7月29日、日本全国での感染者数は1002人。初めて1日の感染者数が1000人を超えた。
撮影:三ツ村崇志
国や東京都などが新型コロナウイルスの感染拡大に有効な対策を打ち出せない中、世田谷区は独自に検査体制を拡充し、1日数千件規模の検査を実施することを打ち出している。
高齢者施設で働く介護従事者や保育士、学校の教師など、いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちには定期的な検診をしてもらう体制をつくる、という。
世田谷区の保坂展人区長に具体的な体制拡充の方法などを聞いた。
Business Insider Japan:区独自で検査体制の拡充をされると明言されています。
保坂:第2波が思った以上の速さで到来し、感染がこれだけ増えていると毎日発表しているにもかかわらず、GoToキャンペーンやアベノマスクの追加配布8000万枚のような“寄り道”の政策の話ばかりが出ている。そんな話をしている場合じゃないでしょうと。医療現場支援は進まず、このままではかなり厳しい状況になると感じています。
先日国会で感染の現状に対して危機感を訴えられた、東京大学先端科学技術センターの児玉龍彦名誉教授とは何度もお話し、世田谷区の有識者会議でもアドバイスをいただき、感染防御の点で精密抗体検査をしていく体制を整えているところでした。
世田谷区の保坂区長。区独自で1日数千件規模まで検査体制を拡充すると明言した。
撮影:今村拓馬
だが予想以上に第2波が早くきてしまったので、医療従事者や介護従事者、保育士、学校の教師などエッセンシャルワーカーの人たちに定期的に検査を受けてもらうという、児玉先生の提唱する「世田谷プラン」を実行できる体制を整えようと考えました。世田谷区の医師会も同様の問題意識を共有しています。
プール方式の検査も採用検討
BIJ:世田谷区の現在の1日の検査数は約300件(7月28日現在で303件)。保坂さんはこれを1日数千件にまで増やすとおっしゃっていますが、具体的にはどうやって検査数を増やすのですか。
保坂:現在のこの300件という検査数は、今の体制での検査能力の限界に近い。
日本では1人の検体を1つずつ検査しているが、海外で実施されているような、大量の検査を処理するため、複数人の検体をまとめて検査し、陽性となった場合には個別に検査し直すプール方式を採ることも考えている。これだとコストを抑えられ、スピードをあげられます。
例えば、世田谷区には保育士だけで約1万人いる。こういう感染リスクにされされていて、いったん感染すると濃厚接触者が多くなる人たちに、無症状でも定期的に検査を受けてもらうためには、プール方式などこれまでとは違う方法も考えなくてはならない。
BIJ:エッセンシャルワーカーの人たちは公費で検査を受けられようにするのでしょうか?
保坂:こうした社会的検査の場合は、公的に負担することも検討しているが、区が中心となって民間にも幅広く呼びかけていく。費用やいつまでにどのぐらいの規模の体制にするかなどは、まさにいま医師会や東大先端研などでプロジェクトチームをつくって検討しているところです。
BIJ:ニューヨークでは、最寄りのクリニックで予約なしで検体採取をできるようになっていますが、世田谷区でもそういった方式を考えていますか。
保坂:現在PCR検査センターが入っているビルに余裕があるので、そこを候補に考えています。そのビルではすでに4月からそのビルを使って累計7000件もの検査をやって来ました。
濃厚接触者の追跡に保健所が疲弊
熱が続いているが、なかなか検査を受けさせてもらえない、という声が再び上がり始めている。
REUTERS/Issei Kato
BIJ:都内だけでなく、愛知や大阪でも、熱が続いてもなかなか検査が受けられないといった人が出始めていますが、世田谷区ではそもそもいま、発症したらすぐに検査は受けられるのですか。
保坂:世田谷区の場合、PCR検査を受けさせてもらえないという人は現時点では出ていません。
いま世田谷区では、濃厚接触者などは保健所を通した行政検査、症状が出た場合は近くのクリニックで診察後に医師会が運営する世田谷区医師会PCR検査センターで、そして感染症対応している病院の発熱外来、と検査には3つのルートがあります。
先々週まではクリニックで午前中に診察してもらい、検査が必要となったらその場でPCRセンターに電話を入れてもらい、午後にはPCRセンターで検査できた。そして陽性の場合だけ保健所から連絡が入る。保健所の負担を減らすためにもこうした方法を取っていました。
保健所は濃厚接触者を中心に検査していますが、いったん保育園で感染者が出ると、一気に濃厚接触者100人以上を検査しなくてはならず、それを3日に分けて対応しています。先々週ぐらいから一気に濃厚接触者が増え、保健所では検査がなかなか捌き切れないとという状況になってきています。
この医師会ルートと保健所ルートをそれぞれ増やして、なんとか1日600件は検査できるように準備をしていたのですが、この急激な感染者数の増加で、もはや600件でも万全ではない。とりあえず大きく網を張ることが必要な時期が来たと判断したのです。
同時に保健所の人員を増やす対策もしています。濃厚接触者を追っかけるコンタクトトレーサーという仕事をアウトソーシングできないのか、電話相談は看護師経験のある人に切り出せないのか。思い切って保健所の業務を見直さないと、過労で倒れる人たちが出てくると感じています。
本来は国や東京都が考えるべき
東京都の1日の検査数は5268件(7月27日)。
REUTERS/Issei Kato
BIJ:検査を公費で負担するとなると財源は、区が負担するのですか。
保坂:プール方式を採用したり、民間検査会社も使ったりしながらコストは抑えるが、とりあえず費用は区で持つことになると思う。
自治体の中には、本来は国や東京都が検査を拡充できる制度を作ってくれたらやりたいというところが多い。でも、もう国や都ができないのだったら、逆に区でやるしかない。
新型コロナウイルスは世田谷区だけで制圧できない。生活上の注意や営業上の注意だけではもはや感染は止められないので、本来は東京方式という形で都で検査体制の拡充をするべきだと思います。なので、財源については都とも交渉していきます。
そしてまず国はいまはGoToキャンペーンより、まず検査体制の充実と封じ込めに予算を投入して欲しい。感染症対策を徹底することが経済の再生にも近道だと思います。
国や都に中にもこういう検査体制の必要性を考えている人はいると思う。番組で一緒だった田村憲久元厚労相も「こういう話が具体的に出てくれば応援しやすい」と話していました。検査の拡充は何度も話としては出ているが、PCR検査には偽陽性があるとか、毎日やらなければ意味がないとか、どうしても「やらない方向に持っていく」議論が出てきやすい。
でも、「やってはいけない」という議論も出てこないので、まずは世田谷区がやってみようと思っています。
(聞き手・構成、浜田敬子)