気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。 今回の道場相手は作家のカツセマサヒコさん。新刊『明け方の若者たち』を多くの人に読んでもらいたい、というカツセさんに対し、GO三浦はどんなアイデアを出すのか? まったく違う人生を歩いてきたように見える2人だが、実は若い頃、同じように悩んでいた……!?
三浦崇宏(以下・三浦)
『明け方の若者たち』、狙って明け方に読み終わるように、ゆうべの12時から読み始めたんだよ。
カツセマサヒコ(以下・カツセ)
ありがとうございます。今日は、どうしたらこの本が1人でも多くの人に読んでもらえるか相談したくて。
三浦
こないだ糸井重里さんとの対談で「本は売れませんよ」って言われたばっかだけどね(笑)。えっと、その前におれがこの本をどう読んだか、言ってもいい?
カツセ
是非是非! 聞きたいです。
三浦
本当の小説って、リアリティをもって「本当のことを書いてる」ものだと思うんだけど、この本では、それが「今の文体」で書かれてるんだよね。「本当のこと」と「今の文体」が両方兼ね備わってるから、すごく共感できる本になってる。読んだ人が「これは僕の物語だ」「自分だけじゃないんだ」と感じることで、救われるんだろうなと思った。で、これは表現においてはあらゆる分野でも最大の褒め言葉だと受け取ってほしいんだけど、おれにとっても「これはおれの物語だ」って思ったよ。
カツセ
本当ですか。三浦さんに共感されるポイントは1個もないと思ってました(笑)。こんなナヨナヨした主人公だし、私小説的な要素も一部あるから、僕と三浦さんとは摂氏と華氏くらい体温が違う人だろうと。すごく失礼な言い方をすると、「分かられてたまるか」みたいな気持ちもありまして(笑)。
三浦
おれ、資本主義の申し子みたいに見えてるもんね。
三浦さんとは対談前に何度か会っているというカツセさん。今回、華氏と摂氏の間は埋められるのか。
カツセ
はい(笑)。僕、恥ずかしながら「GOの三浦さん」から入ってるので、そういう印象だったんです。でも対談にあたって三浦さんの『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』を読み直してみたら、僕が『明け方の若者たち』で書いた話と似たようなシーンがあって驚きました。減点方式の会社員人生にえらく悩んでいらしたとか。ビジネス本に書いてあることと同じことを、自分の小説で書いていた。なんだかすごく不思議で、シンパシーを感じました。
三浦
主人公の彼よりも昔のおれの方が自意識高かったぶん、もっとコメディタッチな生活だったけどね。
カツセ
ははは(笑)。
三浦
それと、カツセさんらしいなって思ったのが、イケてる比喩が一つの文章に大体2個出てくるんだよね。「Aであり、またBである」的な。
カツセ
それ、くどいと言われました(笑)。
三浦
悩みながら書いてるというか。1つの比喩で終わらせないところがカツセさんの、熟練Webライターのサービス精神であり、新人作家の迷いであり。それが常に表れてて、すごく愛おしかったよ。
カツセ
実際、書きながらずっと迷っていました。プロットづくりも2年くらいかかりましたし。でも「文学って答えが書いてあるもんじゃないから、いっか」みたいな気持ちで、迷いのまま出してるとこはあります。今それを見事に見抜かれましたね……。
本を「AKBのCD」みたいには売りたくない
三浦
で、本の売り方だよね。思い出したんたけど、以前ある人が「◯◯冊買ってくれたら講演に行きます」って本の売り方をしてたとき、カツセさんがSNSで、これは超意訳だけど、「本がAKBのCDみたいに売られてるのが悲しい」って言ってたじゃない。
カツセ
うっわー、結構昔ですね。言ってました!
三浦
そこにおれ、すごく共感したんだよ。「あ、カツセさんはこっち側に立ってる人だ」と。そのときはまだ自分が本を出すことは決まってなかったけど、いずれ出すだろうとは予見してたから、悩んだの。
カツセ
悩んだ? どうして?
三浦
本当はカツセさん側に立ちたいけど、おれって世間からはあっち側、つまり「◯◯冊買ってくれたら講演会」側だと思われているから、どうしようかなあって。まだ本を出す予定もなかったのに。
カツセ
なるほど。
三浦
だから、そういう生き方、スタンスを選んでるカツセさんが、この小説をどうやって届けようか悩んでる今って、すごく難しい相談されてるなあと。ちょっと聞いておきたいんだけど、デビュー作をエッセイとかビジネス書とか啓発書ではなく、文学として出したのはどうして?
