ロシアのカーシェアリングサービスが駐車している風景(写真はイメージです)。
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マッキンゼー・アンド・カンパニー の日本支社がコロナ禍の中で発表した「R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代に導く」と題したレポート。その執筆陣のうちの2人に、自動車メーカーの研究開発投資(R&D)の変化を、シェアリングエコノミー向け開発から、製造工場の「国内回帰」のトレンドまでを聞く(取材は7月20日)。
※前編「マッキンゼーに聞く「コロナ不況」と自動車業界。“開発投資”はどうなる?(市況・EV編)」はこちら
※レポート「R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代に導く」はこちらから
小田原浩氏
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー。 自動車セクター、重工業セクターなどに専門的知見をもつ。
アンドレ・ロシャ氏
「3年後が予想できない時代」の自動車産業の危機感
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—— 日本メーカーのR&D(研究開発)への投資は、増やすべき?
ロシャ氏:日本はすでに、GDP(国内総生産)に対して、かなりR&Dの比率が高い水準にある。イノベーションを進めるにあたっては、予算を増やすのではなく、「どのように上手く使うか」が鍵だ。
5月発表のレポート「R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代に導く」より。GDPに占める研究開発費としてみれば日本企業は高い水準にある一方で、それが必ずしも技術革新に結びついていないことを課題と指摘している。
出典:マッキンゼーのレポート「R&Dの生産性向上こそが日本企業を次世代に導く」より
小田原氏:今までの動き方では生き残れないと考える企業は増えている。日本の製造業は昔に比べれば変化もしてきているが、それでも、エンジニアドリブンの意思決定は根強い。
—— 「いいものを作れば、高く売れる」の論理から脱却すべきだと?
小田原氏:新興国のモノづくりが伸びてきており、シェアを取られはじめている。
これまでも危機感はあったが、やはりファイナンシャルな影響が出てこないと「本当に変わる」とはならない。
それが今、大手は経営層とマネージャー陣とで、まさに喧々諤々でどう会社を変えていこうかという議論が始まっている。
背景には、やはり将来が読めない時代になったことが大きい。コロナの先行き、(それに付随する)コンシューマーの動きが読みにくくなっている。
(例えば)3年後にこういう製品を出そう、と良い製品をつくっても、3年後には今予想している客の動きとはまったく違った状況になっているかもしれない。
いかに開発期間を短くするか、フィードバックをいかにリアルタイムに取るかが重要になる。このような不確実性の時代になったことによって、より顧客志向になろうとしている。
シェアリングエコノミーは死なない
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—— 2019年以前は、自動車は所有からシェアへ向かう、という見方が強かった。コロナ禍は、そのトレンドに大きな影響を与えたのでは?
小田原氏:確かに、短期的には投資が抑えられる可能性はある。中長期的には、シェアは減らないとみている。
シェアード(シェアリング)については、いろいろな見方がある。(コロナの感染リスクなどの観点から)利用に抵抗感が強い人がいることも承知しているが、シェアードは、マイクロモビリティ、近距離移動向け、小型の自動車もあり、手軽に移動する手段としては、むしろ伸びていくのではないかと見ている。
実際、中国ではシェアサイクルの需要も再燃している現状がある。今後、高齢者を意識すると「安全なシェアード」を模索する方向にいくのではないか。
(ある意味で)中国が今後の試金石になる。中国がどういう形でシェアードを運用していくのかを見て、ほかの国がフォローしてくることになるのではないか。
いずれにしても、我々が当初警戒していたほどには、シェアードは減速しないと考えている。
ロシャ氏:シェアードに関して、2つのデータを紹介する。(以前の調査だが)アメリカにおいて、一般的な乗用車は全体の時間の96%は使われていないという調査結果がある。これもシェアードが今後なぜ必要なのかという裏付けの1つだろう。
McKinsey Center for Future Mobilityによる資料(2018年)より抜粋。
出典:マッキンゼー
また、新しい世代のマインドセットの変化がある。私の世代では(自動車の所有は)ステータスだったが、ミレニアル世代は、ほとんどの人がクルマを所有することを気にしていない。むしろ、モビリティそのものをどうするかに意識が向いている。この2つの観点からも、(シェアードの追求は)継続していくと思う。
国家間の移動が抑制される時代の「製造」のあり方
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—— コロナ禍で、特定の地域にパーツ製造を依存することのリスクが顕在化した。今後、サプライヤーからの調達の変化は?
小田原氏:どこで(部品や車両を)つくるかを見直そうという会社は出てきている。一部には、コスト高になることは覚悟の上で国内回帰するような動きもある。コロナが再燃した際に、海外の工場のコントロールがきかなくなるからだ。
今後「ネクストノーマル」のなかでは、「工場の管理」を厳密にやる方向になっていくと見ている。
生産にまつわる地域ごとのフットプリント(工場の持ち方)を多様化するとか、配分を柔軟に変更する、という形になる。
イメージとしては、コロナが活発化している国の配分は減らして、ほかの国で補うなど、フットプリントの中での生産量の割り当てをフレキシブルに変えていく。
また、大きな新工場ではないものの、生産を(中国から)東南アジア、タイやベトナムにシフトすることを検討している企業もある。ただし、これは新しいトレンドが出てくるというより、これまで進んでいた動きが加速すると考えたほうが良い。
(文、聞き手・伊藤有)