LINEの取締役 CSMOを務める舛田淳氏は、新型コロナウイルス感染症拡大前後のLINEのビジネスについて語った。
撮影:林佑樹
「“岩盤規制”と言われていたオンライン診療が、ここに来て進み始めてきた」
日本最大級のコミュニケーションアプリLINEの取締役 CSMOを務める舛田淳氏は、このコロナ禍で起こり始めている“変革”の1つに医療をあげた。
多忙な合間をぬってのインタビューとなった取材当日は、LINEがコロナ禍に対応する中で新たにオープンさせた四谷オフィスへの引越し日。舛田氏にとっても新オフィス初の取材となり、心なしか新たなことへ向かう前向きなムードを感じた。
LINEの4月28日時点の国内月間アクティブユーザー数は約8400万人。日本人口の6割強が使うプラットフォームで、コロナ前後に何が起きていたのか……筆者の質問に、舛田氏は語り始めた。
コロナ禍で活性化したものと落ち込んだもの
LINEグループ通話の回数は急増している。
出典:LINE
臨時休校や自粛要請などが加速した2020年3月と、その直前の2月のLINE利用動向を比べると、グループトーク内のコンテンツ総送受信回数は約29%増の約48億4800万回、グループ通話利用回数は約62%増の約1220万回と、とくに複数人のコミュニケーションで非常に大きな伸びを見せた。
それに伴い、LINE内のコンテンツの利用も増加。例えば「LINE NEWS」は4月に月間約165億PV 、月間アクティブユーザー数は7500万人超といずれも過去最高を記録した。
グループ通話にはフィルターやバーチャル背景などの機能が盛り込まれている(2020年3月撮影)。
撮影:小林優多郎
この期間、LINEはビデオ通話機能の参加人数の拡張やフィルターの追加、YouTubeなどを通話者同士で一緒に見る機能などのアップデートを実施。舛田氏は「平時でも緊急時でも、LINEがあれば大丈夫だと感じていただきたいと思っているが、実際にできたのではないか」と自信を語る。
一方で、ネガティブな面も当然発生していた。代表的なものがOMO事業(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)だ。
LINEは2019年の事業戦略説明会でOMO事業に注力していく旨を発表。しかし、コロナ禍で外出自粛が進むとともに、大規模イベントなどの開催は激減し、実店舗への送客を促す「SHOPPING GO」のような事業やエンターテインメント事業の「LINEチケット」などの利用機会(=そこから得られる収益)も失われた。
コロナ禍前に進めてきた事業が「ここにきて機能し始めた」
DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいるのではないかと話す舛田氏。
撮影:林佑樹
舛田氏は「総論で言うと、我々が目指す“Life on LINE”※は1歩も2歩も進んだのではないか」と考察する。
※Life on LINEとは:
LINEが2019年6月に提唱したビジョン。24時間365日、LINEがユーザーの生活をサポートするという理念。
「いろいろな局面のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み始めた。(コロナ禍前のように)普通にやっていたら何年もかかっていたものが、ある種の必要に迫られてニーズが表面化してきた。そのおかげで、我々が進めてきたものが、『やっぱり必要だよね』という形になってきた」(舛田氏)
3月にLINEは出前館への出資を発表した。
撮影:小林優多郎
その最もわかりやすい例は、3月27日に発表した日本最大級のフードデリバリーサービス「出前館」との資本業務提携だ。ステイホームが叫ばれる中で、デリバリーサービスとの関係構築は非常にタイムリーだった。
LINEと関係各社による出前館への出資額は合計300億円。コロナ禍前から準備を進めてきた提携で、「我々として(フードデリバリー業界に)どう踏み込んでいくのか、検討と交渉の末に決断したのがあのタイミングだった」と、舛田氏はあくまでも時期は偶然と語った。
スマホひとつでチケットの購入から受取、使用ができるLINEチケット。当然、ユーザーのLINEアカウントと紐付いている(写真のチケットは2019年10月実施のもの)。
撮影:小林優多郎
また、前述のLINEチケットにおいても、コロナ前からウィズコロナ(=新型コロナウイルスとの共生)時代を見据え、購入者・来場者を把握し、連絡をとる機能が備わっている。
こうした新機能はどれも便利だが、ビフォーコロナでは「新しいけど、ピンと来ない」といった感じで、どちらかと言えば新しいもの好きのユーザー向けだった。だが、アフターコロナ・ウィズコロナ時代では強い武器になる。
「デジタルにこだわり、フィジカルではできなかったこと、デジタルでもっとよくなることにずっと取り組んできたが、ここにきてようやく機能し始めた」(舛田氏)
オンライン診療提供は「年内の早いうちに」
現在は無料で健康相談ができるLINEヘルスケア。
撮影:小林優多郎
LINEはほかにもウィズコロナ時代の新しい取り組みをスタートさせている。その1つが、冒頭で触れた「オンライン診療」だ
LINEは2019年1月に医療系プラットフォーマーのエムスリーと「LINEヘルスケア」を設立。2019年12月にベータ版、2020年4月には正式版として医師と1on1で健康相談できるサービスを開始した。その間、2月に無料相談の受け付けを開始し、3月には経済産業省の支援も得て、現在も継続している。
「“岩盤規制”と言われていたオンライン診療が、ここに来て進み始めてきた。今回のようなパンデミックが起こるとはさすがに思っていなかったものの、もともとオンラインでの診療は大事だからまずは相談から、と始めたことが、本当に必要なときに提供できてよかった。
興味深かったのは、病院に行けない状況下ゆえに、コロナ以外のご相談も増えてきていて、オンラインならではの価値を提供できていること。オンライン相談に慣れ、文化をつくりながら、年内の早いうちにオンライン診療を提供できるよう開発を進めている」(舛田氏)
NAVER Japan時代から「目指すものは変わらない」と話す舛田氏。
撮影:林佑樹
オンライン診療のような、専門家とユーザーをつなぐ試みは、「検索」つまりは情報をまとめ、届ける分野で、舛田氏がNAVER Japan時代から長く取り組んできたことだ。
折しも7月初旬、ユーザー作成型の情報サービスの草分けである「NAVERまとめ」が9月末で終了と発表された。舛田氏はNAVERまとめを振り返りつつ、今後のLINEの行く末を「やりたいことはずっと変わっていない」と語っている。
「私は途中からLINEに専念したが、NAVERまとめのチームはずっと支え続けてくれた。やろうとしてきたことはブレていない。
システムだけではダメで、ユーザー同士のつながりや知識が反映されるべき。世界は多義的で、問いに対して答えは1つではない。システムやAIで解決しようとしている部分はあるが、もっとユーザーが参加していくべきだと思う。
NAVERまとめと検索はもともとセットで実現しようとしていた。時代の変化を受けてNAVERまとめはここで終了となるが、昨日の会議で話したことも9年前に話していたこともそんなに変わっていない。(2019年に導入した検索エンジンの)『LINE Search』でやろうとしていることも変わらない」(舛田氏)
今後もさまざまなシチュエーションで使われていくだろうLINEの関連サービス。それによって私たちの生活はどう変わっていくのか、今後も目が離せない。
▽後編「LINE全国調査は『特例中の特例だった』── 舛田淳氏が語るコロナ禍の裏側とその未来」につづく(※有料「Prime」記事となります)