家庭運営は会社に似ていると考える筆者の、実録・家庭のチーム運営とお役立ちツールを一挙公開(写真はイメージです)。
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どの家族にも、多かれ少なかれルールがある。「午後8時までに帰宅すること」「お小遣いは3万円」「靴下は帰ってきたらすぐに脱ぐこと」……家族の数だけルールがあるが、我が家の取り組みは少し変わっているかもしれない。
私達がルールとして導入したのは、通常、インターネットサービス開発などに用いられる『スクラム』という開発フレームワークだ。
本格的に取り組み始めたのはここ半年。きっかけは子供が保育園に通い始め、本格的に仕事と育児の両立が必要になったことだった。
子供が産まれるまでは仕事と日常生活だけで24時間が過ぎていたわけだから、ここに単純に育児が加われば忙殺されてしまうことは明らかだ。
この課題を解決するために私達が目指したのが、家族をチームとして運用することだ。その手法として取り入れたのが、チームで一つの目的を遂行するために創られた開発フレームワークだった。
この記事では、夫がプロダクトマネージャー・妻がデザイナーである我が家が、家庭におけるコミュニケーションをどう捉え、どのようにルールを決め、家族というチームを運営しているのかについて記載する。また、円滑な運用のために導入した各種ツールについても併せてご紹介できればと思う。
家庭内で行われる4つのコミュニケーション
私たちは日々、家族と様々なコミュニケーションを交わしている。これを大別すると、
- 伝達事項
- タスク管理
- 知識の共有
- 雑談
この4つに分けることができる。これらは全て口頭で済まされがちだが、実はそれぞれに本来あるべき姿がある。
1つ目、伝達事項は、家族に漏れなく報告しなければならない事柄のことだ。
代表的なものはスケジュールで、「今日は飲み会があるから夕飯は必要ない」「日曜日は不在にする予定」など、正確に伝わっていないとトラブルのもとになることもある。口頭だけでは言った・言わない・忘れたなどの口論になることが多い。
2つ目、タスク管理は、「買い物リスト」や「やることリスト」と呼ばれる類のものだ。
家族が生活する上で必要な事柄のことで、確実にタスクを遂行すること、自分以外が遂行した場合にそれを把握する必要がある。これが上手く機能しないと、夫が卵を20個買ったまさしくその時間に、別のスーパーで妻が20個卵を買い、結果家に卵が40個もストックされるような悲劇が産まれる。
3つ目、知識の共有は、家族の誰もが同じ知識を共有する必要のある事柄である。
例えば親戚の連絡先、マンションのロッカーを開ける暗証番号、重要な契約書の所在などがこれに当たる。これらの知識は常にアクセスできる場所にあるべきで、どこにあるか忘れてしまったとしても、どこかにヒントを置いておく必要がある。共有を怠った場合、有事の際に途方に暮れることになるだろう。
最後が雑談だ。これは口頭で構わないし、むしろ口頭であるべきだ。
「今日、道端で見た犬が可愛かった」、「昼時に食べた坦々麺が絶品だった」、「子供がはじめてパパと喋った」など、積極的に会話を交わすことが、日々のコミュニケーションの円滑化に繋がるだろう。
上記の通り、コミュニケーションにはそれぞれ適した形がある。私達が最初に検討したのは、それぞれのコミュニケーションのあるべき姿を再検討することだった。
1. 伝達事項:Gカレンダーを活用、自動通知で抜け漏れを回避する
確実な伝達が必要な重要事項については、前日・当日にリマインドのメッセージを設定。
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「伝達事項」におけるコミュニケーションで必要なのは、抜け漏れなく、確実に相手に伝達を行うことだ。口頭でこれを行うのは非常に困難である。
人間は伝え忘れることもあるし、伝えられたことを忘れることもある。自分が忘れることを前提に仕組みを作らなければならない。
まず、家族全員分のGoogleアカウントを作成した。各自のスケジュールは基本的にGoogleカレンダーに記入し、誰にどんな予定があるのかをお互いが把握する。
とはいえ、毎朝カレンダーをチェックするほど暇ではない。そのため、確実な伝達が必要な重要事項については、前日・当日にリマインドのメッセージがくるように通知設定する。「振り込み期日は明日だよ」「今週、子供の予防接種があるよ」といった具合だ。
もともとメッセージにはLINEを使用していたが、通知などの設定を細かく行えることからslackも導入した。
自動で通知することで伝達漏れを防ぎつつ、テキストとして残ることで、言った・言わないの議論をせずに済む。
2.タスク管理:タスク管理ツールと開発手法の導入で確実にタスクを遂行する
タスク管理で必要なのは、確実にタスクを遂行すること、自分以外が遂行した場合にそれを把握することだ。
半年前、最初に導入したのは、やることを管理できるTodoistというアプリケーションだった。Todoistに買い物リストやサービス退会など、全てのやらなければならないことを投稿し、追加・完了した際に自動でslackに通知するという方法を取っていたが、これには一つ問題があった。
