撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
私は28年にわたり、「転職エージェント」として活動してきました。以前は大手エージェントに在籍していましたが、2017年に独立起業。現在はエグゼクティブ層を中心とした転職エージェント業を手がけています。
これまで多くの転職者希望者の方とお会いしましたが、転職エージェントを上手に使いこなす人は、早期に転職成功につながっています。
そこで今回は、転職エージェントと上手に付き合う方法をお伝えします。エージェントの選び方、エージェントとのコミュニケーションのとり方についてご紹介しましょう。
「総合型」と「ブティック型」を併用する
よく「複数のエージェントに登録してもいいんですか? 何だか担当の方に申し訳ない気がして……」なんて聞かれることがあります。
転職エージェントは、「同時に複数利用してもOK」です。
エージェント側は、「求職者が複数社を併用しているのは当たり前」という感覚ですから、そこは安心してください。
ただし、やみくもにたくさんのエージェントに登録するのはお勧めできません。応募~選考の進捗管理が煩雑になるからです。複数のエージェントが共通して持っている求人案件は多数あります。同じ求人が複数エージェントから紹介され、「どこを通じて応募すべきか」で迷ってしまうことも。
ですから、まずは4~5社程度と面談して、自分と相性が良さそうなエージェント2~3社に絞るのがいいでしょう。
複数のエージェントを併用するなら、「大手総合型」と「ブティック型(専門特化型)」を組み合わせるのが望ましいと言えます。
大手総合型エージェントを活用するメリットは、「求人案件数の豊富さ」と「網羅性」。より多くの求人の紹介を受けられ、選択肢を増やせる可能性があります。また、幅広い業種・職種を扱っていますから、想定していなかった業界・職種で、自分の経験・スキルが活かせる求人に出会えることもあります。
一方、ブティック型の中小エージェントの場合、特定の業界や職種を得意とするほか、「経営幹部」「ミドル層」「外資系」など、何らかの領域に専門特化しています。目指す領域が明確であれば、その領域に強い中小エージェントを探すといいでしょう。
こうして複数のエージェントを組み合わせ、目的に応じて使い分けてはいかがでしょうか。
「エージェントに何を求めるか」を明確にする
エージェントの活用を開始する際には、自分の転職活動の方針、そして、「エージェントに何を求めるか」を明確にしましょう。それによってエージェントの選び方、付き合い方が変わってきます。
「なるべく多くの求人案件を比較検討したい」「異業界へのキャリアチェンジの可能性も探りたい」ということであれば、網羅性が高い大手総合型が役立ってくれます。
例えば、「人事」のキャリアを持つ方がいたとしましょう。「管理部門人材」に特化したブティック型エージェントだけを使った場合、紹介される求人は基本的に「人事職」のみ。一方、総合型エージェントでは「人事の経験を活かせる求人」という条件設定での検索により、「人材サービス会社の営業職・コンサルタント」「人事システムを扱うIT企業の営業職・企画職」といった選択肢にも出会いやすいというわけです。
一方、目指す業界・職種が定まっていて、興味がある企業について「より深く知りたい」「自分の合格可能性を知りたい」などであれば、ブティック型が重宝します。
大手総合型の場合、求人企業と対話する営業職と、転職希望者の相談に応じるキャリアアドバイザーやコンサルタントが分業制となっているケースがほとんど。その点、中小エージェントの多くは1人のコンサルタントが企業側と求職者側の両方と直接対話するため、企業側の内情についてより濃密な情報を素早く提供してもらえる可能性が高いと言えます。
転職エージェントとして長年活躍してきた森本さん。「エージェントに何を求めるかを事前に明確にしておくといいですよ」とアドバイスしてくれた。
撮影:鈴木愛子
また、「今後の方向性や目標が定まっていない。転職活動を進めるなかであれこれ迷いが出てきそうなので、都度相談に乗ってほしい」という方もいらっしゃいますね。
こうしたケースでは、コンサルタントとの「相性」がとても重要です。この場合、複数のエージェントで面談を受けてみて、担当コンサルタントのスタンスや自分との相性を見た上で、どのエージェントとお付き合いするかを決めるといいでしょう。
ちなみに、大手総合エージェントは登録者の数も多く、コンサルタント1人当たりの担当人数が多いため、個別のケアが追い付かなくなることも。その点では、中小エージェントのほうが中長期にわたってのきめ細かなケアを期待できると言えます。
