米議会下院司法委員会の公聴会にオンライン参加したグーグルのスンダル・ピチャイ最高経営責任者(CEO)。議会に提出した資料から新事実が明らかに。
Mandel Ngan/Pool via REUTERS
- IT大手4社の最高経営責任者(CEO)4人を呼んで開かれた、反トラスト法をめぐる米議会下院の公聴会で、2005年にYouTubeの買収を検討していたグーグル経営陣のなかで、興味深い変化が起きたことを示す新たなメールが公開された。
- そのメールによれば、グーグル側は当時YouTubeを5000万ドルで買収できると踏んでいた模様だ。
- 「YouTube側は5億ドル程度を望んでいる。マイスペース(MySpace)並みだ」といったやり取りもみられる。
- メールの数カ月後、グーグルはYouTubeを16億5000万ドルという歴史的金額で買収している。
IT大手4社のCEOを集めた下院司法委員会の公聴会には、数多くの新たな資料が提出、公開された。
そのなかには、YouTubeの買収について検討していたグーグル経営幹部らのやり取りしたメールが含まれていた。
メールは2005年当時のもので、GoogleビデオのプロダクトマネジャーらがYouTubeを精査した上でどう評価し、提携にとどめるのか、まるごと買収すべきか議論していた様子がわかる。
当時広告部門を率いていたジェフ・フーバーは次のように書いている。
「じつに興味深い。僕らが買収まで考えてるってことは、YouTubeの連中にはまだ言ってないわけだよね? 彼らは間違いなく、僕らよりかなり早く面白い機能を生み出している。けれども、それをマネタイズするためにスケールしたり、プランニングするバックエンドを持っていない。僕らには……それがある」
同じスレッドに連なる別のメールを読み進めると、グーグル側は2005年下半期の段階でYouTubeの評価額を1000〜1500万ドルと想定していたことがわかる。そしてその数カ月後、グーグルはYouTube買収に動き出すことになる。
ところが、今回公開されたメールを読んでみると、グーグルの従業員たちは買収に至る直前まで、YouTubeのテクノロジーを見下していたように感じられる。プロダクトマネジャーのひとり、ピーター・シェーンはこう書いている。
「彼らはべつに大したことをやってません。私に言わせれば『おお、大きな動画配信サーバをいくつか抱えてるんだな』くらいの話です」
とはいえ、グーグルは競合の存在を意識していた。ヤフーも当時ビデオプラットフォームの囲い込みを狙っていたのだ。
前出のフーバーは、当時グーグルのバイスプレジデント(プロダクトマネジメント担当)で現在YouTubeのCEOを務めるスーザン・ウォジスキーも宛て先に含まれるメールに、次のように書いている。
「YouTubeの連中と話してみるべきだと思う。少なくともヤフーより高値をつけなくちゃいけないわけだから」
2006年1月、米ラスベガスで基調講演に登壇したグーグルの共同創業者、ラリー・ペイジ。動画サービスの強化は同社にとって最大の関心事のひとつだった。
REUTERS/Steve Marcus
それから数日後の11月8日、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジも買収を提案する。当時シニアバイスプレジデント(ビジネスデベロップメント担当)だったデービッド・ドラモンド宛てのメールに、彼は書いている。
「買収を考えるべきじゃないか。YouTubeは最近、セコイア・キャピタルのマイク(・モリッツ)からも出資を受けている実績もあるんだし」
今回公聴会に提出されたメールのやり取りから、グーグルは最終的に買収した価格より相当低くYouTubeを評価していたことがわかる。
「5000万ドルくらいはかかると思います」
2006年5月、YouTube買収まで残り数カ月のグーグル経営陣。右から、デービッド・ドラモンド、セルゲイ・ブリン、ラリー・ペイジ、エリック・シュミット(役職は本文参照)。
REUTERS/Kimberly White
2006年2月のメールによると、当時グーグルのCEOだったエリック・シュミットは、同社プリンシパル(コーポレートデベロップメント担当)のシーン・デンプシーにゴーサインを出した。