スーパーの買い物など、短期で終了するタスクであれば不足はなかったが、例えば「資産運用について検討する」などの長期のタスクや、「10月になったら振り込む」などタイミングが決まっているタスクがある場合、いつまでもそれを完了することができないのだ。
そうした完了できないタスクが溜まり続けると、何を今本当にすべきなのか、分からなくなってしまう。
開発手法で用いられる「スクラム」と「カンバン」手法を取り入れ、やることを明確に洗い出した。
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そこで導入したのが「スクラム」と「カンバン」という開発手法だった。と言っても、実際の開発のように厳密にスプリントを決めたり、ポイントを付けたりすることはない。あくまでもゆるく概念的に取り入れた形だ。
管理にはTrelloというタスク管理ツールを導入することにした。Trelloではリストと、その下に紐付けるカードを作成することができ、カードは簡単に他のリストに移動できる。夫婦ともに業務で使用したことがある、慣れ親しんだツールだ。
夫婦ともに業務で使用したことがある、慣れ親しんだツールでタスク管理。達成感も得やすい。
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まず、「今月やること」をBacklogというリストに入れ、そのうち、「今週やること」をDoingに、「完了したもの」をDoneのリストに移動する。
この際、Doingにあるものはなるべく1週間以内に、Backlogにあるものは1ヶ月以内に完了できるように心がける。「今月はやらないがいつかやりたいことはIceboxのリストに入れ、忘れないようにしておく。
メリットはタスクが完了することだけではない。完了したことがこうして可視化されると、「今月はこんなにたくさんのことをしたんだな」という達成感にも繋がる。
また、完了したタスクを家族に通知することで、感謝をされたり、感謝を伝えることもできる。この際、「ありがとう」と口頭やチャットで伝えることはとても重要である。
3. 知識の共有:ドキュメント化で常に情報にアクセスできる状態に
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知識の共有で重要なのは、常にアクセスできる場所にあること、仮にどこにあるか忘れてしまったとしても、どこかにヒントを置いておくことである。
先述したGoogleカレンダーによるスケジュール共有に加え、我が家では家計管理にMoneyForwardを、事業経費の管理にfreeeを、パスワードの共有に1Passwordを導入している。
MoneyForwardは、口座を予め連携しておくと、今月の収支や家計簿を自動で算出してくれる便利なサービスだ。
これにより、都度家計簿を付けたり共有せずとも、現在の家庭の収支状況をお互いが把握することができる。他のサービスも同様に、それぞれの得意分野に特化したツールであり、家庭運営の効率化に大いに寄与してくれている。
しかしながら、管理するサービスが多くなればなるほど、どこに何があるのかわからなくなる。この解消のために導入したのが、ドキュメント管理ツールのNotionだった。
Notionは様々な情報を一元的に管理できるサービスで、リンクや文章を記載し、他の人に共有することができる。
まず、それぞれのサービスにワンクリックで移動できるページを、Notion上で作成する。また、保育園送迎時の手順や持ち物、ゴミ出しの曜日などの日常の情報も、適宜ドキュメント化しておく。
その後、メッセージサービスのslackに自動返答システムを設定し、「助けて」「ヘルプ」といった特定のキーワードに反応して、このNotionのページへのリンクを返答させることにした。
分からないことがある時はここを頼れる、いわゆるヘルプページのようなものをイメージしてもらうとわかりやすいだろう。これで夫婦どちらかが家出をしたとしても安心である。
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4. 雑談:週次定例でまとまった会話の時間を持つ
進行管理も一目瞭然。仕事で使ったツールは過程にもかなり運用できる。
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想像してみてほしい。童謡が延々と流れ続ける部屋で、2歳の子供に汽車の絵本を読みながら、片手間に資産管理の相談をすることを。パズルを解きながら、同時に家の間取りについて議論することを。不可能である。
まだ小さな子供がいると、落ち着いて会話することすら難しい。そこで我が家では、息子が保育園に行っている日中に、週次定例の時間を設けることにした。
ここ数カ月は夫婦ともに在宅勤務で働いており、平日のランチタイムはぴったりの時間だった。同じタイミングで昼休みを取り、先述のTrelloを開きながら、「先週やったこと」や「今週やること」について共有する.
