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【独占】クックパッド国内トップに29歳を抜擢、レシピの先の勝算シナリオ

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クックパッドJapan CEOに、9月1日付で就任する執行役の福崎康平氏。日本部門は29歳のリーダーが率いることになる。

撮影:今村拓馬

クックパッドは7月28日、日本事業の総責任者として新たに設けるJapan CEOに、執行役の福崎康平氏(29)が9月1日付で就任することを明らかにした。

社長の岩田林平氏は代表執行役President&CEOとして、日本事業を含むグローバル全体を統括。その下で、収益の9割以上を稼ぎ出す国内部門を福崎氏がみることになる。

クックパッドは、2013年には海外進出を果たし、すでに74カ国地域・32言語で、海外だけで約4180万人(2019年12月時点)のユーザーを有する。とはいえ海外での有料化はこれからで、稼ぎ頭の国内に責任者を立てることで、代表権をもつ岩田氏が、グローバル展開を加速させる狙いがある

インターネット黎明期の1997年設立のクックパッドは、20年以上の歴史をもち、海外での本格的な勝負に出ている有力IT企業だ。2016年には創業者の佐野陽光氏と当時の経営陣の方針の違いをめぐる対立でも注目を集め、その後は株価の低迷、上場以来初の赤字転落(2019年度)と、厳しい岐路に立たされている。

経営陣に若手を起用し、新たな体制が目指すところとは。「料理のポテンシャルを誰よりも信じている」と話す新CEOの福崎氏に、Business Insider Japanは独占インタビューした。

佐野氏、岩田氏と「考えていることは一緒」

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創業者の佐野氏、代表執行役の岩田氏とは、Zoomで日英をつないでミーティングを重ねているという。

「任せるよ、と言われたのはごく最近です。詳しい時期は言えませんが、想像されている以上に(クックパッドにおいて)ものごとは早く動いています。とにかくスピーディーに変える、遅いのはダメ。レシピサービスの会社を脱却する新たなことができていないのでは? とも言われますが、簡単なことであればすぐできる。しかし、もっと大きなことをしようとしています」

新たにクックパッドの日本の総責任者に就任する福崎氏を、東京・恵比寿の本社に訪ねたのは7月中旬のこと。

29歳にして収益の柱である日本のトップに就任することについて、創業者の佐野陽光氏、代表執行役の岩田氏から、どんな話があったのかを尋ねると、福崎氏はそう答えた。

佐野氏、岩田氏共に、現在はイギリスに拠点を置いており、両氏と福崎氏とのやりとりは、日英を繋ぐZoom上で行われているという。

グローバルヘッドクォーター(本社)をイギリスのブリストルに構えていることからも、クックパッドが海外展開に相当の注力をしていることは明らかだ。

「本質的に考えていることは一緒です。僕も、佐野も、岩田も、料理の可能性を信じている。クックパッドはレシピ本の代替でしょ? レシピ本の市場が1000億円として110億円の売り上げがあるならいい方だね、と考える人がいたら、それは違う。

レシピは一つの手法でしかなく、本来は食べることとの向き合い方、食品の流通、キッチンをはじめそこにまつわる住居や不動産、家族とのコミュニケーションも含め、全て料理です

福崎氏が率いる日本部門が目指すのは、レシピ検索大手にとどまらず、「毎日の料理を楽しみにする」と掲げたミッションを実現すること。具体的には、あらゆる「料理」にまつわるサービスを内包する、プラットフォームを作り上げることだ。

自律分散型のプラットフォームという強さ

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「料理を楽しみに」の元に作り上げられた、自律分散型のコミュニティの集まりがクックパッドの強さだと、福崎氏は語る。

たしかに、足元の経営環境は数字だけを見れば、厳しい局面ではある。2019年12月期の通期決算は、海外事業ののれん代や新規事業投資を理由に、上場以来初の最終赤字9億6800万円を計上したのも記憶に新しい同社は最終赤字の背景を「投資期間」と位置付けるが、その成果は未知数でもある。

2016年の創業者で筆頭株主の佐野氏と、当時の経営者だった穐田(あきた)誉輝氏との経営方針をめぐる「お家騒動」を経て、最盛期で3000円近かった株価が、現在は300円台に沈んでいるのも事実だ

しかし福崎氏は、クックパッドが築いてきた強固な基盤をベースに、次のステージへと飛躍することに、自信を見せる。

「美味しいものを手頃な価格で……というサービスは世の中にたくさんあるが、料理を『楽しみ』にしている会社は少ない。クックパッドに来れば楽しみがある、料理からもらった楽しさを共有したい。

そうやってユーザーが作り上げてきたコミュニティが、インターネット的な自律分散型の、強いプラットフォームになっている。それこそがクックパッドの本質的な強さです

インターネット検索エンジンが普及する1990年代から2000年代にかけて、クックパッドはレシピ検索サービスとして知名度、普及率共に国内有数の基盤を築いてきた。

国内5251万人(2019年度)の月間アクティブユーザーを有し、プレミアム会員と呼ばれる有料会員は198万人、手元のキャッシュは223億円(2020年度第1四半期)。

「脱・レシピの会社」を実現し、次のジャンプアップを行うにあたり、こうした顧客・財務基盤が、大きなアドバンテージであることは間違いない。それは駆け出しのスタートアップとは比べるべくもないだろう。

「みんなゼロイチばかりに注目しがちですが、世の中で本当に多くの人に使ってもらうサービスにするには、ゼロイチから検索レシピの一大プラットフォームを築いた、その後のジャンプが必要です。スタートアップにはできないことを僕らはやります」

レシピ外サービス立ち上げに注力

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福崎氏は入社後、生鮮食品のECサービス「クックパッドマート」事業の責任者を務めてきた。マートステーションに設置される、スマホで注文した食品の受け取り用のボックス。

