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- 第58次オーストリア南極探検隊リーダーのレイチェル・ロバートソン(Rachael Robertson)は、氷点下35度という極寒のデービス南極観測基地で、120名からなるチームを統率した。
- ロバートソンが応募した求人広告に求められていたのは、リーダーとしてのスキル3つのみだ。
- リーダーのメンタリティは、危険な南極探検に限らず一般の職場でも重要だとロバートソンは語る。
「技術的なノウハウは不要。ただし、3つのリーダースキルは必須」と書かれた求人広告を見て、レイチェル・ロバートソンは思わず先を読み進んだ。
ペンギンの写真が添えられた求人広告には、デービス基地で活動する第58次オーストラリア南極探検隊のリーダーを求む、と書かれていた。
当時ロバートソンは、オーストラリア南部のビクトリア州にあるグレート・オーシャン・ロードで森林管理官のリーダーを務めていた。南極探検隊リーダーの職に応募した時、採用されると期待もしていなかったし、特に望んでいたわけでもなかった。
「それが私の戦略だったと言いたいところだけれど、そうではなかったんです」。ロバートソンはCNBCに語る。彼女の目的は、志願者の持つリーダーのスキルをどのようにテストするのか、方法を探り出すことだった。「面接試験にこぎつけたかっただけです。どんな質問をするのかが分かれば、自分の仕事に取り入れて使えるから」
そういうわけで応募し、面接試験に招かれ……その場で採用が決まった。「それならいろいろ試してみればいいと思ったんです。どんな行動をとったか、後で自問すればいい。自分だったらどうやっていただろうかと一生考え続けるよりいいだろう、と」
ロバートソンの言う「世界一極限の仕事」とは、氷点下35度の環境下で120名からなるチームを率いること。どのような統率力を必要とするか、ロバートソンに話を聞いた。
1. レジリエンス(耐性)
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厳しい気候条件のもとで長期間の探検をこなすために、耐性はサバイバルに関わる資質だ。14人の志願者は、採用試験の一環としてブートキャンプに参加した。そこでは11カ月の南極探検をシミュレーションで体験する。狭い居住施設に寝泊まりして、数時間を要する困難な任務を協同で行うのだ。
オーガナイザーが知りたいのは、志願者がレジリエンスを持つかということ。プレッシャーに耐え、困難な状況でも寛容かつ友好的でいられるかどうか。「専門知識は教えられるけれど、レジリエンスは教え込めない、というのが彼らの考え」とロバートソン。採用後、3カ月のトレーニング・プログラムによって技術的ノウハウを身につけた。
2. 共感力
極限の条件のもとに狭い空間で生活しながら任務を果たすケースでは、共感力や理解力を持ち、仕事とプライベートを区別できるリーダーを必要とする。
共感力をテストするために、志願者はイノベーション、忠誠心、誠実さをはじめ7種類の価値観の中から最も重要と考えるものを1つ選び、ほかの参加者を納得させなければならない。
ほかの参加者は、情熱的なスピーチによって説得し、自己の見解を押しつけようとしたが、ロバートソンは別の方法を採ることにした。まず、ある価値観を選んだ理由を説明してから、ほかの意見も尊重すると言い添えた。「価値観が問題とされていたわけではありません。ほかの何かでもよかったはず」と、ロバートソンは振り返る。
重要なのは、自分の考えを「落ち着いて巧妙に」プレゼンする能力と、ほかの人々の考えを尊重する態度なのだ。
3. 誠実さ
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チーム全体の健康と探検の成功に責任を負う人は、高い誠実性を必要とする。ここで志願者は2人組になり、1人がアドバイザーの役割を果たす。
ロバートソンの2人組パートナーは決断力が著しく欠如していたので、それを指摘するべきだろうかと考えた。困難な職場環境では、相手は指摘された知識を自己消化することもできるだろう。
「心の中で葛藤しました。私が言ったことに対して相手は気を悪くするかもしれないし、もう1つの可能性としては、プラスに作用して優れたリーダーとなり、私の代わりにポストを射止めるかもしれないから」。結局、彼女の持つ誠実さが勝ち、相手に指摘した。
ロバートソンの決心は間違っていなかった。14人の志願者の中から、彼女が探検隊リーダーに選出されたのだ。彼女の持つリーダー的メンタリティが最適だと思った、と人事責任者は語る。ロバートソンの目標はほかの人たちを自分に傾倒させることではなく、彼らの持つ潜在的統率力をサポートすることにある、と。
リーダー的メンタリティが必要とされるのは、危険を伴う探検の時ばかりではない。一般的な職場にも当てはまる、とロバートソンは考えている。
「当時はリーダーに従うことが求められていたのではないでしょうか。今の時代、Y世代やZ世代に同じことを求めたら、社員は職場を変え、会社は有能な人材を失うことになりかねません。人々をサポートして指導し、アドバイスしてやる気にさせる……それがリーダーシップだと思います」
(翻訳・シドラ房子、編集・常盤亜由子)