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「無くても死なないけどちょっと欲しいもの」を生む発想の源

卓上カレンダ―

世界中の休日を集め、平日が年間12日しかない「ずっと祝日カレンダー」が大きな反響を呼んでいます。

@kenkawakenkenke

年中ほぼ全ての日がどこかしらの国で祝日だという事実に気づいてしまったので、「ずっと祝日カレンダー」を作った。『今日はアルメニアで陸軍の日だからダラダラ仕事するかー』みたいに使ってください。

(2020年1月26日の投稿、Twitterより)

製作したのは河本健さん。ソフトウエアエンジニアとして働く一方、テクノロジーを自在に使い、日常をちょっと楽しくする「無くても死なないけどちょっと欲しい」ものを次々と生み出してきました。

その発想はどうやって生まれてくるのでしょう?元同僚のABEJAリサーチャー、藤本敬介さんを交え、発想の源を掘り下げました。

河本さん1

PROFILE:河本健(かわもと・けん)
ソフトウェアエンジニア。2008年英オックスフォード大コンピューターサイエンス修士卒。同年、日立製作所に入社、中央研究所でセンサのライフログ活用を研究。2014年、外資IT企業に転職。34歳。Twitter ポートフォリオ: 俺.jp

頭の中の「技術の引き出し」と発想をマッチング

——河本さんのアイデア、いつ浮かぶんですか?

河本:だいたいは妻と楽しく話してる時かなぁ。

例えばこの「線路Tシャツ」、僕が寝転がってるときに息子にプラレールの列車で背中のツボをゴリゴリ押されて気持ちよかったのがきっかけです。

河本さん2

河本:白いTシャツに着替えて「線路描いて」と妻に頼み、「このあたりはもっとゴリゴリ押してほしいね」とブレストしながら作りました。

ボルダリングは公園で息子と遊んでた時、Tシャツによじ登られて思いつきました。これが楽しいんだったら背中で遊べたらいいね、と。

@kenkawakenkenke

子供が勝手に背中を登っておんぶの態勢になれるボルダリングTシャツを作った。(2018年5月27日の投稿、Twitterより)

——Wifiの電波測定器は、電波がプリプリ現れてきたのがかわいいです。

河本:そう、電波を可視化するならプリプリがいいな、と。見えないものを可視化する、というのはモノづくりの「鉄板ネタ」のひとつです。

@kenkawakenkenke

2階に置いたWifiルーターが繋がりにくいので、ARで電波強度を可視化してみた。こんなのを20分で作れるARCoreすごい。 AR Visualization of Wifi signal strength in my house.(2018年12月24日の投稿、Twitterより)

——アイデアが浮かんだら?

河本:スマホからGoogle Keepにメモで残します。すぐ忘れてしまうから。あとは妻や似たセンスの同僚たちに話して反応を見たり。「いいですね……」や「いいですね!」という声の様子で「まだだな」「これはイケそうだ」と受け止めて。

言葉だけでは分かってもらえないのもあります。「tempescope」も初めに妻に「箱の中にさ、雲を作ってさ」と説明したんですが、「はぁ……?」という反応でしたねぇ。

ボール

——ネタが浮かぶたびに頭の中の「技術の引き出し」とマッチングさせている。そんな風に聞こえます。

河本:そんな感じです。「やりたいこと」と「実現させる技術」の2つのライブラリが頭の中にあって、「『これがしたい』は『この技術』ならできるか?」と探し当てていくうち、「あ、これなら、この技術で作れそうだ」とつながる瞬間がある。そこからプロトタイプを作り始めます。

——お子さんが生まれてからアイデアがさらに浮かぶように?

河本:そう思います。課題がグッと増えるので。楽しい瞬間や感情の起伏が増える分、刺激も多くなりますし。

スマホ

——Google Keepの「床の上を歩くとサメが来るゲーム」という書き込みが気になりました。

河本:これね、絶対おもしろいなと思って。子どもとボール持ってキャッキャ走り回っていたときにアイデアが浮かびました。泳ぐサメの映像をプロジェクターで床に投影してセンサーで人を認知させる。サメが足元にガーッと寄ってきたら、ソファの上にパパッと逃げて遊ぶんです。

「発想豊かな人たち」が自分を変えた。

河本:父の仕事の関係で6歳から大学卒業まで、アメリカやイギリスで育ちました。

ゲームがきっかけでプログラミングを覚えて、学生時代ちょこちょこなにかを作っては友達に見せつつ、「ニコニコ動画」や「2ちゃんねる」といった、日本のモノづくりのネットコミュニティのやりとりを眺めてきました。

「こういうの作ってみた」と誰かが動画をアップすると、見た人たちの間で「自分もこういうのを作ってみた」という連鎖が生まれる。寄ってたかっていいものを作りだすハックな空気が、すごく好きでした。

——大学卒業後は、日立製作所の中央研究所(中研)で働き始めたんですよね?藤本さんも中研の同僚だったそうで。

河本:そうです。中研には発想豊かな人がたくさんいました。与えられた課題を研究するだけではなく、研究データを応用しておもしろいことをする人、脈絡なく実験して分かったことをデモ(発表)する人。発表すると机の周りにいろんな人がやって来て「ここ、もっとバーンとでっかくやったほうがいいよね」なんてワイワイしだす。

「かっこいいな、俺も作りたいな」と、自分も作り始めました。

できたものを発表すると、みんな驚いてくれました。「河本君は週に1回、僕を驚かせてくれればそれでいいから」と言ってくれる上司までいて。

——当時はどんなものを作ってたんですか?

