撮影:竹井俊晴
ミライのために新しい仕組みやビジネスを立ち上げようと挑戦する「ミライノツクリテ」。個人が生きるチカラを獲得し、自分で人生を選択できるように、とスキルシェアができるココナラを起業した南章行(45)さんに「28歳だった頃の自分へ」、そして「今、28歳のあなたへ」贈る言葉を語ってもらった。
僕が28歳だった頃の自分へかけたい言葉。
それは「よくやった!」という賛辞です。
安定した給料をもらえていた銀行を辞めて、企業再生ファンドへの転職を決めた頃。社会に出て最初の大きな意思決定をして、自分の人生を大きく動かす経験をしたのが28歳の頃でした。
「思い切ってスパッと転職したんでしょう」と言われることが多いのですが、内実はそんなことはなく、うじうじと2カ月くらい悩んでいました。
会社からの評価も悪くなく、子どもも生まれたばかりで、世間一般の基準では「なんで辞めるの?」と不思議がられる決断だったと思います。
でも、僕の中では明らかに「このままここに居続けてはダメだ」という危機感があったし、家族が増えたことで「厳しくてももっと稼げる世界へ飛び込まないといけない」という責任も感じていました。
とはいえ、やっぱり未知の世界に飛び込むのは不安でした。
「かっこよく生きろよ」という先輩のひと言
そんな時に、ある先輩からかつて言われた言葉が蘇ってきました。
先輩とは、銀行に入ってすぐに受けた新人研修の講師役を務めてくださった方。行内で活躍している、30代半ばくらいの先輩でした。
実務についての研修を終えた最終日、その先輩が僕たちに贈る言葉としてこう言ったんです。
「迷ったら、かっこいいほうを選べ。かっこよく生きろよ」
これから社会人になって、いろんな経験をし、いろんな壁にぶつかって悩むこともあるだろう。自分の中の倫理観ややりたいことと現実の狭間で、葛藤する日もあるかもしれない。考えても簡単に答えが出ないときは、「こっちを選ぶほうがかっこいい」と信じられるほうを選びなさい。
先輩から授かったこの言葉は、今でも僕の指針になっていて、時々思い返します。
判断軸には損得や正誤もあるけれど、最も自分の価値観に近く、後悔しない結果をもたらすのは「美醜」という軸でしょう。
迷ったときには、「どっちがかっこいいと思うか?」という問いを自分に投げかけるようにしています。
28歳で転職すべきか迷ったときも、「かっこいいのはどっちだ?」と自分に問いました。
息子が成長して会話できるようになったときに、「パパの仕事、かっこいいだろう」と胸を張って言える方を選ぼうと。そして、僕にとっては「家族を養うために転職する」というのもかっこいいと思える決断でした。
今振り返って思うのは、28歳で思い切ったあの時の決断があったから、その後も“決断できる人生”を歩めたのだろうなということ。
1年休職して英オックスフォード大学大学院に留学したことも大きな決断だった。
提供:ココナラ
もしも僕があの時の決断を先送りしていたら、その後にまた違う岐路に立ったとき、また同じように先送りしていたかもしれない。つまり、チャレンジに対する慣れができたのはとてもよかったと思う。
一度越えた壁は、きっとまた超えられると思うから。
年を重ねると、今の自分を否定することはあまりなくなります。「このままではいけない」と自己否定して、新しい自分に変われるのは若さの特権だし、自ら変わろうとする力は若ければ若いほど強いのだと思う。だから、28歳は「立ち止まるには早過ぎる」年齢です。
迷ったら、かっこいいほうへ。
僕も同じ言葉を贈りたいと思います。
(敬称略、完)
(文・宮本恵理子、写真・竹井俊晴)
宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。