在宅勤務で「熱中症リスク」増加も。本格的な夏到来に要注意

水分補給

水分補給は、熱中症対策では必須だ。

hanapon1002/Shutterstock.com

8月になり関東甲信越地方でもやっと梅雨が明けて、夏の強い日差しが射し込むようになってきた。

これからの季節、新型コロナウイルスの感染対策とともに気をつけなければいけないのが「熱中症」だ。

外出などを控える感染対策としての新しい生活様式での暮らしでは、一見すると熱中症リスクは低そうだ。しかし、外に出ないことでかえってリスクが高まる側面もある

日本気象協会で「熱中症ゼロへ」プロジェクトのリーダーを務める曽根美幸さんと、帝京大学医学部で救急・集中医療を専門とする三宅康史教授に、新しい生活様式ならではの熱中症リスクについて話を聞いた。

(※本記事は、2020年6月2日に掲載した熱中症の記事を元に、追記・アップデートして再掲しています)

熱中症になるとどうなる?

夏の日差し

BLACKWHITEPAILYN/Shutterstock.com

私たちの体の奥深くの温度は、さまざまな仕組みによって37℃程度に維持されている。

例えば、体温が上がれば自然と汗をかくが、この汗が蒸発したときに熱が奪われ、体温が下がる。

また、暑くなると皮膚の近くにある毛細血管が広がる。皮膚の近くの血管に運ばれてきた熱い血液は、外気で冷やされ体の奥深くへと戻っていく。これも体温を下げることにつながる。

汗をかいたり、毛細血管を拡張させたりするのは、自律神経の働きによるものだ。

しかし、気温が高すぎると、皮膚の近くにある毛細血管を介して熱を体の外に逃しにくくなる。さらに、湿度が高く風も弱いと、汗が蒸発しにくくなるので、体に熱が留まりやすくなってしまう。

また、暑さから汗をたくさんかくと、体から水分や塩分などが失われ、脱水状態になってしまう。脱水状態になると血液の量も減るため、血のめぐりを利用した体温調整の効率も落ちてしまう。

加えて、血液の量が減ると、脳や肝臓などさまざまな器官に血液が十分に行き渡らなくなるため、意識を失うなどの機能障害が起きたりすることもある。塩分濃度の低下は、筋肉のけいれんも引き起こす。いわゆるこむら返りだ。

こういった一連の症状があらわれるのが、熱中症である。

子どもや高齢者、既往歴がある人は薬の影響で熱中症になりやすい

子連れ

大人は大丈夫でも、小さな子どもには堪えられない場合もある。子どもを連れて外出する際には、より注意が必要だ。

撮影:今村拓馬

特に熱中症になりやすいとされているのは、体温調節の機能が十分に発達していないうえ、体が小さく、保有している水分の少ない子どもや、同じく体温調節の機能が衰え、体内にある水分も少なく、さらに体調の変化に気づきにくい高齢者だ

ただし、働き盛りの年代でも、糖尿病や高血圧、心不全、内分泌疾患、精神疾患、広範囲の皮膚疾患などの既往歴のある人は熱中症リスクが高いことが知られている。

「これらの病気を抱えている人たちは、体温調節があまりうまくできない状態といえます。また、心臓疾患のある人は普段から水分や塩分制限を行ったり、利尿薬を飲んだりしています。精神疾患の人の中には汗を抑える作用のある薬を飲んでいる人もいます。持病を悪化を防ぐための薬や生活習慣が、結果的に熱中症リスクを高めてしまう側面もあります」(三宅教授)

既往症がなくても、肥満傾向にある人はもちろん、運動不足だったり、生活リズムが乱れていたり、普段あまり汗をかいていないような人は、体温調節の機能がうまく働きにくく熱中症リスクが高いといえる。

熱中症の約4割が住居内で起こる

熱中症発生場所グラフ

熱中症は、外出中に強い日差しがあたることで起きるイメージが強いが、室内でも温度が高ければ十分危険だ。

出典:「熱中症ゼロへ」プロジェクト

感染対策として在宅勤務をしたり、不要不急の外出を避けたりする「新しい生活様式」で過ごす今年の夏は、単純に考えると熱中症リスクは減りそうだ。

しかし、決して油断していいわけではない。

実は総務省消防庁によると、 2019年5〜9月の熱中症による救急搬送者数のうち38.6%が「住居内」での発生となっている。

室内での熱中症患者は、エアコンをつけずに家にこもっている高齢者が多い。 室内にいても熱中症になるリスクがあるということだけは頭に入れておいたほうがよいだろう。

「新しい生活様式」の熱中症リスク

夏

リモートワークなどで外出しない日が続いたあと、急に外に出るときには、体が外の暑さに慣れていない可能性を十分に考慮しておいたほうがよいだろう。

撮影:今村拓馬

また、コロナ禍の夏は、別のリスクも伴う。

例年のように仕事などで毎日のように外出していれば、日常的に汗をかくし、季節の移ろいとともに日々上がっていく気温に体が自然と慣れていく。しかし、2020年は春からの「新しい生活様式」による外出の少ない暮らし方によって、日常的に汗をかいてこなかった人が増えている可能性が高い。

