最高裁判断の主文。
出典:Shutterstock、編集部
Twitterのタイムラインに流れてきた写真をリツイート(RT)したら、著作権を侵害する可能性がある……そんな判断を最高裁が下した。
自身の撮影した写真が無断で使われたツイートがRTされたことで著作権と著作者人格権が侵害されたとして、プロの写真家がTwitter社に発信者情報の開示を求めた民事裁判で、最高裁第3小法廷は発信者情報の開示を命じた2審の知財高裁判決を支持。Twitter社による上告を棄却し、判決が確定した。
最高裁は、Twitterの仕様であっても著作権表示が見えない状態のツイートをRTすることは、著作者の氏名表示権の侵害にあたる、との判断を示した。
Twitterの仕様に従ってリツイートしたユーザーに、一定の責任を迫る判断と言えそうだ。著作権に詳しい紀藤正樹弁護士は今回の判例が日本のユーザーに「萎縮効果」をもたらす懸念があり、日本のITをガラパゴス化させる判決だと警鐘を鳴らす。
「TwitterのRTで著作権侵害」の衝撃
撮影:伊藤有
まずは簡単に、この裁判の経緯を振り返っておこう。今回の裁判を起こしたのは、北海道在住の写真家。この写真家は、以下の(1)〜(3)のTwitterユーザーの情報開示をTwitter社に求めていた。
(1) 自身が撮影し、クレジットを付けてサイトに掲載した写真を無許可でTwitterのプロフィール画像に設定したTwitterユーザー
(2) 1と同一の写真をコピーしてツイートしたユーザー
(3) 2のツイートをRTしたユーザー
(1)・(2)のユーザーは写真家の公衆送信権を侵害しており、2審(知財高裁判決)でも争いのない「事実」として認定された。
問題となったのは(3)の「ツイートをRTしたユーザー」についての訴えだ。
2審の知財高裁はRTしたユーザーを「自動公衆送信の主体」とは認めず、幇助とも認定しなかった。
一方で(3)のツイートをRTしたユーザーは著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害したと認定。発信者情報の開示をTwitter社に命じた。
権利者である写真家は、画像に「(C)」を付けて、自分の名前を著作権者として書き込んでいた。しかし、Twitterの仕様ではタイムライン上に表示される画像は自動的にトリミングされてしまう。
画像全体を表示するにはツイートか画像をクリックして表示する必要があった。
Twitterーのタイムライン上の画像表示の例。この上の方のツイートをクリックすると画像が全体表示される。
作成:筆者
実はこの画像には「(C)小山安博」との著作権表示を追加されていたが、タイムラインで表示される段階では、トリミングされて見えていなかった。この仕様をどう判断するかが、今回の争点だ。
作成:筆者
この仕様の結果、「タイムライン上では画像全体が表示されない」という状態が発生し、写真家の著作権表示もタイムライン上に表示される画像から消えていたことになる。
こうしたTwitterの仕様を踏まえた上で、知財高裁は「RTしたユーザーのTL上で著作権表示がされていなかったことは、氏名表示権の侵害である」と判断した。
この判決を不服としてTwitter社は最高裁に上告。ここまでが今回の裁判の経緯だ。
最高裁判決では、知財高裁の判決のうち「氏名表示権」についてのみを判断している。
氏名表示権とは、「自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、するとすれば、実名か変名かを決めることができる権利」(公益社団法人著作権情報センター)とされている
最高裁は、Twitterの仕様であっても、またRTしたユーザーの認識がどのようなものであったとしても、画像の著作者名が表示されない状態でタイムラインで表示されたのは「ユーザーのRTの結果である」と認定。
Twitter社側は、画像をクリックするなどすれば全体が表示され、著作者名も確認できたと主張した。
