠隔診療アプリをPower Platformで構築し、医療施設を運営する顧客に提供しているという。
マイクロソフトは今後も業務アプリケーション向けに新たなツールを提供するとともに、人工知能プラットフォーム「Azure(アジュール)」やOffice365との統合性を強化していく計画だ。
マイクロソフトの業務アプリケーションのユーザー企業は増加の一途で、最近も飲料大手コカ・コーラや薬局チェーン大手ウォルグリーンと大規模な契約を結んでいる。
(翻訳・編集:川村力)