体も気温の変化に慣れていないため、久々に通勤などで外出すると、突然の暑さに直面することになる。

実は、これが大きなリスクとなる。

暑さに慣れていないため、外出時に急に温度が上がっても自律神経による発汗や皮膚近くの毛細血管を広げて血流を増やすといった温度調整がうまく機能せず、例年よりも熱中症になりやすくなっている可能性があるのだ。

また、外出の自粛によって、運動不足はもちろん、生活習慣が乱れている人も増えている。

酒

居酒屋などが休業に追い込まれる一方で、オンライン飲み会などで酒量が増えた人も多い。

Terence Toh Chin Eng/Shutterstock.com

例えば、学校や学童、保育園、幼稚園に子どもを預けることができず、日中は子どもに手を取られ、仕事は早朝や深夜に行わざるを得なかった人は多い。このような生活ではどうしても寝不足になる。また、在宅で仕事をしていると、つい食事の時間が不規則になったり、栄養バランスがおざなりになったりしがちだ。

寝不足や栄養バランスの乱れは、体温を調節する機能の衰えにつながり、熱中症リスクを高める。

ストレスフルな自粛生活の影響で、アルコールの消費量が増える傾向にあることも指摘されている。これも熱中症リスクが高くなる要因の一つといえる。

アルコールには利尿作用があるため脱水状態を促すうえ、体温をあげる作用もある。二日酔いになると、体が弱っているため、熱中症リスクは高いといえる。アルコールを飲むときには、十分な水もいっしょに飲むように意識するとともに、翌日に体調がすぐれないときは、無理に外出するなどの熱中症リスクが高い行動をしないことも大切だ。

今年の夏は「熱中症になりやすい」という前提で

エアコン

室温には十分注意しよう。

Butsaya/Shutterstock.com

では、「新しい生活様式」では、どのようなところに注意すべきだろうか。日本気象協会の曽根さんは、こう語る。

まず、自分が過ごす部屋がいつごろ暑くなるのかを把握してほしいです。通勤していたときは、1日中家にいるわけではなかったので、日中の日当たりの良さを把握できていないものです。気づいたら室温が上がってしまっていることを避けるためにも、適宜室温調節をできるようにしたほうがよいでしょう」

天気予報などでも熱中症の危険度を知ることはできるが、あくまでそこに表示されているのは「自宅付近」の「屋外」の気温だ。屋内は建物の構造や日当たりなどで温度や湿度が大きく変わってくるので、室内の環境は自分で観測しておきたい。

ほか、規則正しい生活リズムや栄養バランスのとれた食生活を心掛け、こまめに水分をとるなど、「自粛生活で熱中症になりやすい体になっている」という前提に立って過ごした方がよいだろう。

特に入浴時は換気をよくしたうえでゆっくりと湯船につかり、発汗を促して汗をかくことに慣れることも熱中症予防に役立つという。

外出時のマスクは、熱中症リスクを高めるのか?

マスク

街を歩くと、ほとんどの人がマスクをしている。夏に向かい気温や湿度が上昇してくると、口元に熱がこもり、体調不良になってしまわないか懸念される。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

新型コロナウイルスの感染予防のために、マスクを着用して外出している人は多い。

マスクをして口元に熱がこもると、熱中症のリスクも上がりそうだ。

「マスク着用が本当に熱中症のリスクをあげるのかどうかは、今のところはっきりとしたことはわかりません。ただ、長時間マスクをつけたまま屋外にいたり、スポーツをしたりするのはやはりよくないと思われます。


混雑しているところではマスクを着用したほうがよいのでしょうが、こまめに三密を避けた場所に移動してマスクをはずし、新鮮な空気を吸って水を飲むようにしてください。今年の夏は新型コロナウイルスの感染と、熱中症の両方を予防するために、例年よりも丁寧な配慮が求められると思います」(三宅教授)

感染予防のためにマスクで口を塞ぐのは仕方がないとして、そこで水分補給をおろそかにして熱中症になってしまっては、元も子もない。

一気に始まった本格的な夏。

例年通りの熱中症対策はもちろんだが、今年は、特に注意すべきと肝に銘じておいた方がよいだろう。

文・今井明子、監修・曽根美幸、三宅康史、編集・三ツ村崇志

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み