属性でなく、個性を見る /グループでの対話を通して「普通」を問うカード[前編]

カード

「ふつう」は何のためにある?

「自由に生きる」ってどういうこと?

男性は何を背負っている?

「女の子らしい」ってどういうこと?

生まれ持った性別のために、あきらめないといけないことがある?

そんな問いが書かれた、105枚のカード。それぞれの問いは、どれも素朴なようでいて、いざ答えを出そうとすると、はたと思考が止まってしまう。今までの人生で、こんな問いと向き合ったことがはたしてあっただろうか?

これは、2020年6月に発売された「ソジテツ(SOGI哲)カード」。説明書きには「人生・性・性別にまつわる、対話を生むツール」とある。SOGIとはSexual Orientation and Gender Identity(性的指向と性自認)、つまりどの性別を好きになるか、自分の性別をどう認識しているかの略だ。

カードはどのような意図で開発されたのか。どのような場面で使われるものなのか。開発者で一般社団法人ウェルビーイングコミュニケーションラボラトリー(通称WBCラボ)代表理事のおおばやしあや氏に話を聞いた。

PLOFILE
おおばやしあや:一般社団法人ウェルビーイングコミュニケーションラボラトリー代表理事、フィンランド国家認定ソーシャルワーカー。IT企業に勤めたあとフィンランドの職業大学を受験。ソーシャルサービス学科在学中に”多様性を受容し協働を目指す安全な場作りが可能になる”コミュニケーションカードツール「Cx3BOOSTER」「Cx3mini」を開発し好評を得て、二国同時に起業することに。2016年から日本へ居を移したのちは、開発したツールを用い大手企業や大学で講師をつとめる。得意分野はウェルビーイング、コミュニケーション、ダイバーシティ。「みんなの自然体をエンパワーする」という信条のもと、メンバーに声をかけテツラボを立ち上げた。

人を属性で捉えたときに、差別は起こる

おおばしさん

一般社団法人ウェルビーイングコミュニケーションラボラトリー代表理事のおおばやしあや氏。

おおばやし氏が、カードツールを開発したのは、今回が初めてではない。フィンランドに留学中だった2015年にも、コミュニケーションを促進するカードツールを制作している。そもそも、なぜフィンランドに?

「IT系企業でデザイナーとして働いていた2003〜2009年ごろの経験がきっかけです。コミュニケーションが苦手な人や『こうあるべき』から少し外れた人が、組織の中で能力を認められずに抑圧され病んでいく姿を見て、これはおかしいぞと思った。そんな折、フィンランドを旅行する機会がありまして、教育や幸福度が世界最高水準とされる社会を学んでみたいと思ったんです」

猛勉強の末、フィンランドの職業大学を受験し、ソーシャルサービス学科に見事合格。5年間で広く社会福祉を学んだ。

アイデアピッチ

フィンランド留学中、スタートアップ向けのイベントでアイデアピッチに参加した。

あるNGOとの共同プロジェクトに参加したときのこと。人種差別を防止するためのカードゲームをつくるよう依頼を受けた。

「差別ってなんで起こるんだろう、と改めてじっくりと考えました。すると、人種、宗教、性別、年齢といったカテゴリ(属性)や、そこにかかるバイアス(偏見)に対して起こるんだと気づいた。そこで、属性ではなくその人の個性を見るコミュニケーションができたら差別を減らせるんじゃないかなと考えたんです」

ケンブリッジ大学

英ケンブリッジ大学でも「Cx3BOOSTER(シースリーブースター)」のテストプレイとプレゼンテーションを行った。

そうして生まれたカードツール「Cx3BOOSTER(シースリーブースター)」には、「これまで人にしてもらったことで一番うれしかったことはなんですか」「あなたがもし一国の王だったら、どんな法律を大事なものとして定めますか」など、「その人の大切なものに優しく踏み込むような」42の問いが並ぶ。少人数でグループをつくり、それぞれの答えをシェアしていくうちに、「何かしらその人の人生の素敵なところをピックアップする」コミュニケーションが生まれるしくみだ。

英ケンブリッジ大学でもプレゼンテーションを行う機会に恵まれ、「このカードはチームビルディングにも最適だね」とのお墨付きを得た。さらに日本での製品化のため、クラウドファンディングで資金を募ったところ、目標額を3日で達成。製品化されると、ダイバーシティ&インクルージョンの研修やチームビルディングのためのツールとして、企業や大学、医療機関などからの導入依頼が相次いだ。

『会議の前に取り入れると議論が盛り上がる』『普段あまりしゃべらない人がとても素敵なことを言っていて、見直した』など、ポジティブな声を多く頂きました。カードを使って対話することで、学歴や役職といった属性をいったん横に置いて、大切にしている価値観を互いに知ることができるんです」

管理職研修

企業での管理職向けワークショップの様子。「Cx3BOOSTER」を使うと、役職や立場を超えたコミュニケーションが生まれ、短い時間で互いの距離感がグッと縮まる。

ジェンダーの問題を「自分ごと」にするには?

「企業でLGBTQ研修をしても、一方通行になりがち。あやさん、なんかいいアイディアないかな?」

日本に拠点を移して「Cx3BOOSTER」を使った研修などを展開していた2017年、おおばやし氏は友人の増原裕子氏から相談を受ける。LGBTQアクティビストとして、様々な企業で研修を行っていた増原氏だが、LGBTQに関する理解を促進するだけでは「マジョリティ」と「マイノリティ」の分断を取り除けないのでは、というもどかしさを抱えていた。

「真のダイバーシティ&インクルージョンとは、みんなが自分ごとでなければならないもの。性的マイノリティについての知識を教えるのではなく、どんな性別が好きだとか、自分はどんな性別を自認しているか、というSOGIを扱えば、みんなが当事者としてジェンダーの問題に向き合えるはず」

そう考えたおおばやし氏は、SOGIについての対話を生むカードゲームの開発を思い立つ。

※後編に続きます。

写真提供・一般社団法人ウェルビーイングコミュニケーションラボラトリー 取材、文・中村茉莉花(MASHING UP編集部)

MASHING UPより転載2020年07月20日公開

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