エヌビディア(Nvidia)のアーム(Arm)買収検討を報じたフィナンシャル・タイムズ(7月31日)。
Screenshot of Financial Times
- エヌビディア(Nvidia)がソフトバンクグループからアーム(Arm)を買収する。買収金額は最大400億ドル。
- 実現すれば、エヌビディアの半導体市場におけるリーチは間違いなく広がり、インテルやAMDのような競合にとってさらなる脅威になると、業界に詳しいアナリストたちは指摘する。
- ただし、この買収は競争当局の厳しい審査を受けねばならない上、アームの既存顧客との関係を毀損する可能性もある。
- 「競争当局と顧客からかなりの反発が予想される」米運用大手バーンスタインのアナリストはそう指摘する。
米半導体大手エヌビディア(Nvidia)が、ソフトバンクグループから英半導体設計大手アーム(Arm)を最大400億ドル(約4兆2000億円)で買収すると発表した。
半導体産業に詳しいアナリストたちは、規制当局の承認などを経て買収が実現すれば、エヌビディアは産業の見取り図を変えるゲームチェンジャーになれるとの意見で一致している。
アームを買収できれば、エヌビディアはきわめて価値の高い知的財産(IP)にアクセスし、サーバーやスーパーコンピューターを含む新たな市場に打って出ることができるという。IT専門の調査会社IDC社長のクロフォード・デル・プレーテはBusiness Insiderの取材にこう語っている。
「エヌビディアが買収を実現させれば、市場で大きな力を手にすることになる。数量の観点からいって、ほぼ間違いなく地球上で最も使われているCPUアーキテクチャである、アームのソースコードを手中に収めるのだから」
エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)。
REUTERS/Rick Wilking
アームは電力効率の高いチップアーキテクチャを開発し、モバイル市場で大きなシェアを獲得。いまやインテルをしのぐ半導体大手としての地位を得た。アームベースのチップはデータセンター分野でも重要な役割を果たしている。
クリエイティブ・ストラテジーズのアナリスト、ベン・バジャリンは次のように指摘する。
「アーム買収によって、エヌビディアもたびたび利用してきたIPロードマップを直接コントロールできるようになる。多くの関係者が予測してきたように、エヌビディアのサーバー向けCPUへの進出に際して活用できる可能性がある」
また、半導体市場を専門とする調査会社インサイト64のネイサン・ブルックフッドによれば、アームベースのプロセッサはハイパフォーマンスコンピューティング分野で導入が続いており、エヌビディアはアームを傘下に置くことで同分野でのポジションを強化できるという。
「エヌビディアとアームの統合によって、より強力なスーパーコンピューターが誕生するだろう。それは競合するインテルにとって、もちろんバッドニュースだ。エヌビディアがシェアを拡大すれば、インテルは(巻き返しのため)投資が必要になるからだ」
「両社の統合はアームベースのPCがますます増えることを意味し、インテルとAMDへの甚大な影響が予想される」(ブルックフッド)
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。同社の財務状況から考えると、アームを手放す選択肢は十分考えられる。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
ただし、買収を成立させるのはエヌビディアにとって至難の業だとアナリストらは指摘する。IDCのデル・プレーテの見方は次のようなものだ。
「アーム買収によってエヌビディアの市場における力は高まる。それによって、正当な競争と反トラスト(独占禁止)が守られているか、疑問が投げかけられることになる」
とくに昨今は、アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルというテック大手のCEOが米議会下院司法委員会の公聴会に呼び出されるなど、半トラストをめぐってテクノロジー業界が当局や世間の監視の目にさらされている最中で、非難を浴びやすい時期ともいえる。
バーンスタインのアナリスト、ステイシー・ラスゴンは、「競争当局と顧客からかなりの反発が予想される」と強調する。
アームは業界大手も含むさまざまなチップメーカーに技術をライセンス供与し、ロイヤルティ収入を得ている。
「アームが提供する価値は顧客ごとに異なる。したがって、アームのある顧客企業が同社を買収したとして、他の顧客が喜ぶ事態はとうてい想像がつかない」(ラスゴン)
インサイト64のブルックフッドもラスゴンの見方に同調し、アームの独立性の問題を指摘する。
「アームはいま、業界のなかで『ニュートラルな』ポジションにいる。ところが、エヌビディアの傘下に入れば、『アームのポリシーや設計戦略はあくまで顧客や半導体市場のパートナーを利するもので、(親会社の)エヌビディアを利するものではない』と言ってみたところで、絶対信用しないだろう」
だからこそ、エヌビディアはアームを買収しても、「少なくとも当面は取引関係のあるサプライヤーをつなぎとめておくため、別の事業体として独立性を維持する」とIDCのデル・プレーテは予想する。
クリエイティブ・ストラテジーのバジャリンも「もし独立性を維持できるスッキリした方法があるなら、うまくいくかもしれない」とデル・プレーテの意見を支持する。
(翻訳・編集:川村力)