世界で最初にウケた自作のモノは、「tempescope」という雨を降らすデバイスです。旅行で行ったサイパンのきれいな空を「持ち帰りたいな」と思って作りました。

子どものころに読んだ「ドラえもん」29巻の「ツバメののび太」という回に出てきた「動物観察ケース」をヒントにしました。のび太に似た顔のツバメを見るために、ツバメがいる空間を切り取って投影する道具です。

まずは「自分で作れないか」から考える。

——藤本さんも、思いついたらチャッチャとつくってしまうイメージがあります。「おにぎり作るみたいになんでも作る人だ」と思ってましたが、アイデアが浮かんだらどうしてるんですか?

藤本さん

PROFILE:藤本敬介(ふじもと・けいすけ)
2010年電気通信大学大学院情報工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日立製作所基礎研究所、同中央研究所を経て 16 年12月ABEJA入社。Labsリサーチャーとして主にDeep Learningを用いた画像認識技術の開発に従事。子供向けのAI開発体験ソフト「AI FOR KIDS」やSlack内の匿名チャンネル「VIP」の創設など、思いつきをかたちにするのが大好き。トロンボーン吹き。

藤本:パッと思いついたときに最小限の技術と材料で実現できそうなら、会社の帰りに材料を買って作ります。つい先日も「電車の中でプログラミングしたいけど、スマホだと指使いが難しいな」とふと思いついたんで、スマホに小さなキーボードをつけることにしました。

Amazonで小さなBluetoothのキーボードを見つけたので、どうやって本体にくっつけようかな、と。家に子どものレゴブロックが転がってたんで、これをスマホにくっつけて、電車の中でもプログラミングできるようにしました。

@peisuke

電車で立ってるときもプログラミングしたい!そんな夢が叶うプロダクトを作りました。(2019年11月16日の投稿、Twitterより)

——河本さんも藤本さんも、まずは「自分で作れないか」と考えることが前提になっていますね。

河本:そんな高尚なものではないです。料理と同じだと思ってます。冷蔵庫を開けて、中に人参と玉ねぎと固形ルーがあったら「じゃあジャガイモ買って帰ろうかな」となるでしょう?

「これ、こうだったらもっといいのに」「これめんどくさいな」と思う瞬間は、誰にでもある。「めんどくさいな」の解決に使える技術を、いかに見つけるかだと思ってます。

知っている技術が増えれば「めんどくさい」と「技術」がつながる瞬間がおのずと増えます。楽しいことを体験したときも、これとこれを使ったら、この楽しい体験が何回でも繰り返せるな、とアイデアが浮かぶようになる。

「ナナメ・変化球・ずらす」から生まれるもの

河本さん3

——「思いつかないことするね」と羨ましがれそうですが、仕事では「役に立つもの」を求められることのほうが多いと思います。

河本:確かに組織での研究開発は「目標ドリブン」で最高のソリューションを考えることがメインストリームです。

例えば、「最高の高画質テレビを作れ」というミッションが出たとする。「こういう技術で、こういう風にやるといいものができる」という考えに基づいて設計し、みんなでブラッシュアップしながら最高画質のテレビを完成させる。かっこいいし憧れますが、そういうのは賢い人たちがやるもの。僕は正直、あまり得意ではないんです。

僕は「変化球」というか、「ナナメ」の部分を陰でずっと作り続けるほうが性に合う。「高画質テレビを作るより、テレビを観てるときに食べる最高のポテトチップスを開発したほうがおもしろくない?」と。

もちろんコンプレックスを感じることもあります。メインストリームにいた方がかっこいいだろうな、とも思う。でも「自分はやっぱりこっち(変化球)かもしれない」という思いもある。実際、そういう気持ちがせめぎ合う中でやってきました。高画質テレビを作る人たちからすれば「わたしたちがテレビ作ってるから、お前みたいな人間も生きていける」ということになるんですが(笑)。

