マッキンゼーに聞く「コロナ不況と自動車業界」。“開発投資”はどうなる?(市況・EV編)

街中を走る車

Getty Images/Tomohiro Ohsumi

マッキンゼー・アンド・カンパニー日本法人がコロナ禍の中で「R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代に導く」と題したレポートを発表した。

新型コロナの影響を強く受ける業種は多様だが、2020年度の最終赤字6700億円の業績見通しを公表した日産をはじめとして、日本を代表する産業・自動車セクターへのインパクトは決して小さくない。

自動車業界の今後を左右する研究開発(R&D)にはどの程度の影響があるのか? レポート執筆者の2人のパートナーの見立てはこうだ(取材は7月20日)。

※レポート「R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代に導く」はこちらから

小田原浩氏

小笠原氏

マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー。 自動車セクター、重工業セクターなどに専門的知見をもつ。

アンドレ・ロシャ氏

ロシャ氏

マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー。先端エレクトロニクス、ハイテク、自動車産業などのグローバル企業を支援。


コロナ不況でも自動車メーカーがR&D投資をゆるめない理由

自動車の大群

写真はイメージです。

Getty Images/Justin Sullivan

—— 3月に中国からの輸出が滞ったことで、グローバルなモノの動きがビジネス上のリスクになりうることが顕在化しました。これを踏まえて、自動車業界におけるR&D投資はどう変化するでしょうか

小田原氏:私たちも、いろいろな企業とコロナの影響をふまえたネクストノーマルの議論を続けている。なかでも話題にのぼるのは「CASE」に対する投資だ。トラディショナルな投資、ソフトウェアの投資、EVの投資、水素電池などのほかに、サービス側のテクノロジー投資が必要になる。

※CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字を組み合わせた自動車業界のトレンドワード。

さまざまな自動車メーカーやサプライヤーと話すなかでも、中長期的な計画として、「一切投資をゆるめることはない」という企業がほとんどだ。

背景には、ハードウェアから取れる利益が減り、差別化が難しくなってきていることがある。収益性を上げ、カスタマーに(選ばれるための)価値を提供していくことが求められている。

ブランドとしての特徴をゆるめてしまったプレイヤーはこの先、生き残れない。だから、どの企業も投資を緩める気はない。

そうはいっても、短期的には変化はありうると考えている。自動運転やシェアリングモビリティは物理的な実証実験が不可欠だから、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着かないと、なかなか前に進められない。そのため、そういった投資については先送りにしようという動きはある。

—— R&Dへの投資について、とりわけ投資をゆるめない分野は?

小田原氏:どちらにしてもEVは「待ったなし」だ。

EVは各国の経済政策のなかで重要な位置を占めている。アメリカは政権の方向性次第の部分もあるが、中国やヨーロッパは環境におけるフォーカスを重視している地域。同様に、燃料電池への投資も、短期であってもゆるめる必要はないと考えている企業が大半だ。

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自動車需要におけるEV比率の高い地域別の調査。ノルウェー、アイスランドのEV比率の高さが注目だが、台数規模としては中国の大きさが光る。

出典:マッキンゼーのレポート「McKinsey-Electric-Vehicle-Index」

ただし、難しいのは、今後の自動車市場の先行きだ。

思いとしては「投資をゆるめない」方向性だが、コロナの影響を受けて利益はさらに減少傾向にある。

中国市場はかなり復活してきているが、それでも(2020年末時点では)台数ベースで5〜10%は落ち込むと見ている。ヨーロッパやアメリカは20〜30%減る可能性がある。

これに伴い、(自動車メーカーに部品を納品する)サプライヤーも、利益がほぼゼロに近い水準まで落ち込むところも出てくる。日系企業も苦しんでいるが、特に欧州のOEMは軒並み利益率が低くなっている現状がある。

需要についての不透明さは、(自動車メーカーが)「目標」と発表し、「予想」とは言っていないことからも見て取れる。

国内メーカーにとって、危機は変革の好機

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撮影:今村拓馬

小田原氏:(コロナの影響ははじまったばかりで)この数カ月では大きく数字に現れてはいないが、第1四半期の数字が間もなく各社から出てくる。厳しい状況になっている可能性が高いと予想する。

もちろん、だからといって投資はゆるめられない。

とれる手立てとしては、複数の企業で合従連合していくことだ。同じ技術へ投資するのであれば、複数の企業で協力しようという動きが増えてくるのではないか。

2020年後半に「共同開発」の動きが加速

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写真はイメージです。

Shutterstock

—— 開発体制で企業間連合を組む動きが顕在化するとして、いつごろに?

小田原氏:投資業界関係者と話すなかでも、(彼らも)そのタイミングを見ている。おそらく、2020年度後半にかけて、水面下からそういう話が浮上してくるのではないか。

EVや燃料電池はすでに提携を発表している企業もあるし、データ領域でも異業種提携を発表している例がある。

各社の個性、特徴を保つために「テクノロジーは一緒にやるが、サービスは別々に開発する」といった開発手法になるだろう。一方、(部品や技術を供給する)サプライヤーは、業績の悪いところは持たなくなるところも出てくる。

アンドレ・ロシャ氏:補足すると2つの要因がある。1つは、日本のプレーヤー(メーカー、サプライヤー)にとって、前向きに捉えれば、「どこに投資するか」のより賢い選択ができるようになるということ。

日本の会社は(これまで)エンジニアリングが非常に強かった。(言わば、傾向として)エンジニアがどこに投資するかを決める、テクノロジー主導型だった。

そうしたなかでは、「ユーザーが何を求めているか」の視点(マーケットインの視点)が弱まりがちだ。

日本の企業が(コロナ禍で)大きなステップをとれるとすれば、今あるR&Dの予算をもっと上手く使っていくことだ。

もう1つは体系的なポートフォリオのマネジメントプロセスがある。ファクトベースで、研究開発のポートフォリオを決めなければならない。

(日本企業のなかでの)プロダクトマネージャー/PMの役割をどうするかが重要だ。PMは本来、今後の製品発売に関するビジネスオーナーだ。マーケティング視点、顧客視点で(意思決定し)動いていくということが、日本メーカーの改善点になる。

※後編「マッキンゼーに聞く「自動車のシェアリングが死なない」理由…3年後が読めない時代の危機感 (シェア・製造編)」に続く

(文、聞き手・伊藤有

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