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Canalys、IDC、Counterpointの主要調査会社3社がまとめた2020年4-6月のグローバルのスマートフォン出荷台数で、米政府の規制が続くファーウェイ(華為技術)がサムスンを抜いて初めて首位に立った。
ファーウェイは2019年にアップルを抜いて2位に浮上し市場を驚かせたが、米政府の規制が2019年5月に発動されたため、年前半の貯金が効いた面もあった。2020年は年初から規制の影響があり、さらに5月に規制強化された中で、なぜ世界トップを奪取できたのか。
そこにはファーウェイ、サムスンがこの数年で注力してきた地域セグメントとコロナ禍が大きく関係している。
海外27%減、中国8%増のファーウェイ
ファーウェイが初めてサムスンを抜いた。
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調査会社3社の数字は少しずつ異なるが、傾向は同じであるため、より具体的な数字を紹介する。
IDCによると4-6月のグローバルでのスマホ出荷台数は前年同期比16.0%減少し、2億7840万台だった。地域別ではアジア太平洋地区(中国・日本を除く)が同31.9%減、西欧が同14.8%減。アメリカが同12.6%減。
一方、3月末に新型コロナウイルスの収束が見え、経済再開と感染防止の両立が機能している中国は同10.3%減で、他地域に比べると減速が緩やかだった。特にEC各社が全力でインターネットセール「618」を開催した6月は、盛り返しがはっきり見えた。
この数年頭打ちだったスマホ市場、コロナ禍が追い打ちをかけた。
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その中国市場で4-6月に5割近いシェアを確保したのがファーウェイだ。米政府の規制の影響でグーグルのアプリ基盤「グーグルモバイルサービス(GMS)」を使えなくなった同社は、本国回帰に戦略を切り替え、同じ中国勢のシャオミやOPPO、vivoとの差を広げていた。
その勢いが現在まで続いており、Canalysによるとファーウェイの4-6月の出荷台数は海外では前年同期比27%減少したが、中国では同8%伸びた。結果、グローバルでは同5%減の5580万台に踏みとどまった。
同社の2018年の出荷台数は2億台、2019年は2億4000万台だった。米政権の規制、コロナ禍という2つの逆風を考えれば、驚異的な戦績と言える。
インド、ブラジル主戦場のサムスンは大打撃
4-6月の各メーカーの出荷台数。サムスンが撃沈し、アップルが好調だ。
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ただし、ファーウェイが首位を獲得した最大の要因はサムスンの失速だ。
Canalysによると、サムスンの出荷台数は同30%減の5370万台。減少幅は上位5社の間で最大だった。
サムスンは2010年代に入って、中国マーケットで現地メーカーの追い上げを受け、最近ではシェアが1%を割っていた。にもかかわらず世界首位を維持できていたのは、マーケットが大きいブラジル、インド、アメリカ、欧州で稼いでいたからだ。
だが、これらの市場が軒並みコロナ禍でフリーズしてしまった。4-6月のスマホ市場を見ると、最も大きなマーケットは中国で、アメリカ、インドと続くが、いち早くコロナ禍を脱した中国に対し、アメリカとインドは感染が収まらず混乱が続いている。 Canalysによるとインドの同期の出荷台数は外出制限などで同48%減少し、1730万台だった。
中国市場の各メーカーのシェア。ファーウェイが圧倒的に強く、サムスンはリストに名前もない。
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Canalysのアナリスト、ベン・スタントン(Ben Stanton)氏はファーウェイとサムスンのトップ交代について、「1年前にこの状況が予想できた人はほとんどいないだろう。新型コロナが起きなければこの結果もなかった。ファーウェイは中国の経済回復を十分に利用し、スマホ事業の成長を確保した」と述べる一方で、「スマホメーカーは一刻も早くコロナ後のニューノーマルに対応しないといけない。外出制限やロックダウンが緩和された後に店舗を増やしているケースもあるが、客足は伸びていない。メーカーは第2波を見据え、販売ルートを見直すべきだし、政治リスクにも対処しなければならない」と指摘した。
