「日本はラッキーな市場」巨大ホテルチェーン・ヒルトンがコロナ禍を勝ち抜く方法

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ヒルトンの日本・韓国・ミクロネシア地区の運営最高責任者、ティモシー・E・ソーパー氏。

撮影:横山耕太郎

世界118カ国で6100軒以上のホテルを経営するヒルトン。国内でも東京や大阪、沖縄などに17軒のホテルを展開している。

2019年に創業100年を迎えた世界有数の巨大チェーンだが、ホテル産業の例に漏れず、新型コロナウイルスにより深刻な影響をこうむっている。

2020年第1四半期(1~3月)の純利益は1800万ドル(約19億8000万円)で、前年同期の1億5900万ドル(約174億9000万円)から大きく減少した。

4月以降、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、第2四半期にはさらに大きな打撃を受けることが予想されている。

日本・韓国・ミクロネシア地区の運営最高責任者であるティモシー・E・ソーパー氏は、Business Insider Japanの取材に対し、「値下げは持続可能ビジネスにならない」と、宿泊料の値下げは行わない方針を明言。

「安全性の低いホテルにはいかないお客様もいる」と指摘し、徹底した安全性のアピールを行う姿勢を示した。

日本は「ラッキーな市場」

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東京都新宿区のヒルトン東京。「ステイケーション」としての利用が期待されている。

Shutterstock

ソーパー氏は日本の現状について、次のように話す。

「2月以降、日本のホテルの多くが閉鎖を迫られ、国内のヒルトンも例外ではありませんでした。東京ディズニーランドに隣接した東京ベイや、沖縄のホテルなど計6軒が休業し、非常に大きな影響を受けました」

一方で、他国に比べて日本は「ラッキーな市場」とも指摘する。

「例えば、香港やシンガポールはほとんど国内需要がないため、日本とは状況が違います。モルディブなども宿泊需要のほとんどをヨーロッパからの旅行者が占めていて、さらに厳しい状況です。

その点、日本やその他の一部の市場では、国内需要が盛り返してきています」

ソーパー氏が期待しているのは、遠出せず、家の近くで長期休暇のような体験をする「ステイケーション」としてのホテル利用だ。

「これからホリデーシーズンですが、今は海外旅行に行けない状況です。そこで東京にいる人が東京のホテルに、大阪の人が大阪のホテルに泊まるような需要が出てきています」

徹底的に消毒、シールが安全の証

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ヒルトンの世界基準に基づき、入念な消毒作業が行われていた。ヒルトン東京で撮影。

撮影:横山耕太郎

こうした需要を取り込むためには、衛生対策が最重要課題になる。

「東京などで感染拡大が進んでいるのは残念なことですが、ヒルトンの衛生基準は、コロナウイルスを防ぐのに必要な水準に達しています。ゲストには安心して滞在を楽しんでもらいたい」(ロジャー・ブランツマ氏/ヒルトン東京総支配人)

ヒルトンでは6月、全世界のヒルトンで共通の衛生基準となる「ヒルトン・クリーンステイ」の導入を発表した。日本にあるヒルトンホテルも順次、この基準を導入している。

同基準はアメリカを代表する医療機関「メイヨー・クリニック」などと連携して制定。

ヒルトン東京(新宿区)によると、これまで1部屋の清掃にかかっていた時間は約45分だったが、加えて消毒に15分の時間をかけているという。

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清掃と消毒を終えた客室には、外側からシールを貼り、清掃後に誰も部屋に入っていないことを示している。

撮影:横山耕太郎

消毒する場所はマニュアルで細かく定めている。テーブルや机はもちろん、シャワーの蛇口や石けん置きまで細部にわたり、リモコンには消毒後に「清掃済み」と書かれたシールを張りつける。

客室の清掃・消毒後には、ドアに外側から「ヒルトン・クリーンステイ」と書かれたシールを貼り、宿泊客が部屋に入るまで他に誰も入っていないことを明示するという。

インバウンドは期待できず

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ソーパー氏は「ヒルトンの宿泊者は、必ずしもインバウンドの宿泊客が多いわけではない」と説明する。