「YouTubeを買収できる本気のオファー内容について検討してほしい」
同時に、シュミットは買収金額の大枠をたずねた。バイスプレジデント(コーポレートデベロップメント担当)のサルマン・ウラーはこう答えた。
「5000万ドルくらいはかかると思います」
ペイジはこのとき、「奇想天外な数字ではまったくないな」と返信している。
ところが、2月13日の月曜日、デンプシーから悪い知らせがシュミットに届く。
「金曜日(10日)にYouTube側と話しました。週末もぶっ通しで今朝までです。彼らの要求額は5億ドル程度、(ルパート・マードックのニューズコーポレーションが5億7000万ドルで買収した)MySpace(マイスペース)並みの取り引きになります」
「今朝方、YouTubeの担当者と面会するつもりでいたのですが、向こうは『MySpace並み』を本気で言っているのか探ろうと、2億ドル程度ならいけるかもしれないとちらつかせてみたところ、(そんなに金額の開きがあるのでは)会う価値もないと言われました」
シュミットはデンプシーにこう返信した。
「どうしたら彼ら(YouTube)の目指すビジョンの実現に協力できるのか、考えてくれないか。グーグルはYouTubeを単なる買収先のひとつと考えているわけではない」
これらのやり取りからわかるのは、YouTubeがMySpace並みの評価を求めていることを知ったグーグルは、別のやり方で協業を実現する方針に転換したということだ。
しかし、画像と動画の価値がグーグルにとって大きなものになっていくにつれ、経営陣はYouTubeの可能性に気づいていくことになる。
グーグルのピーター・シェーン(前出)は、ビデオカメラメーカーのピュア・デジタル(Pure Digital)と提携交渉を行っていた2006年2月前半のメールで、次のように書いている。
「今回の交渉がもの別れに終われば、向こう(Pure Digital)はヤフーかYouTubeのところにいくでしょう。ヤフーは自社ブランドのカメラをつくり、それと抱き合わせで動画ストレージサービスを始めたいと考えているのです」
グーグルは結局、2006年10月までYouTubeの買収に乗り出そうとはしなかった。そして、本当に最終段階まで買収のチャンスを残していたのは、じつはヤフーのほうだった。
YouTube共同創業者のチャド・ハーリーはBusiness Insiderの取材に、一連の経緯が事実であることを証言している。
買収金額は一気に3倍増の「16億5000万ドル」に
YouTube共同創業者のスティーブ・チェン(右)とチャド・ハーリー。買収交渉でグーグルを手玉に取った。
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「MySpace並み」の金額を提示され、買収以外の協業の道を探ろうとしたグーグルだったが、(公聴会を通じて今回出てきた)当時のメールを読むと、経営幹部たちは買収をあきらめきれずにいたことがわかる。
2006年5月1日のメールで、YouTube現CEOのスーザン・ウォジスキー(前出)は書いている。
「今日のエリック(・シュミットCEO)の話……例の動画の件。ビルは検討中だって言ってたけど」
それに対して、当時シニアバイスプレジデント(プロダクト担当)だったジョナサン・ローゼンバーグの返信。
「我が社はYouTubeに尻を蹴飛ばされたってことか」
対するウォジスキーのメール。
「エリックから聞いて驚いた。もっとひんぱんにヤフーに関する情報のアップデートをエリックに入れるようにする。ここ数カ月ずっと、YouTubeをどうするか考え続けてきたわけだし」
その数カ月後の10月、YouTubeの共同創業者スティーブ・チェンとチャド・ハーリーが最終的にグーグル側に提示した買収金額は、(2月時点の交渉相場の3倍近い)16億5000万ドルだった。
そして、グーグルはその金額を受け入れた。
ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、エリック・シュミットというグーグルのトップ3人は、カリフォルニア州サンブルーノにあるYouTube本社に顔を揃え、同社の共同創業者らと買収を発表した。
あるYouTubeの従業員はこの交渉を「全力をかけた戦いだった」と語った。
(翻訳・編集:川村力)