週次定例と言っても業務のように仰々しいものではない。我が家では「今週のトピック」というリストをTrelloに置き、週次定例で話したい内容は各自この中に入れることにしている。
例えば「床に落ちていた謎の部品について」「来週に飲み会があるよ」「そろそろ掃除しなければならないエアコンについて」など、内容は様々だ。
こうした、とりとめない話題を一つ一つ見ながら、エアコン掃除の業者を手配しよう、では手配は誰々が担当しよう、といったことを雑談的に相談し、最終的にはタスクをカードに落とし込んでいく。
仕組みは改良が必要
さて、ここまで4つほど我が家での取り組みをご紹介してきたわけだが、これがどのご家庭でも最善というわけではない。
我が家の場合は夫婦ともにサービス開発を生業としており、こうした管理手法に馴染みがあったし、状況が変われば方針を変える必要もある。
例えば、伝達事項の項目で「毎朝カレンダーをチェックするほど暇ではない」と書いたが、実はcovid-19の感染拡大により家庭保育を余儀なくされていた時期には、家族全員の全てのスケジュールを毎朝確認するようにしていた。
夫婦のどちらかが仕事を休んで子供と過ごす必要があったため、お互いの会議などの予定を確認しなければならなかったからだ。家庭保育が終わったタイミングで、このルールは撤廃している。
# 「家庭を会社のように考えたくない」という話について
こうした話をすると、「家族を会社のように考えたくない」「家庭はもっと穏やかであってほしい」と言った反応を頂くことがある。もちろん、そうした考え方があることも理解しているが、筆者の考えでは実際のところ
「家庭というのは会社のようなもの」である。
収入があり、支出があり、目的がある。家計を考えるとき、私たちは経理のようなことをしなければならないし、生活するためには、営業のように仕事を獲得してこなければならない。
家庭運営は、長く続く一大プロジェクトだ。プロジェクト管理手法を取り入れるのは一つの有効な手段といえそう。
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もしも20代で結婚して、仮に死ぬまで一緒にいるとすると、家族は60年以上の一大事業になる。
起業して数年以内に倒れるスタートアップがこれほどたくさんあるわけだから、60年間事業を共にするというのは、本当に大変なことだ。
それでなくとも、妊娠・出産・病気・介護と、イレギュラーな事象が多い。この一大事業に、会社でやるようなプロジェクト管理手法を取り入れるのはとても有効だと感じている。
一方で、家族と良好な関係を築くためには、穏やかなコミュニケーションも、とても大事だ。
安心してほしいのだが、会社のような管理手法を取り入れたとしても、こうした穏やかなコミュニケーションが失われるわけではない。
むしろ、目的に適した仕組みを整えることで、不要な争いを避け、本当に必要な雑談に時間を使うことができるだろう。
大事なのは、話し合うことを当たり前にすることだ。
複数の人間が集まって一つのことを為そうとしたとき、どうしても意見が噛み合わないことがある。噛み合わないこと、それ自体は悪ではない。
意見を言うことを恐れない環境であること、常に変化することを許容できれば、いずれはチームごとの最適解が見つかるはずだ。
(文・伊美沙智穂)
伊美沙智穂:1993年生まれ。立教大学卒業、株式会社NTTドコモの法人営業部を経て、現在は株式会社Caster・株式会社bosyuのUIデザイナー、Business Insider Japanでライターのほか、個人でもWEBメディアを運営するフルリモート・パラレルワーカー。1児の母。新しい仕組みやテクノロジーが大好きで、育児や家事、仕事など、積極的に生活に取り入れている実体験を元に記事を書きます。