ストーンヘンジのサークル内部からの眺め。
James Davies/English Heritage
- イギリスにある約5000年前の遺跡、ストーンヘンジは、2種類の石を用いて建てられている。
- 小さい方の石はブルーストーンといい、ウェールズに由来することが分かっている。だが、サルセン石と呼ばれる巨大な砂岩の由来は謎だった。
- 新たな論文は、23トンほどのサルセン石の多くは、約25km離れた森林地帯から来たと考えている。
- この調査結果により、ストーンヘンジがいかにして建てられたのか、さらなる解明が進むだろう。ある専門家は、80個すべてのサルセン石は、一度に運び込まれたとしている。
科学者たちは何世紀もの間、ストーンヘンジの起源について悩まされてきた。
イギリスのソールズベリー平原に、5000年前と4500年前の2度にわたる建築時期を経て建造されたと見られているこのミステリアスな遺跡は、明らかに異なる2種類の石の柱が半円状に並んでいる。
そのうち小さい方の石はブルーストーンといい、ウェールズに由来することが分かっている。だが、サルセン石と呼ばれる9mもの高さの巨大な砂岩の由来は、これまで謎だった。
7月29日、学術誌サイエンスアドバンシスに掲載された論文によると、ストーンヘンジにあるサルセン石の多くは23トンほどの重さがあり、これらはウィルトシャーの森林地帯から引きずられてきたと考えられている。
その森林地帯はウエストウッズと呼ばれ、ストーンヘンジから北に25km以上離れている。「よく考えればそれがいかに驚異的なことか分かるだろう」と論文の筆頭著者であるデービッド・ナッシュ(David Nash)はBusiness Insiderに語った。
「我々の調査によると、ストーンヘンジにあるサルセン石のほとんどは同じ化学組成であることから、同じ場所で産出されたものだと考えられる」
今回の調査結果が、どのようにして巨石が南に運ばれたのかを解く鍵となりそうだ。
ストーンヘンジの巨石は25km離れた森から運ばれた
ストーンヘンジには、元々80個のサルセン石があったと思われるが、現在は52個だけが残っている。ナッシュの研究チームがこれらのサルセン石の化学組成を分析したところ、52個のうち50個は同じ成分でできていた。
ポータブルの蛍光エックス線分光器を用い、ストーンヘンジのサルセン石を分析する研究者のジェイク・チボロウスキー。
David Nash/University of Brighton
次に研究チームはイギリス南部に分布する他のサルセン石を探し出し、ストーンヘンジのものと化学的特徴を比較した。その結果、ストーンヘンジから北に25km離れたウエストウッズのものと一致した。
これまでストーンヘンジのサルセン石は、近郊のマールボロダウンズという地域から運ばれたものだと考えられてきた。「どちらも同じように巨大で灰色だったからだ」とナッシュは述べた。
ウエストウッズもその地域の一部だが、これまでストーンヘンジの謎を解くための調査は行われなかった。そこではほとんどのサルセン石が植物の下に隠れていたからだ。
ウエストウッズのサルセン石。ストーンヘンジに使われた石は、ここから運ばれたと考えられている。
Katy Whitaker/Historic England/University of Reading
加えて、ブルーストーンが遠方から運ばれていることから、ストーンヘンジを造った人々は必ずしも近場の便利な場所から石を切り出していたわけではないとナッシュは指摘する。
「わざわざウェールズからブルーストーンを運んだくらいなのだから、最寄りの場所からサルセン石を運ぶくらい、大したことではなかったのだろう」
2トンから5トンのブルーストーンが少なくとも50個近く、約240km離れたウェールズのプレセリ・ヒルズから運ばれたことが分かっている。
サルセン石については、なぜウエストウッズのものが使われたのか、まだはっきりと分かっていないが、論文には「サイズと品質」が関連しているだろうと記されている。
すべてのサルセン石は同時期に運ばれた可能性
ナッシュによると、ストーンヘンジは埋葬地や火葬場、古代のヒーリングの場だったという説があるが、今回それを確認することはできなかった。だが、サルセン石の産出地が明らかになったことで、少なくとも、どのようにしてストーンヘンジが建てられたのか、またどのようなルートで建材が運ばれたのかを調べる助けになるという。
ストーンヘンジのサルセン石から採取された試料を観察するデービッド・ナッシュ。
Sam Frost/English Heritage
古代の人々はサルセン石を、ローラーのようなものを用いたり、草地あるいは凍った地面のような滑りやすい表面を引きずったりして運んだのかもしれないとナッシュは述べた。
「動物に運ばせたという証拠はないが、まだ確かなことは分からない」
今回の論文は、サルセン石が一度に輸送され、そのすべてが同時期、紀元前2500年頃に成形され、円形に配置されたという説を裏付けるものともなった。
ストーンヘンジ
Andre Pattenden/English Heritage
「すべての石が一度に運ばれたという考えが裏付けられたと思っている」とナッシュは言う。
「それは驚くべき考えだ。この大プロジェクトの一環として巨石を運ぶために、一体どれだけの人が必要だったのだろうか」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)