これに対して最高裁は、Twitterの閲覧者がいつも画像をクリックして画像全体を表示するとは限らないとして、「RTする際に、Twitterの仕様で著作者表示が見えなくなる場合は、RTしたユーザーは著作権侵害(氏名表示権)の行為者になる」とした。
判決文の“反対意見”に紀藤弁護士「シンパシーを感じる」
ITと著作権に詳しい、リンク総合法律事務所の紀藤正樹弁護士。
撮影:小山安博
今回の最高裁判決は、Twitterのみならず、画像投稿が可能なSNS的なサービス全般に大きな影響を与えうる判決だ。
ITと著作権に詳しい紀藤正樹弁護士は、「日本の著作権法はとんでもなく遅れているということ」と率直な感想を述べる。
日本の著作権法では「著作権侵害をしたか、しないかしかない」(紀藤弁護士)。これは日本の著作権法に「フェアユース」の概念がないためだ。
フェアユースとは:一定の要件を満たした公正な利用の場合には、著作権者の許諾なく著作物を利用しても著作権侵害にはならないとする考え方のこと。
例えば、Google検索におけるキャッシュの機能は、米国ではフェアユース規定によって法的問題をクリアしている。日本の著作権法は2010年の改正でキャッシュがようやく著作権侵害にならないことが明確化されたが、フェアユースの概念はまだ取り入れられていない。
紀藤弁護士によると、「フェアユースは(著作権法にとって)いわば逃げの部分。公正な利用なら認めますよ、という一般条項」だという。だが、日本の著作権法には存在しない。
「Twitter社はフェアユース規定があれば争えたが、日本の著作権法にはないので、争えなかった」その結果「この理屈で争ったら著作権侵害(という結論)にならざるをえない」(同)ため上告棄却となったと、紀藤弁護士は解説する。
最高裁の判決文では、林景一裁判官の反対意見も記されている。
このなかで林裁判官は「RTする前にあらゆるツイートの画像を調査、確認しなければならなくなる」と判決への懸念を指摘。総合的に判断するとリツイートをした人たちは著作権侵害をした主体とは言えない(主体はTwitterである)との見解から、リツイートをした人たちの情報開示請求は破棄すべきだとした。
この反対意見について紀藤弁護士は、ITの発展を狭める判例をつくらないという意味で「シンパシーを感じる」と言う。
今後、刑事訴訟の「判例づくり」が起こる可能性
写真はイメージです。
撮影:竹井俊晴
今回はあくまで民事訴訟のため、刑事訴訟上の判決は出ていない。
しかし、紀藤弁護士は「日本の過去の例から見ると、検察庁は確実にテストケースとして(民事判決を受けて)刑事事件になるような事案を選んでくるはず」であり、「(刑事事件の判例とするため)RTが多い人などをターゲットにする可能性がある」と今後の展開を予想する。
また、Twitterと同様にタイムラインで画像をトリミング表示しているFacebookやLINEなどのサービスにもこの判決が影響を与える可能性があると、紀藤弁護士は指摘する。
今後「そのRTは著作権侵害だ」と指摘されたときに取るべき行動
Twitter社の公式アカウント。
Shutterstock
今回の最高裁判断を受け、Twitterで画像付き投稿をRTする場合は、その投稿の写真が権利的に問題ないものかどうかを判断した上でRTする「作法」が求められる。
その上でも、誰かから「著作権侵害だ」と指摘されたら、ユーザーはどうすればいいのか?
紀藤弁護士は「誰かに文句を言われたら、すぐに削除する。戦ってはいけない」とアドバイスする。訴訟になれば、時間もお金もかかり、たいていの場合「Twitterで気になったからRTしただけ」の行為には見合わない代償になる。
判例がある以上、争っても勝てない。すぐに削除すれば「過失がないと判断される可能性がある」という。
なお、今回の最高裁判断に絡んで、戸倉三郎裁判長は判決文で「Twitter利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される」との補足意見を述べ、Twitter社側へRTに責任が伴う旨の周知などの対応を求めた。
判決や今後のRTの仕様変更の可能性について、Twitter日本法人広報は「現時点では当社からのコメントは差し控えさせていただきます」とコメントしている。