エージェントとの上手な付き合い方のポイント6つ
エージェントの活用効果を最大化するためには、求職者自身が、転職エージェントにとって「サポートしやすい」ように動くことが大切です。
では、転職エージェントはどうすればあなたをサポートしやすくなるのか。いくつかのポイントをお伝えしましょう。
1. 「初回面談」で少しでも多くの情報を提供する
「あのエージェントは、的外れな求人ばかり紹介してくるから信頼できない」なんて不満の声が聞こえてくることもあります。そんな事態を防ぐためには、まず自分からの情報提供量を増やすことが大切です。
そのためには、「初回面談」の時間の使い方が大切。これまでの経歴を説明するだけで面談を終えては時間がもったいないです。そこで、職務経歴をまとめたレジュメを、初回面談前に送っておきましょう。
その際、ただ職務経歴を羅列するだけでなく、「何が強みか」「今後活かしていきたいのはどの経験・スキルか」「自分の志向・価値観」など、箇条書き程度でOKですので記載しておくことをお勧めします。
そうすれば、エージェントは求人案件のイメージをある程度持った上で初回面談に臨むことができますし、「志向」「価値観」をより掘り下げて対話し、理解を深めることができます。
初回面談の時間の使い方が大きなポイント。職務経歴書などは事前に送付しておこう。
imacoconut/Shutterstock
2. エージェントに何を期待しているかを伝える
「エージェントにどんなサポートを期待するのか」。これも、初期の段階で明確に伝えることをお勧めします。
「○○業界の△△職の求人情報だけ提供してもらえばいい」「○月には転職を完了したいので、それまでに合否が出る求人だけ紹介してほしい」など、何らかのこだわりや事情があるなら、事前に共有するといいでしょう。
そうすれば、エージェントは適切な対応ができるようになり、あなた自身の満足度も高まります。
3. 他ルートでの応募の進捗状況を共有する
他のエージェント経由での応募、転職サイトなどからの直接応募、知人を通じての応募など、他のルートで応募している求人についても、進捗状況を共有してください。
そうすれば、応募~選考のスケジュールを調整してもらえます。例えば、「第1志望の選考結果が出る前に、第2志望から内定が出て意思決定を迫られる」といった事態を防ぐことができます。
また、他社の選考状況やオファー内容を踏まえ、選考中の企業に対して年収・待遇・入社時期などが有利になるよう交渉してもらえることもありますよ。
4. 「本音」を話したほうがいい
エージェントも感情がある1人の人間です。心を開いて、本音で話してくれる人に対しては「信頼してくれている」と感じ、親身になって応援したくなるものです。「業者」と捉えて、ドライに接するのは自分にとって損。心強い味方になってもらうためにも、人と人として信頼関係を築くことを心がけてはいかがでしょうか。
5. 相性が合わなければ「チェンジ」もアリ
担当コンサルタントに不満を抱いた場合は、「担当を代えてほしい」と申し出ても構いません。本人には直接言いづらいでしょうから、カスタマーサポートなどの窓口に伝えるといいでしょう。相手への批判や不満を告げるのではなく、「相性」を理由にすればカドが立ちにくいと思います。
ただし、紹介される求人案件に不満がある場合、同じ会社内で別のコンサルタントに交代しても、出てくる案件は変わらない可能性大。その場合は、別のエージェントに代えたほうが不満の解決につながりやすいかもしれません。
6. 「頼るべきでないこと」は頼らない
エージェントには、さまざまな機能やサービスがあります。ここで整理しておきますので、状況に応じて活用してください(※エージェントによってサービス内容は異なります)。
しかし、何でもエージェントを頼ればいいわけではありません。「私は本当に転職すべきでしょうか?」といった漠然とした悩みをぶつけても、答えは得られないでしょう。
「どうすればいいですか」ではなく、まず自分で考えた上で、「こう考えていますが、どう思いますか」という尋ね方をするようにしたいものです。
特に、「転職するかどうか」「内定企業に入社するかどうか」の最終判断は、自分自身で行うものです。エージェントはあくまで「判断材料を提供してくれる」存在です。
その一線をしっかりと引いて、上手に活用してくださいね。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
回答フォームが表示されない場合はこちら
※本連載の第28回は、8月10日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。