では、ここからのクックパッドが目指すかたちはどうなっていくのだろうか。

それには、日本のトップに立つ福崎氏が、2018年のクックパッド入社以来、何を担ってきたかを見ると分かりやすい。

福崎氏はもともと、クックパッドが買収したコーチ・ユナイテッドで、プライベートコーチと受講者をマッチングする習い事のプラットフォーム「サイタ」を運営。

同社のクックパッド傘下入りで、サイタ自体は売却されるが、福崎氏自身は「料理事業に集中したプラットフォームの開発に注力する」という、クックパッドへの入社を決めた。

慶應義塾大学在学中にも、被災者と住居提供者を結ぶマッチングサービスを立ち上げ、メディアや国からも注目されるなど、CtoCのプラットフォームの構築には土地勘もあった。

祖父母は漁業と農業を家業とする環境で育ち、学生時代は35カ国を料理して回る旅に出るなど、料理への思い入れが人一倍強いことも大きかったという。

入社後、福崎氏は、生鮮食品のECサービス「クックパッドマート」事業の責任者として、生産者と消費者をつなぐサービスの立ち上げに注力する。

物流コストを抑えた「置き配」スタイルを特徴に展開し、「マートステーション」と呼ばれる置き配拠点は、コンビニやドラッグストアなど、2020年中に年初比で10倍に当たる数百カ所に拡大する計画が進行中

「脱レシピ検索の会社」を体現する事業として象徴的だ。

つくり手のためのインフラを増やす

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レシピ検索大手としての確固たる地位を築いてきたクックパッド。つくり手に向けたインフラサービスの拡大は今後のカギとなる(撮影は2月14日の前回インタビュー)。

さらに、レシピユーザーだけでなく、福崎氏が「つくり手」と呼ぶ、生産者や料理事業者向けのサービスをプラットフォーム上に増やすことも重点施策だ。

「コロナの自粛期間で感じたことでもありますが、生産者、卸売、生肉、飲食店、そういった人たちへのアプローチが、クックパッドとしてまだ力不足。仕事として料理に関わる人たちが出品できるマート、創作意欲を発揮できるツールを開発しています。


コンテンツや知識を共有するコミュニケーションツールに使ってもらうなど、(レシピユーザーだけでなく)つくり手のためのインフラを増やしたい

実際、コロナ期間中は、飲食店・総菜店向けに、初期費用や固定費無料で商品を販売できる「非対面テイクアウト/宅配システム」(4月末)の提供をスタート。

クックパッドマートで生鮮食品の受け取り拠点としてきた「マートステーション」を、飲食事業者も使えるようにした。延期になった食イベントのオンライン開催のサポートも行うなど、明確にBtoB(法人)向けのサービスに力を入れている。

「毎日の料理のマンネリを解消したり、流通の仕組みの改善だったり、飲食店の支援だったり。とにかく料理に対して前向きになるためには、どこかで必ずクックパッドが関わっていることが大事。

クックパッドというプラットフォームにレシピユーザーもいるし、つくり手もいる。

そうした、一種カオスの生態系をクックパッドで包み込む技術が必要だと考えています」

レシピ検索サービスから「毎日の料理を楽しみにする」多様なサービスを内包するプラットフォームへ。

レシピの有料会員事業と、トランザクション(商取引)事業の2軸を打ち立て、会員費に加えて出品者の手数料や広告クライアント獲得で、収益の柱を育てていくイメージが見えてくる

何があってもクックパッドがあれば大丈夫

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料理は、音楽や絵画同様「クリエイティビティを発揮するツールであると、コロナで見直された」と福崎氏。

前回、福崎氏を訪ねたのは2020年2月初頭。その後、新型コロナの世界的な感染拡大で、クックパッドを取り巻く環境も大きく変わった。

「具体的には公開していませんが、数字的な(ポジティブな)インパクトは(クックパッド上に)出ました。(料理に関心をもつ人が増えたことで)自粛期間にクックパッドにできることはたくさんあり、むしろ忙しかった。

料理は誰にでも解放されているクリエイティビティツール。自分のためだけでなく誰かのためになる。それは音楽や絵画といった芸術と同じ。コロナをきっかけに、多くの人がそれに気づいたと思います」

そして、コロナのような危機はいつでも起こりうると、福崎氏は考える。

「コロナのようなことが起こると、日々のルーティーンがぶった切れられて、思考停止に陥りがちです。けれど、日本は特にコロナに限らず、地震や水害など災害は毎年のように起きています。常に何かは起きるという前提で、社会は再設計される必要がある。そうして、世の中に何かあっても、クックパッドがあれば大丈夫。そう思ってもらえるプラットフォームでありたいのです」

次のステージへの視界は福崎氏にとって明瞭だ。

若手リーダーを起用した組織変革で、それがどう具現化されていくのか。真価が問われるのはここからだ。

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬、取材協力・臼井拓水)


福崎康平:大学在学中に、東日本大震災の被災者に在宅を無償貸与できる「roomdonor.jp」を立ち上げ、メディアや政府関係者からも注目を集める。在学中に35カ国をまわり、料理を振る舞う旅を実施。2014年コーチ・ユナイテッド入社。先生と生徒のマッチングサービス「cyta.jp」を運営。2016年2月同社代表取締役。2018年1月クックパッド入社。買物事業部部長、執行役を経て2020年9月に、日本事業の総責任者であるJapanCEO就任。

編集部より:初出時、プロフィール上でJapanCEO就任を2020年1月としておりましたが、正しくは本文の通り2020年9月です。お詫びして訂正致します。 2020年7月28日 12:55
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