撮影:横山耕太郎

国内需要は回復しつつあるものの、インバウンド需要は依然厳しい状況が続いている。

日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2019年4月の訪日観光客は292万6685人だったのに対し、2020年4月は2917人。2019年は1カ月平均でおよそ250万人の外国人が訪れていたが、2020年2月以降に激減。前年比99.9%減が続く。

「ヒルトンは外国人観光客が多いと思われがちですが、ホテルによって現状は異なります。例えば神奈川県小田原市のホテルは9割以上が国内客。季節や曜日によって異なりますが、ヒルトン東京(新宿区)では、国内客の割合が高い時には約75%を占めます。



現在は、休業中だったホテルもすべて再開し、沖縄や小田原のホテルでは徐々に需要が回復していますし、これからのホリデーシーズンもさらに需要があると感じています。

もちろん以前のような水準まで回復するには時間がかかります。実際に、出張などビジネス需要はかなり低い状況が続いています」

沖縄に新ホテル開業「大きな自信」

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コロナの影響が続く2020年7月、沖縄・瀬底島にオープンした新ホテル。

提供:ヒルトン

ヒルトンは2020年7月1日、沖縄・瀬底島に地上9階建ての「ヒルトン沖縄瀬底リゾート」を開業させた。

コロナショック真っただ中での開業になったが、ソーパー氏は強気な姿勢を崩さない。

「計画が始まったのは3年前で、『2020年の7月1日の開業を止めるものは何もないだろう』ということを申し上げており、コロナもその例外ではありませんでした。



もちろん客足は以前よりも限定的ですが、素晴らしいロケーションに新しいホテルを開業できたことに、私たちは大きな自信と誇りを持っています」

しかし、現実に目を向ければ、沖縄県の観光客は激減して回復のメドが立っていない。

沖縄県の発表によると、2020年5月に県内を訪れた入域観光客数は4万4000人。2019年5月は56万6500人だったので、92%の減少だ。2020年5月の外国人観光客は0人で、今後も厳しい運営を迫られそうだ。

レストラン需要は高まり

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ヒルトン東京で行われているデザートフェアでは、共用のトングは使わず、小分けにしてデザートを提供している。

撮影:横山耕太郎

宿泊客が減少している中、ソーパー氏が期待しているのがレストラン事業だ。

「多くの人が外食したいと考えるようになってきました。まだまだ大きな会議や会食などはありませんが、家族や友人とともにレストランを利用するケースが増えており、かなり需要が高まっています」

ヒルトンが開催しているデザートフェア「マリー・アントワネット スイーツ・オートクチュール」(7月1日~9月30日)では、従来のビュッフェのように、来場客が共用のトングを握ることがないよう徹底されている。

それぞれのデザートは小皿に盛られているほか、デザートを運ぶワゴンが巡回することで、客同士の接触を減らしている。

予約制で入場人数を制限し、「ソーシャルディスタンス係」を設け、客同士が接近しすぎないように目を光らせている。

ヒルトン東京によると、予約は満席に近い状況が続いている。

値引きは「持続可能なビジネスにならない」

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ヒルトン東京総支配人のロジャー・ブランツマ氏は「ホテル内はお客様に安心して滞在してもらえるよう、徹底した対策を行っている」と胸を張る。

撮影:横山耕太郎

ホテルチェーンの中には、大幅な値下げによって国内旅行客を確保する動きも出ている。

ヒルトン東京の宿泊費は、ツイン1部屋の宿泊料金が約2万5000円(朝食付きプラン)から。

シーズンにより高額になることもあり、宿泊料金はビジネスホテルなどと比べると高めの設定だ。

「私たちが提供するプロダクトは、非常に価値があるものだと思っています。厳しい衛生基準を定め、徹底した従業員のトレーニングを行うことで、お客様の安心感につながると期待しています。

50%割引にすれば、客室は埋まるかもしれませんが、持続可能なビジネスにはなりません」

厳しい衛生基準を打ち出し、より高い安全性をうたうことで差別化を図る狙いがある。

「実際にコロナが怖いとか、安全性が心配とか、子供たちが心配だという方は、もし宿泊料が半額になったとしても、安全性が低いと思うホテルには行かないと思います。

市場が望むものを提供することが重要なのです」

コロナショックをどう乗り切るのか。巨大チェーンの「徹底消毒」アピール戦略の真価が問われるのはこれからだ。

(文・横山耕太郎)

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