「つまらない通勤」がテックで「ワクワクする旅」に

藤本:僕は、河本さんが羨ましい。というか、悔しい。何と何がつながったらこんな面白いものがどんどん生まれてくるんだろうと思います。

僕の場合、仕事以外に自分が欲しいものを作るときでさえ「役に立つもの」という枠の中だけでしか発想できない。正直もどかしさも感じます。

特に河本さんらしい作品だなあと思うのは、電車を乗り過ごし続けたらどこに行けるのかを調べてくれる「乗り過ごし検索エンジン」。

@kenkawakenkenke

連休の終わりが受け止めきれないので、会社の駅で降りずに通り過ぎると行ける景色の良い場所?を探せる「乗り過ごし検索エンジン」を作った。明日の出勤失敗に使います。(2020年1月5日の投稿、Twitterより)

藤本:これ、僕だったら「会社に行きたくないことをどう解決するか」への直接的な解決策を作るんですよ。年休を取るとか、会社に言い訳するための文章を作るとか、朝起きたら自動的に会社に休む連絡メールが飛ぶようにするとか。

でも河本さんはまず、「こうなったら素敵じゃない?」という発想からなにかを作りますよね?「乗り過ごし検索エンジン」もそんな発想から出てきたんでしょうか?

河本:あれは「通勤」というつらい作業を「旅」にとらえなおしたんですよ。

ある時期、八王子から中央線に乗って職場に通ってたことがありました。行くのがつらいとき、通勤とは反対の方面を眺めて「これ逆走したら高尾山に行けるのか」と想像したらちょっとだけ楽しくなった。

直接的な解決策にはならないけれど、いつものすごくつまらない通勤も、そうとらえなおすだけでちょっとだけワクワクする。そういう体験がきっかけでいつかモノが生まれる日が来るかもしれないから書き留めておく。

最初の「会社に行きたくないな」という気持ちから「通勤を楽しいものにしよう」と、問題設定をあえてずらす。それがさっき話した「変化球」ですね。

藤本: そうか、「自分の体験」をタネみたいにしまっておいて、どこかのタイミングでそれをテックと結びつけてブラッシュアップしていくと、こういうアウトプットにつながるんだ。

「解決を目指す」より「楽しくやり過ごす」

河本さんの息子

——河本さんのモノづくりは「解決」というより「楽しさ」を追求している印象があります。楽しく「やり過ごす」というか。

河本:だから「技術の無駄遣い」なんて言われることもあります(笑)。「おもしろさを追求するためだけにそこまでやるんだ」という印象があるからでしょうね。たしかに価値が生まれるとは思わないんですが、自分でやってておもしろいからやっている。

30代も半ば近くになると、全ての問題に真正面からぶつかる時間はないです。やりたいことだけに集中するには、嫌なことを楽しいことにすり替えることもできるようになったらいい、とも思うんです。

——2人ともお父さんですが、「自分で作ると楽しいよ」というマインド、お子さんにも伝えてますか。

河本:上の子が5歳なんですが、どうやったらそういうマインドになれるか日々考えています。藤本さんもいろいろ考えているんだろうと思いますが。

藤本:「作る」も大事だけど、「クリエイティブでいる」も大事だ、と思っています。

話は変わりますが僕、トロンボーン吹いてるんですが、音楽も同じようなことが言えると思っています。用意された譜面を上手に弾けることも大事ですけど、「こんな曲を書きたい」と、自分で譜面書いてメンバー集めて一緒に演奏したほうが、さらにクリエイティブですよね。

音楽と同様に、レゴブロックもプログラミングも料理も、自分でなにかを作る、つまりクリエイティブでいることが大事なんじゃないかと。

子どもならレゴブロックなど身近なおもちゃを使って、頭に浮かんだものを目の前でリアルに作り出せればいい。粘土でもいいし、泥でもいい。いろんなところに「作る」はある。

河本:自分の生活に「つまんないな」と文句言ってそのままでいるのか、自分が楽しくなれるものを作れるかで、人生の楽しさの度合いは大きく変わると僕は思っています。

すでにあるモノや与えられたもの、買ったもので楽しめるならそれでいい。でもそれだけだと、僕には足りないものが多すぎる。自分で作って初めて幸せになれることって、たくさんあると思います。

「つまんないな」と感じたとき「じゃあどうする?」と考える。うちの子もそうなってくれたらいいなぁ。

@kenkawakenkenke

子供が『歩行者信号にカメラつけて、救急車が来たら赤信号に変えちゃえばいいじゃん』というアイディアを語っていた(ちなみに実在する)ので、ArduinoとAndroidとFirebase ML Kitとハンダ付けを教えながら一緒に作ってみた。思いついたら何でも作れるようになれればいいね。(2019年10月22日の投稿、Twitterより)


(取材・錦光山雅子、構成・神山かおり、写真・西田香織、川しまゆうこ(藤本さん写真)、編集・川崎絵美)

"Torus (トーラス) by ABEJA"より転載(2020年2月25日公開の記事)

Torus(トーラス)は、AIのスタートアップ、株式会社ABEJAのメディアです。テクノロジーに深くかかわりながら「人らしさとは何か」という問いを立て、さまざまな「物語」を紡いでいきます。

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