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「在宅でもスーツを着ろ」「Zoomは上司より先に退出するな」意味不明なビジネスマナーが日本企業を滅ぼす

「こんなリモートワークは嫌だ」という叫びを紹介しよう。

「こんなリモートワークは嫌だ」という叫びを紹介しよう。

CentralITAlliance/Getty Images

「社内のZoom会議で、“役職者を大きく表示しろ”といった意味不明なビジネスマナーがはびこっているんです」

コロナ禍でリモートワークの導入が進む中、企業の業務プロセスやオフィスコミュニケーションの改善を手掛ける沢渡あまねさんの元には、こういった話が続々と集まっている。

“しがらみ”から労働者を解放し、個人が働きやすい環境をつくり、多様性のパワーを成長の原動力にする ——。それがリモートワークの利点のはず。

ところが日本では、そのような利点を殺しかねない企業があるという。なぜ、不幸が生まれるのか。リモートワークが機能しない企業の共通点とは。沢渡さんに、これからの時代に求められるマネジメントのあり方を聞いた。

思わず「幼稚園児かよ!」とツッコミたくなる理不尽な上司

沢渡さんは「働く大人にとってみれば、あまりに理不尽な上司や謎ルールの話が聞こえてきます」と語る。

沢渡さんは「働く大人にとってみれば、あまりに理不尽な上司や謎ルールの話が聞こえてきます」と語る。

Zoom画面より

——リモートワークの導入が進み、働き方の多様性が進んだという声を聞く一方で、都市伝説のようなおかしなビジネスマナーが跋扈しているという話を聞きます。沢渡さんも、そういった事例を聞いていますか。

昭和的なアナログ時代に良しとされていたビジネスマナーを、リモートワークの中で引きずっている話を耳にしますね。

例をあげると、以下のようなものがあります。

  • 自分がさみしいから、部下にテレワークをさせない
  • リモートワーク中の社員を細かく監視しないと気が済まない
  • Zoomを使った会議で「役職者を大きく表示できないのか」「上位者より先にログアウトするのは失礼」という声が出る
  • ハンコを傾けて押さないと、役職者が機嫌を損ねる
  • 自分がすっ飛ばされると「聞いてない」と拗ね、物事の進捗や意思決定の足を引っ張る
  • 過去の自慢話や武勇伝を語った挙句、部下をけなす

正直言って「おまえは幼稚園児か!」「中学や高校の部活か!」と思ってしまうような、働く大人にとってみれば、あまりに理不尽な上司や謎ルールの話が聞こえてきます。

—— 都市伝説かと思っていましたが、そのような会社もあるんですね…。そういえば、私も友人から「リモートでもスーツ着用が義務」「自宅作業中、ミュートにしてはいけないと言われた」という話を聞きました。

Slackで複数メンションを付ける時は、職位者順にしなければいけない会社もあるみたいですよ(笑)。

時代錯誤な企業の共通点、それは「統制型」のマネジメントだった

横須賀で船積みを待つ自動車。1980年ごろ。

横須賀で船積みを待つ自動車。1980年ごろ。

Keystone/Getty Images

—— 意味がわからないですね……。そういう時代錯誤な企業って、何か共通する傾向とかあるんですか。

これは事業規模とはあまり関係ないと思います。旧態依然な経営者や企業文化を引きずっているところだと思います。

ただ、一般的な傾向として、製造業型のビジネスモデルや組織体制を持つ企業ほど、一種の文化として根強く残っているなという印象です。

なぜ監視主義のような文化や極端な「年功序列」が起こるのか。それには、「これまでのマネジメント」と「これからのマネジメント」をひも解かなければならないと思います。

こちらの表をご覧ください。

提供:沢渡あまねさん

これまでの日本人の働き方は「統制型」(ピラミッド型)のマネジメントモデルでした。

トップや企画部門が決めたものを、各部門が「上にならえ」のプロセスで、正確に効率よくモノを作っていけば勝てていた。それでモノが売れていた時代でもありました。

—— いわゆる、高度経済成長期の製造業や自動車産業などのイメージですね。

そうですね。「上の言うことが正しい」「この商品を作れば売れる」という経営層の考えのもと、経営層の意思決定を下に伝えるマネジメントモデルでした。

上級管理職から中間管理職、現場の工場長、課長代理、主任、係長……とトップダウンで言われたことを守り、こなすのが大事だった。それで企業はビジネスで勝てたからです。

社員も3年、5年、10年と経験を積み、年功に応じて昇進できました。長時間かけて同じ組織の中で昇進するキャリアモデルが合理的だったわけです。

終身雇用も保障されていた。多少は理不尽な指示や自分の意に沿わない異動や転勤でも、我慢して受け入れれば、60歳まで家族ともども安泰に暮らせましたから。そのあとは年金で悠々自適な生活が保障されていたわけです。

