毎日の目標を達成すると“ボーナス”をもらえる「Advent(アドベント)」はコロナの自粛期間に生まれた。
撮影:滝川麻衣子
レシート・画像買い取りアプリ「ONE」で話題を巻き起こしたWED(旧ワンファイナンシャル)が、毎日「自分にボーナス」を受け取れるWebサービス「Advent(アドベント)」を始めた。
「#人生にログインボーナスを」のキャッチコピーの下、毎日達成すべき目標と、達成した時のボーナス額(465円または3100円を選ぶ)を定め、先にアプリ上で課金。達成するたびにボーナスとして課金分が「返金」される仕組みだ。
「毎日30分読書」「毎日早起き」「過去問10問以上とく」など、日々の目標達成をユーザーはサービス上で報告し合い、ボーナスを受け取るとともに「自分を褒める」習慣をつけるサービスとなっている。
「もっとみんな自分を褒めていいと思った」と話すWEDのCEO山内奏人さん。コロナの自粛生活期間中にアドベントを作った背景とは。
コロナで鬱々としがちな人生にボーナスを
コロナで自粛生活が始まって以降「ほとんど外に出ず人にも会わずに仕事をしていた」と話す山内奏人さん。
撮影:滝川麻衣子
「コロナの状況になって、鬱々と過ごしている人も多いだろうし、ずっと家にいて毎日が単調になって(外に通うなどして)自分磨きができない人もいるだろうなと考えました。それでも毎日に何かご褒美があれば、そのために筋トレだったり料理だったり、続けることができるんじゃないかと」
東京・渋谷のカフェにマスク姿で現れた山内さんは、アドベントを思いついた背景をそう振り返る。
コロナで自粛生活が始まってから、15人の社員は完全リモートワークになり、やりとりも全てSlack上で、「ほとんど外に出ず人にも会わずに仕事をしていた」という。
アドベントを思いついたという4月末は、緊急事態宣言で社会が自粛生活の真っ只中にある頃だ。
アドベントは実に不思議なサービスだ。
目標達成に応じて日割りで「ボーナス」がもらえる仕組みとはいえ、最初に課金するのは自分。課金額は、キャンディプラン465円、ドーナツプラン3100円から選ぶことができる。
例えば「毎日、英単語を覚える」が達成できればサービス上で報告し、キャンディプランで15円、ドーナツプランなら100円がアプリ上で「戻ってくる」仕組みだ。
つまり、自分が最初に課金した分以上が「儲かる」ことはない。では、ユーザーは何を買っていることになるのだろう?
「体験、ですね。筋トレなら毎日、小さなニンジンが眼の前に吊り下げられることになるので、続けやすくなるかもしれない。続けることができたらその結果、筋肉ムキムキの身体が手に入ることになります」
小さなご褒美を日々に取り込みながら、何かを頑張る。その体験をウェブ上でつぶやくことで共有する。そして明日また「頑張る」を続ける——。こうしたサイクルを回す体験が、日常にやってくるというわけだ。
「生きているだけでえらい。本当はみんなもっと自分を褒めていいと思うんです」
大人になっても毎日の楽しみがあればいい
アドベント上では、毎日の目標達成を報告する声が飛び交う。
出典:Advent
WEDの「取り分」は、ユーザーが目標を達成できなかった日の分のボーナスと、日数が31日に満たない月の日割り分が手数料として収益になる。
ユーザーががんばれなかった日数分が売り上げではあるが、
「もちろん(ユーザーには)がんばってもらいたいです。また、31日すべて達成できて会社の取り分はゼロだったとしても、そういうユーザーはまた次の目標でアドベントを使ってくれると思うのです」
そんなアドベントの名前には、子どもの頃の記憶が込められている。
「クリスマスまで毎日数えるアドベントカレンダーがすごく好きでした。小学校も行きたくなくて、なかなか行けなかったんですが、担任の先生がスタンプカードを作ってくれて、そのために行くようになった。そういう毎日の楽しみの体験を、大人になってもできたらいいなというのが原点です」
コロナの感染拡大とそれに伴う自粛生活で、思うように外に出たり人と会ったりできずに、2020年は楽しみが少ないと感じる人は少なくない。そんな日々に、小さなご褒美をもたらすサービスを送り出したかたちだ。
厳しい意思決定が続く期間
爆発的に注目を集めたレシート・画像買い取りのONEは軌道に乗り、現在は自社の主力サービスに。
撮影:滝川麻衣子
高校生時代に山内さんがワンファイナンシャルを起業してから4年が過ぎた。爆発的に注目を集めたレシート・画像買い取りのONEを軌道に乗せ、現在は自社の主力サービスに成長させている。2019年末にはワンファインナンシャルをWEDに組織変更し、新サービスも投入した。
しかし、順調に事業を作っているように見えたWEDにも、コロナの影響は大きく及んだ。
新サービスPREMYは、月額3980円で全国の映画館や美術館に行き放題で注目を集めたが、コロナによる行楽施設の閉鎖でサービスは6月24日をもって停止。「外出」を前提とするサービスは見直しを余儀なくされた。
また、組織変更の一環で、金融子会社として設立したQ株式会社は足元の状況を鑑み、別会社としてWED傘下から独立した。
コロナで続いた自粛期間、そしてまた第二波がやってくるなど、取り巻く環境は大きく変わっている。
「オフィスを手放すコストカットだったり、人員体制の見直しだったり、厳しい意思決定をすることが続きました。それで鍛えられた面もあります。
(リモートワークで感じるのは)オンラインでのコミュニケーションはロジカルに話せるし意思決定はできるけど、やわらかいコミュニケーションや優しい世界が、うまく実装できないということ。触覚で感じるコミュニケーションがあるのとないのとでは、圧倒的に違うなと」
山内さんはこの数カ月をそう振り返る。
「ただ、こんな今だからこそ新しいことを世の中に問いたい。センセーショナルなプロダクトを作りたいというのがあって。それをアドベントにぶつけていると思います。ここから育てていけたらと」
コロナで激変する時代に「生きているだけでえらい」を伝える優しいサービスはどう成長していくか。山内さん率いるWEDの、新たなフェーズはすでに始まっている。
(文・滝川麻衣子)