アップルはコロナ前の戦略見直しが奏功
2019年9月に発表されたiPhone 11は中国で売れに売れている。
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ファーウェイとサムスンが、地域セグメントで明暗を分けたなら、2019年にiPhoneの戦略を調整し、コロナ禍を追い風にできたのがアップルだ。
CanalysによるとPhoneの4-6月の出荷台数は同25%増の4510万台。調査会社3社によって数字は違うものの、グローバル上位5社の中で、アップルが際立って好調であることは間違いない。
Canalysのアナリスト、ビンセント・シルキ(Vincent Thielke)氏は「アップルがここまで好調だったのは想定外」とコメントした。
そのアップルは2019年9月に発表したiPhone11シリーズが、中国で久々に大ヒットした。iPhone Xまでは高価格化が止まらず、「価格ほどの価値がない」(中国人消費者)と見限られつつあったが、iPhone Xと価格をほとんど変えず、機能やカラーなどを拡充したiPhone 11は再び中国人消費者の心をつかんだ。「618セール」では、EC各社がiPhone11を目玉商品として割引価格で売り出し、売れに売れた。
また、今春発売されたiPhone SE(第2世代)も、コスパの良さがコロナ禍で財布のひもが固くなった消費者にとって大きな訴求力となった。こちらも中国本土で好調な売れ行きを示し、CanalysによるとiPhoneの4-6月の中国での出荷台数は同35%増の770万台に達した。
新型コロナウイルスの影響で、アップルは新iPhoneの発表を例年より1カ月遅い10月に後ろ倒しすると報じられているが、発表の遅れによる穴もiPhone SEが一定程度埋めると期待されている。
中国で売れたスマホの3分の1が5G端末
4-6月に中国で売れたスマホの3分の1が5G端末だった。
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2019年から2020年にかけて、一部の国で商用化が始まった5Gスマホ。こちらもコロナ禍から抜けきれない他国を尻目に、中国では普及が始まっている。
Counterpointによると、中国のスマホマーケットで出荷された5G端末の比率は、2020年1-3月に16%だったのが、4-6月に33%に急増。6月単月だと40%に達した。また、4-6月に中国で出荷された5Gスマホの6割はファーウェイブランドで、「5Gネットワークの整備が進み、(ファーウェイの)Mate 30とP40シリーズが好調だった」(Counterpointのリサーチアナリスト、モンモン・ジャン氏)という。
一方でジャン氏は「中国メーカーと通信キャリアが5Gメーカーを猛プッシュし、世界で最も普及ペースが早いとは言え、マーケットの縮小を完全に埋めるまでには至らない」とも指摘。
5Gスマホマーケットは初期段階にあり、端末価格も4~5万円台が主流だ。ファーウェイはハイエンド端末路線を維持するようだが、シャオミなどは今後低価格の端末を発売することで、シェア拡大を目指している。
「第2波」「ニューノーマル」見据えた体制急務
ファーウェイの新スマホの発売日、上海の店舗で列を作る購入者たち。2020年6月24日
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Canalysのアナリスト賈沫氏は「ファーウェイは4-6月期に首位を奪取したことで、消費者、部品サプライヤー、開発者にブランド力を見せつけ、サプライヤーに取引を続ける説得材料を提示できた。これは大きな意味がある。とはいえ、欧州などで通信キャリアがファーウェイ端末の採用を控える動きが広がり、コロナが収束するとファーウェイの優位性は消失する」と分析した。
Canalysのスタントン氏は「4-6月期は各国の経済対策・消費刺激策の恩恵もあったが、そこに向けられる資金は減っていくだろうし、大型休暇も外出制限が発動される可能性があり、今後数カ月は試練が続く」と述べた。
8月に入っても、コロナ禍は収束するどころか世界は第2波に襲われている。現在は全力でクラスターを抑え込んでいる中国も、「今年の秋・冬に第2波が来る」と警戒している。外出自粛制限でPCやタブレットの需要は急拡大しており、スマホメーカーはニューノーマル時代に合わせて多方面の戦略調整を迫られている。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。