カツセ
出版のオファーはたくさんいただいてたんです。エッセイ書きませんか、ツイートまとめませんかって。でも、ツイートをまとめて1100円って、どう考えてもおかしくないですか? AKB商法のような、「煽ってさえいれば、中身は何でもいい」みたいな感じになっちゃうのは、すごく嫌で。その気持ちの最たるものとして、「出すなら小説でしょ。文芸書を出すのが本として一番崇高じゃない?」って結論に行き着いたんです。偏見だし、決め付けですけど。
三浦
決め付けって言うか、カツセさんの哲学だよね。だから「本がAKBのCDみたいに売られてるのが悲しい」と。
カツセ
本屋に行って本を手に取る瞬間が大好きなのに、それが音を立てて壊れていく未来が見えてしまった時、「怖っ」て思ったんですよ。何か言わなきゃと。でも、現実問題として難しいですよね。そういうふうに資本主義に振り切ってしまえば、売る方法なんていくらでもあるんですけど、文学的な面とか、残したいものとか、こだわりみたいなものがあると……。その塩梅が難しい。
三浦
そうなんだよ。これすごく矛盾があってさ、「カツセさんの生き方」においてはこの本を売ろうとすることは、実はとてもダサい(笑)。しかし、この本を売ることが、結果的に「カツセさんの生き方」の格好良さを保つことになる。ものすごく矛盾した構造になってる。
幻冬舎担当編集者Kさん
「フォロワー何万人」「何十万人が号泣」みたいに打ち出すのはやめよう、とは当初から言ってましたよね。
同じコピーを100人に手書きさせよう!
三浦
その意味では、今かかってる帯の戦略はすごく正しいよ。紗倉まなさん以外は全員「これは自分の話だ」と言っているわけだから。そうだ、「これはおれの話だ」っていうまったく同じコピーを、100人の違う奴に手書きで書かせたらどう?
カツセ
それ、いいですね!? 見てみたいです、僕も。
三浦
100人には無名の人も必要だよ。雑誌で言うと「TOKYO GRAFFITI」みたいな感じね。無名の100人が、本文中で一番共感した1行だけを抜き出すのもいいかも。100人が読んで100人とも、それぞれ違うかたちで「これは俺の、私の話だ」って思える部分のある物語だから。
カツセ
今日、GOさんにいくら払えばいいんですか(笑)。
さすが広告のプロ、三浦さん。一瞬で思いついたプロモーションに一同唸る。
三浦
あとは、読者に「この本をプレゼントしたい人」を募ってみるのはどうだろう。で、便箋をつけて売る。タカヤオオタさんのデザインで。
カツセ
いいですね! そう言えば、「恋人にあげようかと思ったけど、やめましたって」DMが何通か来ました。
三浦
どうして贈りたいのか、その理由が大事だよね。復讐なのか、約束なのか、思い出なのか、激励なのか。
カツセ
面白そうですね。
三浦
多分、忘れてほしくない人に贈るんだろうな。「ほっといたらこの人、私のこと忘れちゃうんだろうな」って人に。「かつてお前の中におれはいたし、お前は嫌だろうけど、今でもお前の中におれはいるよ」っていう。
カツセ
うわー、女々しい! そんな男らしく女々しいこと言う人います?
三浦さんのロマンチストな発言に、思わず突っ込むカツセさん。
三浦
おれは言いたかったよ。高校生のときに付き合ってた女の子が、美容師と浮気して別れたとき(笑)。
カツセ
ははは(笑)。
結婚式のコピー、勝手に50案
三浦
本を読んでて思い出したけど、おれも作中の尚人みたいに、求められてもいないのにすごく頑張って企画書を書いてたなあ。明大前の公園や高円寺の「大将」(※注:いずれも作中に登場する場所)じゃなくて、六本木のスタバだけど。予算度外視の妄想を延々と語ってた。マーケティング部だから、そういうの必要ない部署だったのに。でもやってたよ、ブレストとか。
カツセ
キツい過去、あったんすね……。
三浦
おれ、新卒同期の中でもちょっと目立ってて、「あいつみたいな奴が将来有名なクリエイティブディレクターになるんだな」なんて言われてたのに、配属先はマーケ。ちょっと泣いたよ。「あいつ口だけじゃん」って言われて。でもリーダーっぽいところもあったから、同期の結婚式の幹事を頼まれるわけ。その結婚式のコピーを勝手に50案とか書いて、「おれ、こういう考え方なんだけど」って提案する。……ひゃあああああ、恥ずかしい!
カツセ
(笑)。それは第三者でも恥ずかしいですよ! すごい。今の三浦さんからは想像がつかない。
三浦
何か考えたくてしょうがなかった。企画したくてしょうがなかったんだろうね。同期の結婚式のためにさあ、コピー50案……。
カツセ
50案! 本当にクリエイティブに飢えてたんでしょうね……。
※本連載の後編は、7月31日(金)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
カツセマサヒコ :1986年東京生まれ。大学を卒業後、2009年より一般企業にて勤務。趣味で書いていたブログをきっかけに編集プロダクションに転職し、2017年4月に独立。ウェブライター、編集として活動中。デビュー作『明け方の若者たち』(幻冬舎刊)が好評発売中。