1970年代、東京・新宿駅の通勤ラッシュ。

1970年代、東京・新宿駅の通勤ラッシュ。

Keystone Features/Getty Images

—— いかにも「ザ・昭和の日本の働き方」モデルですね……

まとめると、従来の日本の働き方は2つにまとめられます。

・これまでの日本では「統制型」(ピラミッド型)の社会制度が機能していた。
・「統制型」(ピラミッド型)に従えば、定年後も幸せに暮らせるモデルだった。

だから「言われたことだけやっていればいい」というような働き方が成り立ってきたわけです。

—— ところが、それでは勝てない時代が訪れた。

トヨタもNTTやソフトバンクなど異業種とコラボする時代です。経営者だけでなく、個々のエンジニア、マーケターが社内外を問わずにつながり、ビジネスに対する理解を得て、投資家を募り、それでスケールしていく時代になりつつあります。

コラボレーションからイノベーションを生んでいくような、生産性の高いビジネスモデルが健全に成り立ち得る世の中に変わってきたわけです。

そうすると、統制型の一辺倒ではなく、部分的にオープン型を取り入れていく。あるいは新たな事業を起こすときには、オープン型で始めていかないと勝てない時代になってきたのだと思います。

ピラミッド型のマネジメントは「バグ」を生み出している

OECD加盟諸国の1人当たりGDP (2018年/36カ国比較)

OECD加盟諸国の1人当たりGDP (2018年/36カ国比較)

出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2019」

—— 7月には米電気自動車大手テスラが企業の時価総額でトヨタを抜いて世界首位の自動車メーカーになりました。労働生産性をみれば、OECD加盟国の中で日本は21位と下位です。

従来の日本における年功序列を軸としたマネジメントは、もはや「バグ」とみなされて当然になってきました。

上司から「部下がサボるかもしれないから、テレワークには反対だ」という声があがり、部下から「テレワークを始めたのはいいけれど、上司が細かく監視してきて窮屈だ」といった声が聞こえてくる。

これは、統制型とオープン型の過渡期ゆえの「生みの苦しみ」だと思っています

テレワークのように、オンラインを活用して自分の裁量で仕事をする働き方は、先程の表で見れば「オープン型」に適した働き方なんですね。

しかしながら、これまで「トップダウン型」だった製造業の企業が、いきなりテレワークを導入しても、マネジメントや人事制度は従来の統制型に最適化されたままでは意味がない。

「性悪説」に基づくマネジメントなので、全員が同じように働くことを是としている。そこから逸脱する働き方は悪という考え方で制度が設計されている。管理職のマインドもそうです。

そうなると、「マネジメントは統制型」「働き方はオープン型」と、歪みが発生してしまうんですね。

—— 働き方が次世代にシフトしつつある中、評価や人事制度が旧時代のまま。「ねじれ」が起きている。コロナ禍の働き方改革で、そこが如実に現れてきた。

もちろん統制型の組織でも、時間をかけて部門・職種単位で、マネジメントと働き方も「オープン型」に合わせようとしている会社はありましたし、そういう会社はうまくいっています。

しかしながら問題なのは、今回のコロナ禍でいきなりテレワークをせざる得なくなった会社です。

緊急事態宣言が発令され、「不要不急の外出は控えるように」という要請があったものですから、いきなり働き方だけをオープン型にして、社内のガバナンスは統制型のままだった。そこに混乱の原因があり、混乱するのは当然だとも言えます。

なので、「やはりテレワークはうまくいかない」「サボるかもしれないからテレワークは良くない」とか、性急に結論を出さないでいただきたい。現場を考えて、冷静に今後どんなマネジメントをすれば良いかを判断していただきたいですね。

求められる「信頼関係」と多様性を重んじる姿勢

filadendron/Getty Images

—— 一方で、取材をしていると「テレワークを始めてみたら、意外とうまくいきました」という企業の話も聞きます。その場合、現場の人間と管理職の間に、ある程度の信頼関係の貯金がある場合が多いように感じます。

信頼関係の構築の仕方も「オープン型」は「統制型」とは異なります。

オープン型で信頼関係を構築するために必要なのは2点です。

1つ目は一人ひとりの働き手が「発信・受信しやすい」こと。2つ目は、働き方のビジョンが社内で浸透し、働いているメンバーがその価値に共感していることです。

——「オープン型」の根本にあるのは、「互いの違いを認めよう」「互いの個性を生かそう」という思想ですね。

「私はこういうバックグラウンドで、こういうことができて、これがやりたい」と、自分から発信できる。

そして、他のメンバーの得意分野や苦手分野を把握でき、何を相手に期待してよいかも把握できる。この「発信・受信」のカルチャーがオープン型の肝になります。

オープン型における「信頼関係」とは、基本的にお互いの特性や違いを認識し、それを言語化できているか。それに尽きると思います。

「事務は必ず固定席で」「会議は会議室でのみ」「休憩時間にお菓子を食べてはダメ」という統制型の環境では、イノベーションもコラボレーションも起こりようがない。出社だけして、決まりを守るだけで成果を出さない「仕事ごっこ」をしていては意味がありません。

