Ascannio / Shutterstock.com
- インテルの主力製品の生産遅延によって、同社の株価は7月23日、16%超急落した。半導体業界におけるインテルの支配的地位が明らかに揺らいでいる。
- AMDやエヌビディア、さらにはArmとの競争が激化している。Armはモバイル市場でインテルを上回る成長を遂げ、サーバー市場でも勢いを増している半導体設計製造企業だ。
- バーンスタインのアナリストはクライアント向けレポートの中で、「インテルの取材を始めて以来、最悪の事態だ。同社の構造的問題を長年指摘してきたが、今回まさにそれが表面化した」と記している。
インテルは7月23日、高度な製造プロセスに移行する過程で発生した問題に起因する次世代プロセッサーの生産遅延を発表した。この発表を受け、同社の株価は7月23日から24日にかけて16%超急落した。
インテルによるこの驚きの発表によって、半導体業界に起きつつある大きな変化が明らかになった。すなわち、インテルの支配的地位がAMD、エヌビディア(Nvidia)、Armといった競合他社に脅かされているという変化だ。
インテルは過去半世紀にわたり、卓越した設計・製造技術をもって半導体市場を支配してきた。しかし今や業界最大手の凋落傾向が見て取れる、と複数のアナリストが指摘している。
金融調査大手バーンスタイン・リサーチのアナリストであるステイシー・ラスゴン(Stacy Rasgon)はクライアント向けレポートの中で、「インテルの取材を始めて以来、最悪の事態だ。同社の構造的問題を長年指摘してきたが、今回まさにそれが表面化した」と述べている。
また、今回の生産遅延問題は「インテルが打ち出す前向きな取り組みすべてに影を投げかける一方、好ましくない事象については問題を増幅させる。インテルは自ら掘った穴から抜け出すために、この存亡の危機に対処する必要がある」と述べている。
実際、今回の一件はインテルが市場の予想を上回って好調だった第2四半期にも影を落とした。
投資銀行レイモンド・ジェームズのアナリスト、クリス・カソ(Chris Caso)は、インテルの生産遅延を「爆弾ニュース」と呼び、「50年にわたる競争優位の源泉を失いかねない」事態としている。
インテルの優位性に黄色信号
インテルを率いるロバート・スワンCEO。
Amir Cohen / REUTERS
インテルによると、今回の問題は7ナノメートル(nm)プロセスと呼ばれる線幅別半導体製造技術に関するものだ。
インテルには小型・低価格プロセッサーの生産をリードしてきた歴史があり、同社共同創業者ゴードン・ムーアの名前にちなんだ「ムーアの法則(回路上のトランジスタ集積密度が2年でほぼ2倍になるという経験則)」の牽引役としても知られている。半導体メーカーはこの法則に沿ってプロセッサーの小型化、強力化、低価格化を進めてきた。
しかし今、その優位性が揺らぎ始めている。
そもそもインテルは10nmプロセスへの移行において問題に直面していた。一方ライバルのAMDは、7nmプロセスへ移行する時点でインテルに勝っている。
インテルがつまずいたことで、AMDはPC・サーバー用チップの市場シェアを大きく奪うと見られており、AMDの株価は7月24日に15%近く高騰した。
PC市場の成長が鈍化するなか、主戦場はサーバー用チップとなっている。特にアマゾン、マイクロソフト、グーグルらクラウド大手は、データセンターの容量を拡張しようと画策中だ。
AMDはインテルの牙城を徐々に切り崩してきた。それが明らかになったのは2019年、グーグルが自社データセンターにAMDの新サーバー用チップ「EPYC」も採用すると発表した時のことだ。これにより、クラウド・プラットフォーム大手3社がAMDのチップを採用することになる。
ASUSのサーバーに搭載されたAMDの「EPYC」。
Grzegorz Czapski / Shutterstock.com
エンドポイント・テクノロジーズ・アソシエイツのアナリストであるロジャー・ケイ(Roger Kay)はBusiness Insiderの取材に対し、「インテルは今でも王者だ。しかし、AMDが競争力のある製品によって市場全体でシェアを伸ばしつつある」と語った。
インテルを狙うライバルたち
インテルは、競合他社からの激しい挑戦に直面している。
ソフトバンクの子会社で半導体設計会社のArmは、携帯電話などモバイル機器に広く使われる高電力効率アーキテクチャにより、モバイル用半導体市場でインテルの成長率を上回っている。
2020年6月、アップルはMacコンピュータ用チップについて脱インテル化を発表。Armは大きな勝利を収めることとなった。Arm製サーバーチップは、アマゾン、マイクロソフト、グーグルといった巨大クラウド・プラットフォームを含むデータセンター市場においても、インテルの支配的地位を揺るがし始めている。
報道によると、ソフトバンクは、Armを上場させるか売却するかを検討中で、後者の場合の売却先候補はエヌビディアだという。
エヌビディアを共同設立したジェン・スン・ファンCEO兼社長。
Ethan Miller / Getty Images
グラフィック・チップ大手のエヌビディアは、インテルにとってもうひとつの頭痛の種だ。
AI、特にいわゆる深層学習の伸長によって、これまで以上に大量計算処理能力を持つ強力なチップの需要が高まっている。ゲームや人気映画用ハイエンドグラフィックスに使用されるエヌビディアのグラフィック・プロセッサーは、急成長中の市場においてインテルを上回っている。
さらにエヌビディアは、クラウド市場とサーバー市場においても最強プレーヤーとなった。7月前半、エヌビディアは時価総額でインテルを抜き、今やアメリカ最大の半導体メーカーだ。
「率直に言って、数字以前の問題だ」
7月23日、アナリストとの電話取材に応じたインテルは、第2四半期が堅調であることはアナリストたちも認めるところだと強調し、「たしかに本年は多くの面で非常に困難な1年」だが、「2020年末までには当社の競争力は高まるだろう」と述べた。
前述のラスゴンは、インテルの長期的な問題が決算報告に影を投げかけているとして、次のように記している。
「率直に言って、数字以前の問題だ。インテルは問題を特定しているというが、生産遅延という事態の大きさから鑑みて、速やかな解決はなさそうだ」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)