いまこそ経営者に求められる「ビジョンを示す力」

Richard Drury/Getty Images

—— 横並び主義ではなく、多様性を重んじることが必要とされている

まず経営者は、自社のビジョン・ミッションをしっかり固めること。そして、社内に向けて「どこに向かっていきたいのか」を、明確に発信していく必要があると思います。

自社の問題点や課題感を明確にせず突っ走っても、下は迷走して当然です。

働く人がプロとして互いの違いを認め合い、仕事に活かす。それを組織としてパフォーマンスに結びつける。

そのためにも「自分たちの会社はどこを向いているのか」「どういうお客さんを大切にするのか」「どういう価値を出していきたいのか」といったところを言語化し、社内に浸透させる必要があります。

—— そうしないと、社内外で立場が違う人同士でのコラボレーションも難しい。

働き方にも、社内で多様性を確保する必要があると思います。

特に古くからの製造業で多いのが、「製造現場の人が出社して頑張っているんだから、オフィス部門の人たちも出社しよう!」「テレワーク?何を甘えているんだ。不公平だろ!みんな出社するんだ!」みたいな議論がいまだにはびこっているんですね。

でも、製造業でもマーケティング、製造現場、企画、経理で最適な働き方は違って当然です。多様性を活かしつつ、組織としては同じ方向、一体感を保つ必要がある。

そのためには、やはり会社のビジョンや価値観の共有をしつつ、職種ごとに働き方に差をつけることをトップが認めなければいけない。

ここを乗り越えないと、いつまでたってもトップの言うことしか聞かない人たちしか生まれません。そこから先の進化はない。ここが大きな分岐点かなと思っています。

自分が「ヤバい中間管理職」にならないために…

id-work/Getty Images

—— 現場の中間管理職にも、その意識は必要になる気がします。会社によっては、トップが会社が働き方を推進しようとしていても、裁量を与えられた現場の責任者が「テレワークを認めない」という例があると聞きます

今までのトップダウン型のやり方に最適化されてしまった人は、それ以外なかなか考えられないという弊害があるんですよね。

現場のマネジャーの意識が変わらなくてオープン型にシフトできない……というのはよくある話です。「やはり顔が見えないと不安だよね。僕は嫌だね」と言って、「うちの部署はテレワーク認めない」例がみられます。

—— そういった弊害にはまらないようにするためには、どんな取り組みが効果的ですか

1つは、外部の職種ごとのコミュニティへの参加が役立つと思います。例えば広報の人だったら、他の企業の広報部門の人同士の横のつながりをつくることです。

そこで「広報にとっての“勝ちパターン”って、どういう働き方なのか」を言語化し、部分的に取り入れてトライしながら成功パターンを試行錯誤し、社内を変えていく……というやり方が1つです。これは他の職種でも応用できます。

2つ目は、会社にとってアウェーな人材、異質な人材を現場に取り入れることです。

例えば、他社からの転職者や外部のビジネスパートナーなど、バックグランドもジェンダーも働き方も異なる人を巻き込んでいく。

「ダイバーシティ&インクルージョン」の視点がないと、これからの日本企業は勝ち残っていけないのかなと思います。

—— いずれにせよ、会社やチームごとで適切な働き方、マネジメントの形を常に模索し続けていくことが大切ですね。

幸か不幸か、過去30〜40年の日本は製造業型のモデルでビジネスを勝ってきました。マネジメントも企業風土も人事制度や労務制度も、労働法制もすべて統制型に最適化されてしまったわけです。

過去に培ったものはリスペクトしつつ、変えるべきものは変えていく。オープン型にも適応するマネジメントを進めなければ、世界に競り負けて当然かなと思います

今回、日本の組織の幼稚性をテーマに「幼稚園児ですか?高校生ですか?」みたいな話をしましたが、最後にお詫びを申し上げたいと思います。最近の幼稚園児や中学・高校生は、よっぽど今の社会人より大人です。

「多様性を受け入れる」「異質なものを排除しない」という点では、今の幼稚園児や中学・高校生の方がよっぽど進んでいるように思えます。従って、日本のイケてない組織に対して“幼稚園児かよ”みたいな発言は、幼稚園児に失礼でした。ごめんなさい……。

(取材・構成・文:吉川慧


沢渡あまね(さわたりあまね):1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)、株式会社NOKIOO顧問(兼エンジニアリングマネージャ)、株式会社なないろのはな取締役、株式会社エイトレッドフェロー。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。
日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報。300以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。著書に『仕事ごっこ』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『ドラクエに学ぶチームマネジメント』(C&R研究所)など。趣味はダムめぐり。

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